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カラオケシリーズ01-07

拍手SSの中からひとつずつ見るのも面倒なのでまとめ。








『カラオケシリーズ01』


「あ~いつはあいつは可愛い~♪」


 ん、と外から聞こえてきた歌声に霖之助は顔を上げた。
 聞き覚えのある、よく通る声。
 だんだんと近づいてくる。


「としし~たのオトコノコー♪」
「やあ、いらっしゃい。ずいぶんご機嫌だね」
「うふふ、そう見える?」


 ドアを開け、店に入ってきた幽々子の笑顔に、霖之助は常連用の顔で応えた。
 もっとも、彼女の場合いつも笑顔なのだが。


「今日はお供は連れてないのかい?」
「妖夢ねぇ~、昨日ちょっとはしゃいじゃったから、まだ寝てるのよ」
「……寝てる?」


 主人を放っておいて寝てるとはなんという従者だろうか。
 と思ったが当の主人が大して気にしていないようだ。


「さっきまで紫たちと徹夜でカラオケしててね、疲れとお酒でダウンしちゃったみたい」
「カラオケ……」


 確か外の本で見たことがある。
 機械から流れる音楽に合わせて歌う娯楽の一種だ。

 あいにく体験したことはないが、さすがと言うべきか、幽々子の話によると妖怪の賢者の家では日常的に行われているらしい。


「そう、ちょうどこんな感じの機械が動いてたわ~。紫の家のはもっと大きかったけど」
「……ほう」


 幽々子が指さしたのは、ラジカセと呼ばれる外の道具だった。


「それで……」
「どうやって動いてたかは知らないわよ」
「……そうか」


 肩を落とす霖之助。
 ただ、もし紫から説明を受けたとしても、幽々子は霖之助に何も教えないのではないか。
 そんな気もしていた。


「それで、さっきの歌に繋がるわけか」
「ええ、そうよ~。とっても楽しかったわ」
「……意外だな。君はもっとゆったりとした歌を好むと思っていたのだが」
「あら? 楽しむのにそんなこだわりは必要無いのではなくて?」
「それもそうだな」


 まったく、この亡霊の楽しむことにかけての貪欲さには頭が下がる。
 幽々子と霖之助はたまに酒を呑む間柄だったが、その度に新たな物の見方を教えられ内心舌を巻いていた。


