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100年後の恋心

アルバイトをしたい、と妖夢がやってきた。
どうしてもお金が必要だと言うが……。

霖之助 妖夢









 冬も終わり、ようやく春になろうという頃。
 香霖堂に一人の少女がやってきた。


「アルバイトをしたい?」
「はいっ!」


 霖之助はじっと目の前に座る少女を見つめた。
 真面目な顔に意志の強そうな瞳。
 彼女の持つ2本の刀は、彼女の家系にしか扱えないらしい。
 ……と、そんなことを阿求が幻想郷縁起に書いていた気がする。


「お断りだ。出口はあちらだよ」
「うー、そこをなんとかぁ」


 霖之助の言葉に、あっさりと彼女……妖夢の表情が崩れる。


「どうしてもお金がいるんですー」
「給金くらい主人から貰っているだろう」
「……貰ってませんけど」


 まさか、実家の手伝いでもあるまいしと言いかけ……霖之助は考え直した。
 彼女にとってはまだそのレベルでしかないのかもしれない。
 だが労働は労働だ。


「それはいけないな。すぐに主人に掛け合うべきだ」


 そう言って霖之助は出口を指さす。
 暗に帰れ、と言っていた。

 労働者が請求する金とは彼らの仕事に対する尊敬と敬意、彼らがプロであることの証明。
 金額の多少ではなく、それが支払われないことが問題なのだ……と先日読んだ本に書いてあった。
 全く同感である。
 霖之助は今度霊夢たちにも読ませることに決めていた。

 ……もっとも、幻想郷では物々交換や労働力での支払いがまだまだ一般的でもあるため、
一概にそうとも言い切れないのではあるが。


「今回ばかりはそう言うわけにもいかないんですー」
「どうしてだい?」
「どうしてもです!」


 もはや理由になっていない。
 霖之助は面倒事を避けるため、興奮気味の妖夢にとりあえずお茶を勧めることにした。


「あ、どうも」
「そもそも働く場所なら、ここでなくてもたくさんあるだろう」
「と言っても、私はこんななりですし。それに……」


 妖夢は自分の半身……白い霊体を見、そして霖之助に視線を戻す。


「お屋敷の仕事がいつ終わるかわからないので来られる時間もまちまちなんです。
 それで、空いた時間で出来る仕事をですね……」
「……つまり何だね。特別な技術はいらず、気の向いたときにちょっとの時間で出来る……そんな仕事を探している、と」
「いえ、剣術くらいならできますよ?」


 そんな条件でアルバイトをしたいとは、ずいぶん甘く見られたものだ。


「あのぅ……やっぱりダメ、ですか?」


 むしろ何を以て出来ると思ったのかを知りたかった。

 ……そんなことだから半人前と言われるのだ。
 霖之助は常連の少女たちから聞いていた妖夢の評価を思い返していた。


「せめて冬なら、まだ雪かきの仕事があったんだがね」


 残念ながらもう雪はほとんど残っていない。


「うー」


 霖之助の言葉に、涙目で唸る妖夢。
 仕事がないのが嫌なのか、それとも雪かきが嫌なのか。
 その判断はつかなかったが……。


「うん? そうだ……」
「?」


 そこでふと、思い出した。
 彼女が住んでいるのは霊界。
 こっちに来ると言うことは、三途の川も通り道なのだろう。


「週に何回来られるんだい?」
「ふぇ?」
「雇っても忙しくて無理でした、じゃこちらとしても困る。最低何回来られるか、聞いているんだ」
「それじゃあ……?」
「どれくらいお金が必要なのかは知らないが、とりあえず一ヶ月の契約だ。いいかな?」
「は、はい! よろしくお願いします!」









 妖夢の主な仕事内容は、香霖堂と霊界を往復するだけという実にシンプルなものだった。

 途中無縁塚に寄って、外の道具の流れ着き具合をチェックし、霖之助に報告。
 道具が多ければそのまま商品の入荷に同行し、無ければ香霖堂の雑用を担当する。

 ……もとい。
 無縁塚に無縁仏が多ければ、報告することになっていた。


「ああ、その辺はあまり完璧に掃除する必要はないからね。古道具屋が道具屋になってしまう」
「……そういうものですか?」


 今日はあまり無縁塚にめぼしいものがなかったため、妖夢は香霖堂の掃除を行っていた。
 家事仕事は得意、と言っていた妖夢だったが……普通とは大きく外れた『掃除』にやはり悪戦苦闘。
 そんな彼女を横目で見ながら、霖之助はいつも通り本を読んでいた。


