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心ゆくまで

紫ではなくゆかりんなので注意。
あの小さい方です。

霖之助 ゆかりん









「霖之助さん、ウフフ」
「……君か」


 スキマから突然現れた少女を見て、霖之助はそれだけ呟くと……再び手元の作業に視線を戻した。
 幼い身体に豪奢なドレスを纏ったその少女――紫は、そんな彼のいつもの反応に気を害した素振りもなく、
いつものように余裕たっぷりといった動作で彼の手元を覗き込む。


「あら、外の道具かしら?」
「ああ。今日は豊作でね」


 名称、トラックボール。
 使用目的は操作すること。
 ……丸い玉が付いていて回転するようだが、それだけだ。
 何を操作するのか霖之助には皆目見当も付かない。


「ねぇ、霖之助さん?」
「なんだい」


 玉を外し、また付ける。
 ボタンを押すが反応がない。


「使い方、教えてあげましょうか?」


 心底楽しそうな、嬉しそうな表情の紫。
 しかし霖之助はそんな彼女に一瞥もくれることはなく、ただ一言。


「間に合ってるよ」







「それでね、霖之助さんったら山の巫女に聞くって言うのよ。信じられる? ていうか聞いてるの藍?」
「はいはい、聞いてますよ……橙、これで同じミスするの2度目だぞ」
「ごめんなさい、藍しゃま……」


 マヨヒガにある屋敷の一室。
 藍は橙の算数ドリルを採点しながら、主の愚痴を聞き流していた。


「この前の電動ひげ剃りも変な使い方してたし、私が教えなかったらどうなっていたことか……」
「乾電池のやつですか」


 そこでふと、藍は思い出したように手を止める。


「それにしても紫様。店主殿が変な使い方している道具しか正解を教えませんよね」
「ええ、その方がいいでしょう??」
「……確かその方が安全かもしれませんが……」


 ため息を吐きながら頷いた。
 あの店主には、正解を素直に正解と伝えた方が受けがいいのではないだろうか。
 藍はたまにそう思う。

 しかしその反応を見て満足したのか、紫は自信たっぷりに立ち上がる。


「ひょっとして霖之助さんったら照れてるのかしら? そうとわかればこうしちゃいられないわ」
「あー……」


 主が去った虚空を見て、藍は何かを言いかけ……諦める。


「お、この問題はよくできたな。自分でよく考えて解けると嬉しいだろう?」
「はい、藍しゃま!」


 嬉しそうに笑う橙を見て、再び藍はため息を吐く。
 ……橙にもわかることだというのに。







「この道具の使い方、わかるかい?」
「うーん、見たことありませんねぇ」


 香霖堂で霖之助と早苗は額を付き合わせ、ひとしきりああでもないこうでもないと悩んでいた。
 彼女は外の世界の人間とは言え、あまり機械などには明るくはない。
 しかしやはり基本知識があるのと、霖之助の話に付いてこられるというのは貴重らしく、今では香霖堂に入り浸るようになっていた。


「あ、もうこんな時間」
「……気が付かなかった。すまないね、引き留めてしまって」
「いえ、私も好きでやってますから……。あ、道具のこと、河童のひとたちにも尋ねておきますね」
「僕のほうでもいろいろ調べてみるよ」


 今では道具を考察する定例会のようなものを行う仲だ。
 報酬は外の道具なので、そのせいかもしれない。


「霖之助さん」
「紫?」


 早苗が去ったあと、再び現れた妖怪の賢者を見て霖之助は首を傾げる。
 何かを尋ねる前に、怒濤のごとく紫が喋り始めた。


「この道具の使い方はね……」







「それで、こっぴどく怒られた、と」
「怒られてないわ!」


 強い口調で断言する紫。
 だがその瞳には涙が滲んでいた。


「ただムスッと黙って口をきいてくれなくなっちゃっただけで……」
「はぁ」


 それが怒られたということではないのだろうか。
 言おうとしたが、紫の顔を見てやめた。
 誰より本人が一番よくわかっているだろう。


「私が考えるにですね」
「うん」
「店主殿は道具の使用法が知りたかったのではなく、道具の使用法を考えたかったのではないでしょうか」
「なによそれ」


 信じたくない言葉が出てきた。
 それが本当なら、つまり。


「それじゃ、ほとんどの道具を知ってる私は……」
「その会話に参加することは不可能ですね」


 がーん、と大きくショックを受ける紫。


「でも紫様……紫様?」


 続けようとしたが、主の姿は既に見えなくなっていた。







「霖之助さん……」
「……また君か」


 先ほどの対応は大人げなかったかもしれない。
 かろうじて反省した霖之助は、それだけ言うと……やはり再び手元に視線を戻した。

 名称、テレビアンテナ。
 使用目的、受信するもの。
 例によってさっぱりわからない。

 また紫が横槍を入れてくるのだろうか、と内心身構えながらも作業に没頭。
 だがしばらく経って何の変化もないことに逆に不安を抱き、霖之助は顔を上げる。


「ねえ、私のこと嫌い?」
「いきなり何を……」


 見ると、紫は目に一杯の涙をためていた。

 店先で見た目幼女が涙ぐんでいる。
 こんな光景を見られたらあらぬ噂が立ちかねない。

 特に烏天狗あたりなどに。


「だって、霖之助さん……」


 だと言うのに彼女は今にも崩れそうになっている。
 だからだろうか。
 思わず霖之助は叫んでしまった。


「嫌いなわけがないだろう!」









「橙」
「なんですか、藍しゃま」
「勉強は好きかい?」
「んー、あんまり……」
「そうか」


 藍は楽しそうに、眉根を寄せて問題を解く橙の頭を撫でた。


「学ぶことは自分のためだけではなく、人のためになることだってあるんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、いつかわかる日も来るさ」


 主人も、いつか気づく日が来るのだろうか。
 気づいたら、どんな顔をするのだろう。

 あの店主が外の道具について、外の世界について、知識を貪欲に仕入れようとしている理由。
 外の世界に行ってまで、自分を高めようとしている理由
 幻想郷の中心で商売をしている理由を。


 昔は別の理由があったのだろう。
 だが今、彼はこう言った。





 いつか妖怪の賢者と同じ目線で語り合いたいからだ、と。
 永久に、心ゆくまで。

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