「それでね、今日はのど飴を買いに来たの」
「のど飴?」
「そう、妖夢の声が枯れちゃっててね」


 半人前なんだから、と幽々子は笑う。
 その笑顔には、部下を思いやる優しさが含まれていた。


「君は平気なんだな」
「歌は嗜みですもの」


 それでも徹夜で歌うというのは相当体力を使うはずだが。
 別腹ならぬ別体力なのだろうか。
 ……そんな事を考えていると、幽々子が不思議そうに首を傾げた。


「いや、なんでもない。
 のど飴ならそこの棚に入っているよ。
 好きなのを選ぶといい」
「わかったわ~」


 ふわふわと棚に移動する幽々子。


「さびしがりやで~生意気で~」


 商品を物色しながら、彼女は歌を口ずさんでいた。
 聞き慣れない、だけど心地よいメロディーに、霖之助は思わず聞き惚れる。

 やがて選び終わったであろう彼女と目が合った。
 のど飴を選ぶのにそう時間はかからない。

 歌が途切れてしまい残念そうな表情を浮かべる霖之助に、
幽々子は本気とも冗談とも、歌の歌詞とも彼女からの問いかけとも取れる言葉を続ける。


「私の事、好きかしら? はっきり聞かせて」





『カラオケシリーズ02』


「くたばっちまえ、ア~メン♪」
「……物騒な事を言うね」


 スキマから上半身を出した少女の言葉……いや、歌詞だろうか。
 戸惑う霖之助に、紫は胡散臭い笑みを浮かべる。


「コンニチワ、霖之助さん」
「お客だったらいらっしゃい。
 そうでないのなら邪魔しないでくれないか。今いいところなんだ」
「つれないのね」


 つまり客ではないということか。
 霖之助はため息を吐き、視線を本に移そうとして……ふと、視線を紫に戻す。


「……またカラオケ、というやつかい?
 ずいぶん剣呑な言葉だったが」
「ええ、そうなのよ。
 ちょっと前の曲なんだけどね」


 紫のちょっと前がどれほどのものかわからなかったが、ちょっと前と言うからにはちょっと前なのだろう。
 彼女は思い出すように眼を細め、歌詞を口ずさみ始めた。


「愛の誓いは耳をふさいでるの」


 紫の声はよく通り、さほど大きい声でもないのに耳に届く。
 しかし可愛らしい曲調と対比するような歌詞に、霖之助は思わず首を傾げた。


「指輪の交換は瞳をとじてるの」


 ……ずいぶん歌い慣れているのだろう。
 伴奏などなくてもきちんと歌になっていた。


「あなたから指輪を受ける日を鏡に向い夢見てたわ」
「紫」


 だんだんと危険な情念がこもってきた気がするので、霖之助は慌てて紫を呼び止める。
 彼女の瞳に危険な光が宿ったままなのが気になったが。


「最近幽々子が私に歌えってやけに勧めてくるの。
 霖之助さん、もしかして幽々子と何かあったのかしら」
「……何かもなにも、僕はその曲を知らないからなんとも言えないな」


 どこからともなく取り出した扇子で口元を隠し、紫はじっと霖之助を見つめる。
 ……やがて諦めたのか、ゆっくりと息を吐いた。


「……まあいいわ」


 霖之助は内心胸をなで下ろす。
 そして話題のカラオケというものが気になり始めていた。


「カラオケというものは楽しいものだと聞いたのだが」
「そうよ。カラオケはね、歌を歌うのよ」
「ほう。それは……風流だね」


 納得したように頷く霖之助に、紫は苦笑して首を振った。


「たぶん、いえ間違いなく霖之助さんの想像してるのとは違うわ」
「そうなのかい?
 そう言えば、幽々子もそんな事を……」
「幽々子が来たの?」
「ああ……部下のためにのど飴を買いにね」


 それだけだよ、言う霖之助。


「……あの子、そんなこと一言も言わなかったわね……」


 すいっと紫がスキマごと移動してきた。
 紫の瞳が目と鼻の先で光る。


「……まあいいわ」


 今度のその言葉は諦めではなく、継続の意を示していた。
 逃がさないから、と物語っている。


「霖之助さんは、歌は上手かしら?」
「どうだろうね。人前で歌ったことなどないし。
 君の歌う歌のようなものはわからないからね」
「あら、じゃあ試しに聞いてみたらどうかしら」


 そう言って紫は懐から小さな箱を取り出した。
 香霖堂にあった音楽プレイヤーと似たようなもののようだ。

 本体からケーブルが伸びていて、紫はその片方を自らの耳に入れた。
 そしてなにやら操作する。

 やがて彼女は、本体から伸びたケーブルのもう片方を霖之助の耳へと入れてきた。
 イヤホンというらしい。
 用途は音楽を聴くもの。


「ほら、こういう歌を歌ってるのよ」
「ほう……」


 音楽プレイヤーから聞こえてきたのは確かに音楽だった。
 こうやって使うのか、と感心してみたところで残念ながら香霖堂にあるものとタイプが違うため、同じようには動かせないだろう。
 見たところ、パーツも足りないようだし……。


「上手く真似ればいいのかい?」
「いえ。楽しめれば上手い下手はいいのだけど。
 そうそう、こういう歌もあってね」


 紫と霖之助は身体をくっつけるようにして、イヤホンから流れてくる音楽を楽しんだ。





『カラオケシリーズ03』


「き~みは誰とキスをする~?」
 私? それとも」
「私?」


 スキマ妖怪と亡霊の姫に挟まれ……霖之助はため息を吐いた。


「まず前提が間違っている、と言わざるを得ないね」


 読んでいた本を閉じ、顔を上げる。
 最近すっかり常連になっていたが、ふたり一緒に顔を出すのは久し振りのことだった。


「またカラオケかい?」
「ええ、そうよ」
「楽しいわよ~。
 ね、紫」


 毎度のことながら、徹夜明けでテンションが上がっているらしい。
 まったく、暢気なことだ。
 ……それだけ幻想郷が平和と言うことだろう。


「大声出して歌うのは、ストレス発散にはもってこいよね」
「そうか、やはり妖怪の賢者ともなればそれだけの責任があるのだな」
「あら、それだと私がストレスと無縁みたいじゃない」
「……溜まってるのかい?」
「さぁ、どうかしら」


