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冬の道具屋

冬の道具屋に訪れたのは、金色の髪をした女性。
毎日訪れる彼女に、霖之助は興味を持つ。

霖之助 藍








「少し、商品を見せて貰っていいかな?」
「ああ、構わないよ」


 霖之助は入ってきた人影に目を向ける。
 初めて見る客だ。

 金色の髪に、ふたつに分かれた白い帽子を被った美しい女性。
 美しすぎるが故に人間ではないことはすぐにわかったが……霖之助はいつも通り手元の本に視線を戻した。

 香霖堂に一見の客が来ないわけではない。
 ただロクでもない常連が多いだけで。

 本を一ページめくるごとに、思い出したように客に視線を向ける。
 外には雪が降っていたため、最初はストーブ目当ての客かとも思ったが、そうでもないようだ。

 小一時間ほど商品を見たあと、そのまま彼女は帰っていった。
 いつも通りの珍しくもない一日。





 しかし次の日も、その次の日も彼女はやってきた。
 毎日毎日ほぼ決まった時間に商品を見て、帰る。
 特に熱心に見るのは、新しく仕入れた新商品だった。

 香霖堂では冷やかしは大歓迎だ。
 そもそも道具というのは手足の一部にすら代わる可能性を秘めているわけで。
 その場の勢いや、ましてや店員に勧められたからと言って易々と購入するものではない。
 だから霖之助は、客が納得するまで邪魔しないようにしているのだ。
 決してサボっているわけではなく。


「…………」


 無言で商品を見、帰る。
 たまに来ないときもあるが、また次の日にはやってくる。

 不思議と彼女がいる時間は他の客が訪れることはなかった。
 ……元々たいして客が訪れる店でもないが。

 そして霖之助は、いつしか彼女に興味を抱くようになっていた。





「何かお探しかい?」
「うん?」


 初めて声をかけたのは、彼女が店にやってきて一月ほど経ってからだった。


「ごらんの通りこの店にあるのは外の世界の道具だけでね。君みたいな娘がそんなに熱心に見るのは珍しい」
「いや、私は……」
「ああ、無粋なことは言うつもりはないよ。好きなだけ見ていってくれたまえ」


 言うだけ言って満足したのか、霖之助は再び本に戻る。
 この一月でわかってはいたが、あまりにも商売する気の感じられないその行動に、彼女は思わず苦笑を漏らす。


「……そうだな、では商品を選ばせて貰うことにしようか」


 まるで今まで買う気がなかったかのような物言いに、今度は霖之助が苦笑を浮かべた。


「ここに危険な物はなさそうだし」
「……ん?」


 その言葉に何か引っかかる物を感じたが、霖之助はいつも通り気にしないことにする。

 結局その日も、彼女は何も買わずに帰って行った。





 しかしこの日を境に、霖之助は少しずつ彼女と会話するようになっていた。
 興味を持っていたのはお互い様だったらしい。


「今日はいい物が手に入ってね。使い捨てカイロと言うんだ。
 使い捨てというのが気にかかるが、試行錯誤の結果、なんと……」
「振るだけで暖まる、だろう? せっかくなら、貼るタイプがほしいのだが……」
「……驚いたな。いや、たまにそのタイプも見かけるんだがいかんせん数が少なくてね」


 貼るカイロはただでさえ数が少ない上、見つけたら率先して霖之助が使用しているのだ。
 これでは店先に並ぼうはずがない。

 それにしても、彼女は外の世界の道具についてもかなり詳しく、内心霖之助が舌を巻くことも多かった。
 ……悔しいので、表には出さなかったが。


「そうか……。うちに寒がりの猫がいるものでね。冬は炬燵から出たがらなくて困る」
「猫は炬燵で丸くなる、か。冬場の炬燵には抗えない魔力のようなものがあるからね。
 それにしても、炬燵に猫を入れるのは危険ではないのかい? 大丈夫だというのなら、頭のいい猫なんだろうね」
「ああ、うちのは電……いや、そうだな。うん、頭のいい猫だよ。私の自慢だ」


 そう言って嬉しそうに笑う彼女に、つられて霖之助も微笑む。

 幻想郷での炬燵と言えばもっぱら掘り炬燵だ。
 炭を入れて使用するものだが、一酸化炭素などの危険性も伴う。
 それでも使用してしまうのは、やはり何かしら呪術的な要因があるのではないかと霖之助は睨んでいた。


「しかし貼るタイプは人間用だよ。振るタイプなら猫に巻いておけると思うが」
「……それもそうか。ではいくつかいただこう」


 霖之助はここ数日の間に考えを改めていた。
 話の通じる相手なら、商品を薦めるべきだ。
 こういう新たな発見があるから、接客業というものは奥が深い。


「あっちの箱は……店主殿は使わないのか?」
「ああ、あれかい? 外の世界の式神らしいが……動力がなくてね。使えないんだ」
「式神、か」


 ふと、彼女が曖昧な表情を浮かべる。


「興味があるなら……」
「いや、間に合っている」
「そうか」


 霖之助はそれだけ言うと、会話を打ち切った。
 無言の時期が長かったせいだろうか。
 お互い会話がなくても別に気にならない。

 帰るときも来るときも、もう視線を合わせるだけだった。





 そんな霖之助だから気づいた。
 ……彼女の瞳が、春が近づくにつれて陰っていくのを。









 冬も終わりにという頃、霖之助は彼女を縁側に誘った。
 ふたり無言で茶を啜り、裏にある桜の梢を眺める。


「もうすぐ冬が明ける」
「そうだな」


 彼女にしては珍しく、落ち着かない空気が流れていた。


「店主殿、私は……」


 何かを言いかけ、やめる。
 霖之助は彼女の湯飲みに急須でお茶を注ぐと、そっとお茶請けを差し出した。

 今日の日のために作ったお稲荷さんだ。


「来年でも、再来年でも。また、来るといい」
「……気づいて……」
「僕はいつもここに店を開けて待っているよ」


 監視の役目は春で終わるのだろう。
 だがそれもまた、季節のように周り巡るのだから。


「このままずっと、春が来なければいいのに……」
「何か言ったかい?」
「いいや、なんでも」


 お稲荷さんをひとつ摘むと、彼女は嬉しそうに顔をほころばせた。


「では、私はそろそろお暇することにするよ。主が起きる時間だ」


 隠す必要がなくなったのだろう。
 彼女の背中に、九本の尾が広がる。
 その幻想的な風景に、霖之助は一瞬目を奪われた。


「その……楽しかった」
「僕もだ」
「……また」
「ああ、またおいで」


 金色の妖狐を見送り……名残惜しそうにため息を吐くと、霖之助は開店準備をするべく香霖堂へ戻っていった。











「おはよう、藍……ご飯ある?」
「おはようございます、紫様。ええ、ちょうど今できたところです」
「うん、お味噌汁のいいにおい……あら?」


 少しの違和感に、紫は首を傾げた。


「藍、香水付けてる? それに化粧も……」
「ええ、その、せっかく紫様が起きていらっしゃるのですから」
「そう。気にしなくてもいいのに」
「いえ、だって……」


 長い空白。
 あと1年近くの時間。
 ならばせめて、出来るだけのことを。

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