「…………」
「……うん?」


 ふと視線を感じ、顔を上げる。
 妖夢が掃除の手を止め、霖之助を見つめていた。


「何か気になることでも?」
「え? あ、いいえ、その……落ち着いてるなあって」
「……そんなことを言われたのは初めてだな」


 枯れている、とはよく言われるのだが。
 主に常連の少女たちに。


「羨ましいです……。私、すぐみんなにからかわれるから……」


 そう言って霖之助を見つめる彼女の瞳には、ただ純粋に『大人』と言うものに対する憧れの光が宿っていた。
 とはいえ彼女の側にいる幽々子様というのはずいぶんと立派な淑女らしいので、
身近な大人に対して彼女がそういう感情を持つのも無理はないかと考える。
 ……ただしこれも妖夢から聞いた話なので、本当にその幽々子様が立派な人物かどうかは霖之助には判断できなかった。


「……ところで、なんでお金が必要なんだい?」
「あれ、話しませんでしたっけ?」


 掃除の手が止まっているのを注意しようかと思ったが、いい機会なので休憩を挟むことにした。
 報酬を出す側としては、やはり気になる話でもある。


「春は、幽々子様が憂鬱そうにされるんです」
「ふむ」
「理由は幽々子様自身も覚えていらっしゃらないらしいのですけど、だからこそ余計に気にかかるらしくて」


 霖之助と向かい合い、椅子に行儀良く座る妖夢。
 出された湯飲みを両手で持ち上げる。


「せっかくの春なんですから、もっと明るい気分でいてほしいな、と……。
 なので、春らしいものをプレゼントしようって思ったんです。
 それをもし気に入ってもらえたら、少しは気もまぎれるんじゃないかって」
「……なるほど」


 実に主人思いの言葉だ。
 霖之助は彼女に対する評価を少々改めることにした。

 それに、その考え方は霖之助好みだった。
 長い人生、嫌いなものがあるのは単純に損というものだ。

 ……いや、苦手なものくらいはやっぱりあってもいいかもしれない。
 口元を扇子で隠した大妖の姿が思い浮かび、霖之助は首を振った。


「君は将来、立派に成長すると思うよ。いわゆるいい女、というやつにね」
「そうですか? ……想像できません」
「僕が保証しよう。霊夢や魔理沙よりも、ずっと」
「そんなにですか!?」


 妖夢が驚いた声を上げる。
 この少女はあのふたりをどのように評価しているというのだろう。


「まあ……そうなるのはふたりよりずっと後のことだろうけどね」
「うぅ」


 これは種族の差というよりも個人差のほうが大きい。
 妖夢はまだまだ子供だ。
 もっとも、霖之助から見れば霊夢たちも子供なのではあるが。


「さて、それならより一層仕事に励まないとな」
「はい!」


 妖夢はお茶を勢いよく飲み干すと……変なところに入ったらしく、激しくむせていた。

 ……やれやれ。









 何かあるかと期待しながら無縁塚に行く行程も悪くないのだが、やはりなにかあるとわかっている時は気合いが違う。
 それに人手があると商品の持ち帰りも楽だった。
 霖之助は店員の雇用も検討すべきかと考え始めていた。


「これとかどうですか?」
「……これは使えないよ」
「じゃあこれは?」
「それはもう在庫一杯だ。もうかなり経つのに全然店のことを覚えなかったな……」
「すみません……」


 苦笑する霖之助。
 まあ、今日という日にあまり無理を言うのも野暮というものだろう。


「次は必ず……!」
「いや、もう十分だ。君の仕事はもう終わりだよ」
「へ? それって……」
「忘れたのかい? 初めから一ヶ月という契約だっただろう」


 きょとんとする妖夢に、霖之助は懐から封筒を取り出した。


「これが給金だ。あまり多くなくて悪いがね。里でふさわしい商品を選んでくるといい。そこまでが君の仕事だ」
「はい……」
「それから……」


 霖之助は懐から別の布包みを差し出す。


「ふたり分入っている。君の主人にも渡すといい。
 ああ、これも給金の一部だからね。その場合、あくまで君からのプレゼントだ」
「ふたり分?」


 妖夢が首を傾げ、布包みと霖之助を交互に見やる。


「私にも、ですか?」
「そうだ」


 霖之助に了解を取り、包みを開ける。


「わぁ……」


 そこには桜をかたどったかんざしが入っていた。
 妖夢は片方を大事そうに包み直すと、もう片方を恐る恐る自らの髪に結い付ける。


「……あの、似合いますか?」


 かすかに頬を染め、上目遣いに霖之助を見つめる妖夢。


「うーん」
「…………」


 彼女は今まで自分用にこういうものを扱ったことがないのだろう。
 髪の結い方が甘く、所々ほつれていた。

 そもそもこれは妖夢から話を聞いて彼女の主人用に作ったものである。
 話を元に作ったせいか、立派な淑女用のものになってしまった。
 つまり。


「100年早い」
「そうですか……」


 妖夢はがっくりと肩を落とす。


「気を落とすことはない。
 君にはまだまだ先があるんだからね。
 ……それが似合うようになったら、ゆっくりお茶でも飲もうじゃないか」
「は、はいっ」


 頭の上に置かれた掌に、妖夢は嬉しそうに霖之助を微笑んだ。





 彼女の瞳にあるのは小さな憧れ。
 好意になったばかりの、淡い感情。

 100年後の、恋心。

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