 首を傾げる霖之助に、幽々子は艶美に微笑み返す。
 何か気の効いたセリフで返そうと、口を開きかけ……。


「愛するより求めるより……疑う方がずっとたやすい……」


 呪詛のように響く、紫の声で遮られる。


「……紫。ここはカラオケボックスではないよ。
 そもそも君たちは何か買いに来たんじゃないのかい」
「そうね、そうだったわ」


 思い出したように、彼女は微笑んだ。
 ……まだ、目は笑っていないが。


「今日は新曲を探しに来たのですわ」
「新曲? 君がかい?」
「あら、だって外の世界で買うより、価値のわかっていないこの店で買う方が安いんだもの」

 言って紫は扇子を開き、口元を隠す。

 見えなくても、胡散臭い笑みを浮かべていることが容易に想像できた。
 どこまで本気かはわからなかったが、聞いても答えないだろう。


「……音楽関係ならあそこの棚にあるから、好きに見ていくといい。
 新しいものがあるかはわからないが……」
「ええ。そうさせてもらうわね」
「私たちが知らない歌なら、古くてもそれは新曲なのよ~」
「それに歌いたい歌じゃないと、ね」


 なるほど、確かにその通りだ。
 歌うために覚えて初めて新曲となるのだろう。


「ねえねえ紫、この歌妖夢にどうかしら」
「私はそっちよりこっちのほうがあってると思うけど……」


 ふたりは従者の分も探しているらしかった。
 好意か、それとも遊んでいるだけか。

 わからなかったが、売れるのならそれに越したことはない。


「……しかしデュエットも出来るんだな、君たちは」
「あら、もしかして霖之助さんも一緒に歌いたいのかしら」


 霖之助の言葉に、紫は艶然と微笑みを浮かべる。


「私はいつでも歓迎するわよ?」
「お待ちしておりますわ」


 ふたりに笑みを向けられ、霖之助は思わず言葉を詰まらせた。

 興味がない、と言えば嘘になるが……。


「……考えておくよ。
 君がその道具の使い方を教えてくれるならね」
「そうね」


 帰ってきた言葉は、やはりいつもの紫だった。


「考えておくわ」





『カラオケシリーズ04』


「あなただけ見つめてる~。
 出会った日から今でもずっと」


 香霖堂に歌声が響く。
 すっかり最近ではおなじみとなった光景だ。

 幽々子は楽しそうに口ずさみながら、香霖堂の商品棚を物色していた。
 手に取っているのはCDやMDだ。
 使い方のわからない霖之助にとって無用の長物でしかないが、最近よく紫や幽々子が買っていく。


「あなたさえそばにいれば……
 他に何もいらない」


 彼女の歌は何か惹き付けられるものがあった。
 何となくその様子を眺めていた霖之助と、幽々子の視線がぶつかる。

 いつの間にか見つめていた気恥ずかしさを隠すように、霖之助は声を上げる。


「君にそこまで想われたなら、相手は幸せだろうね」
「あらそう?
 褒めたって浄水器は買わないわよー」
「素直な感想だよ。
 ……そもそも、浄水器を売りつけるつもりはないね」
「じゃあ他のものなら売りつけたのかしら」
「……やれやれ。
 店主として信頼がないのかね、僕は」


 霖之助は心外そうに、しかし残念そうにため息を吐いた。
 幽々子はその様子を見てますます笑みを深める。

 ……まったく、彼女もあの少女も、こちらの考えをすべて見透かされている気がするから困る。


「この前神社でカラオケをしたのよ」
「ほう? 霊夢たちとかい?」
「ええ。鬼も吸血鬼もいたからつい。
 でもさすがに知らない歌を歌うのは難しいようねぇ」
「それは……そうだろうね」
「だからこうやって、歌を広めようとしてるの」


 そう言って幽々子は手の中のCDを広げた。

 ……再生機器はどうするというのだろう。
 カラオケ教室でも開くのだろうか。


「今度大会でも開催しようかしら。
 夜雀や騒霊も呼んで……うふふ。
 生バンド付きのカラオケなんていいわよねぇ」


 聞かれたところで答えようはないのだが。
 幽々子はひとり満足そうに頷くと、物色を再開した。

 霖之助も手元の本に視線を落とす。

 BGMは幽々子の歌声。
 なかなか悪くない時間だった。


「髪も服も目立たなく。
 お料理も頑張るから、
 パーティには行きたいな」


 ふと、視線を感じて霖之助は顔を上げる。
 今度は幽々子が霖之助を見つめていた。
 先ほどとは逆の構図だった。


「嫌悪がってたあの娘とも絶交したわ」


 彼女は笑みを浮かべていた。
 底知れぬ、冥い笑顔。


「あなただけ見つめてる。
 昔みたいに笑わなくなった」


 ぞくり、と霖之助の背中を冷たいものが滑り落ちる。


「……幽々子、まさか……」
「あら、なにかしら。霖之助さん?」


 何を言うべきか、自分でも考えがまとまらない。
 口の中が乾いていた。


「霖之助さん、いるかしら?
 あら、幽々子じゃない」


 にゅ、と顔を出した妖怪の賢者に、思わず霖之助は安堵のため息を漏らす。


「……いらっしゃい、紫」
「霖之助さんがそんなこと言うなんて……どうなってるの、幽々子」
「うふふ。さぁ?」





『カラオケシリーズ05』


「部屋とYシャツと私。愛するあなたのため
 毎日磨いていたいから~」


 香霖堂に歌声が響く。
 すっかり最近ではおなじみとなった光景だ。

 紫はスキマから上半身を乗り出し、楽しそうに口ずさんでいた、

 慣れれば慣れるものだ。
 ……むしろ何となく、無音だと落ち着かない時もある。

 紫は歌も上手いし、声も綺麗だ。
 ただ聞く分には、これ以上のBGMはないのかもしれない。


「時々服を買ってね。愛するあなたのため」


 それに、ただ歌っているだけの彼女に胡散臭さはない。
 いつもこうなら、もう少し歓迎するのだが。


「いつわらないでいて……。女の勘は鋭いもの」


 紫の歌声は優しく耳に届く。
 それは面白がっているようで、楽しんでいるようで。


「あなたは嘘をつくとき、右の眉が上がる~」


 思わず霖之助は眉を押さえた。
 なにもない。当然だ。
 そんな癖も、嘘を吐いた覚えもない。

 その様子を見ていたのか、後ろから笑い声が聞こえてくる。

 ……時々歌にメッセージ性がある気がして、背筋が寒くなるのが困りものだった。
 彼女たちは、ただの偶然と否定するのだが。


「あら、どうしたのかしら、霖之助さん」
「いや……」


 振り向いた霖之助に、紫は笑みを浮かべる。
 こちらもいつもの、胡散臭い笑みだ。
 ……これはこれで安心できるので、やはり慣れというのは恐ろしいものだと思う。


「邪魔したみたいだね。
 続けてくれ」
「あら、むしろ私がお邪魔かしらと思ってたのだけど」
「そんなことはないさ。
 君たちは歌がとても上手いからね。ずっと聞いていたいくらいだよ」
「……君たち、ね……」


 紫は扇で口元を隠し、すっと眼を細めた。


「あなた浮気したら……うちでの食事に気をつけて」


 歌声に情念がこもる……気がした。
 ……寒気がますます増す。

 聞こえてくる声に、変化はないというのに。


「私は知恵をしぼって、毒入りスープで一緒にいこう」


 瞬間、霖之助は箸を動かす手を止めた。

 先ほどからつまんでいたのは、紫がおみやげにと持ってきたイカめしだった。
 恐る恐る、再び紫を振り返る。

 ……変わらず彼女は微笑んでいた。


「どうしたのかしら、霖之助さん?
 まさか、何か心当たりがあるとでも?」
「いや……ちょっと歌が気になってね」


 心当たりなど無い。
 そもそも浮気以前に定まった恋人などいないのだから当然だ。

 ……なのだが。
 この背中に感じる視線はなんなのだろう。


「部屋とYシャツと私。愛するあなたのため
 毎日磨いていたいから」


 紫の声が近くで聞こえてきた。
 そっと肩に重みがかかる。

 どうやら、背中にもたれかかっているらしい。


「だけどもしも寝言で……他の娘の名を呼ばぬように」


 つぅ……っと、紫は霖之助の背中を指でなぞった。


「ねぇ、霖之助さん。
 心当たりなんてないわよね」
「当然だとも」


 胸を張って答える。
 しかし残念ながら、疑惑のまなざしは霖之助を捉えて離さない。

 耳元に息がかかる。


「……本当に?」





『カラオケシリーズ06』


「もうすぐ春ですねぇ
 ちょっと気取ってみませんか」


 楽しげな幽々子の歌声に誘われるように、太陽の日差しが差し込んできた。

 外はこれから冬支度と言ったところだ。
 しかし陽気な亡霊の周囲は暖かく、ここだけ春が来たのかと錯覚するほどだった。


「まだまだ春には遠いと思うが、春の歌というのもいいものだね」
「あら、そうかしら?
 春はすぐそこよー」


 くるくると回りながら、幽々子が歌う。

 霖之助は自分の椅子に腰掛けたまま、手元の本に目を落とした。
 編み物の教本だ。
 最近よく毛糸が手に入るので、冬用の商品として店に並べてみようと考えていたところだった。


「風が吹いて暖かさを運んできました
 どこかの子が隣の子を迎えにきました」


 何を考えているのかわからないところのある冥界の姫君は、歌いながら店内を回る。
 これでもちゃんと物色しているらしい。

 まあ商品を買ってくれるのなら、あまり細かいことを言うつもりはない。


「泣いてばかりいたって、幸せは来ないから
 重いコート脱いで、出かけませんか?」


 春になったら、花見に出かけるのもいいかもしれない。
 霖之助はふと、そんなことを考えた。


「うちにある桜もいいが、どこか出かけるのも悪くないな」
「あら、お花見?」
「ああ。騒がしいのは苦手だが、たまには悪くないなと思ってね。
 まだまだ先の話だが……」


 彼の言葉に、彼女はますます笑みを深める。


「それならとっておきのがあるわよー」
「ほう。それはぜひ案内して貰いたいね」
「ええ。貴方さえ良ければいつでも」


 都合をつけるのは霖之助ではなくて桜の方ではないかと思ったが、あえて考えないようにしておく。
 この少女の考えていることなど、少し考えたくらいではわかりそうにない。
 ……わからないことは、考えない。


「そういえば昔、ずいぶん長い冬があったね」
「そんな事あったかしら?」


 首を傾げる幽々子に、霖之助は違和感を覚えた。
 そこでふと、思い当たる。


「ああ、ひょっとしたら冥界とこっちでは季節が違うのかもしれないな。
 とにかく、冬が長いと大変なんだよ。燃料は減るし冬の妖怪は元気だし……」
「あらあら、大変ねぇ。
 今度そんなことがあったらうちに遊びに来るといいわよ」
「うちって……冥界かい?
 まあ、暖かいなら考えておくよ」
「ええ。いつでも待ってるわ」


 最近冥界との行き来がしやすくなったらしいので、それもありかもしれない。
 もっとも、歩いてホイホイ行ける場所ではないのだろうが。


「もうすぐ春ですねぇ
 恋をしてみませんか」


 陽気に歌う幽々子は、何か見つけたのか商品棚の一角で立ち止まる。
 その様子を確認して、霖之助は机の中から編み棒と毛糸を取り出した。
 こちらはこれから冬に備えなければならない。
 霖之助自身も、店の商品も。


「雪が解けて川になって流れて行きます
 つくしの子が恥ずかしげに顔を出します」


 幽々子の言葉で、霖之助の脳裏に情景が思い浮かぶ。
 春の風景というのは実にいいものだ。
 それがあるから、冬を乗り越えられる。

 ……とはいえ、そこまで冬が嫌いというわけではないのだが。
 寒いこと以外は。


「別れ話したのは、去年のことでしたね
 一つ大人になって、忘れませんか?」
「……別れ話か」


 そこになって、ようやく春という言葉の意味を思い出した。
 なるほど、それなら冬にだって春が来るかもしれない。


「どちらにしろ、まだまだ春は遠いね」
「いいえ。春は来るわよ。だって……」


 いつの間にか、幽々子の声が耳元から聞こえてきた。
 音もなく移動していたらしい。
 ……亡霊だから、それくらいのことは当たり前なのだろう。


「もうすぐ春ですねぇ
 恋をしてみませんか?」
「なっ……」


 頬に押しつけられた柔らかい感触、熱い吐息。
 霖之助は思わず驚愕の表情を浮かべる。


 春。


 幽々子の唇が、やけに紅く見えた。





『カラオケシリーズ07』


「恋人よ~僕は旅立つ~
 東へと向う列車で~」


 霖之助の右隣で、紫が口ずさんだ。
 カウンターの上に頬杖を突き、楽しそうな笑顔を浮かべている。


「はなやいだ街で、君への贈りもの~
 探す、探すつもりだ」
「いいえ、あなた。
 私は欲しいものはないのよ」


 霖之助の左隣で、幽々子が口ずさんだ。
 まるで歌で会話しているかのような光景に、霖之助は戸惑いを覚える。
 もしくは、そういう歌なのだろうか。


「ただ、都会の絵の具に~
 染まらないで帰って」


 霖之助はふたりに挟まれ、紫が持ってきた道具の鑑定を行っていた。

 ひとつは、最新の手巻き式腕時計というものらしい。
 自動で時を刻む技術があるのに、わざわざ手巻きに頼るとはなかなか興味深いことだ。
 装飾も随分凝っていた。


「どうかしら、霖之助さん」
「……ああ、どうやらなかなかいいもののようだね。
 しかしちゃんとした鑑定をするのには少し時間がかかるがいいかい?」
「構わないわよ。
 待ってるから」
「あら、私の方も忘れないでね」
「わかっているよ。
 ……ただ、そっちも待ってもらうことになると思うが」
「ええ、いいわよ。
 どのみちしばらくいさせてもらうから」


 幽々子が持ってきたのは、一振りの刀だった。
 村正、という名のようだ。
 現存するものはほとんど無いと言われる刀だったが、なんと言っても彼女が持ってきた物だ。
 ひょっとしたら刀の幽霊かもしれない。

 そちらはまだ手つかずのままだが、ただならぬ妖気が漂ってくる。
 慎重に鑑定しなければならない。


「恋人よ~半年が過ぎ~
 逢えないが泣かないでくれ」


 再び紫が口を開く。
 幽々子もそれに応えるように、ゆらゆらと揺れていた。


「都会で流行の、指輪を送るよ~
 君に、君に似合うはずだ」
「いいえ、星のダイヤも
 海に眠る真珠も
 きっと、あなたのキスほど~
 きらめくはずないもの」


 ふと、霖之助はふたりの視線を感じた気がして顔を上げる。
 しかし紫も幽々子も、楽しそうに微笑むだけだった。


「……何か言いたいことでもあるのかい?」
「いいえ。作業を続けてちょうだい」
「暇なら店内でも見て回るといい。
 君にとってそんなに面白い物はないかもしれないが……」
「あらあら、大丈夫よ。
 私たち、こうしているだけで十分楽しいもの」
「ええ。その通りね、幽々子」
「それならいいが……」


 あえて霖之助は深く聞かず、作業に戻ることにした。
 わからないことは考えない。

 それが、幻想郷で生きる秘訣である。


「恋人よ~君を忘れて~
 変わってくぼくを許して~」


 紫の歌声は透き通るようで美しく、幽々子の歌声は誘われるような妖しさがある。
 霖之助はふたりの歌声が好きになっていた。
 ふたりいっしょの歌を聴いたのは、随分久し振りのように思う。


「毎日愉快に、過ごす街角~
 ぼくは、ぼくは帰れない」
「あなた、最後の
 わがまま、贈りものをねだるわ」


 しかしどうしてだろうか。
 ふたりの歌は、何となく何かを暗示しているようだった。

 それがなんなのかは、やはり考えない。


「ねえ、涙拭く木綿のハンカチーフ下さい」
「ハンカチーフ下さい」


 ふたりの声が揃い、微笑んだ。
 相変わらず仲のいいふたりだ、と思う。


「ひどい男よね」
「そうそう。恋人を残して旅に出て、そのまま帰らないなんて」
「……ああ」


 霖之助は、背中に汗をかくのを感じていた。
 なんとも言えないプレッシャーを感じる。

 作業中、ずっと感じていたふたりの視線。
 それがさらに重さを増した気がする。


「ところで霖之助さん」


 紫がじっと、霖之助の顔を覗き込んだ。


「霖之助さんは、恋人と夢、どっちが大切かしら」
「どっちが大事かしら」


 幽々子も笑いながら、霖之助へと身体を寄せる。


「ねえ、どっち?」

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道草

Author:道草
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