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勇気、ひとかけら

文霖書くのも久し振りな気がします。
天狗の出番はもっと増えるべき。ということでひとつ。


霖之助 文






 香霖堂の店内に、ぱらりと紙をめくる音が響く。

 速読の術を身につけているのだろうか。
 それとも、単に動き自体が速いのか。

 彼女の瞳は紙面上をめまぐるしく動いていく。
 たまに筆を動かし、メモを取っているようだった。

 そして何か考えた表情を浮かべ、顔を上げた。


「私の顔に何か付いてますか? 霖之助さん」


 困ったように、彼女……文は首を傾げた。
 霖之助がじっと見ていたことに気付いていたのだろう。


「目と鼻と口ね」
「そうだ、そんなもの見ても面白くないぜ」


 霖之助がなにか答えるより先に、霊夢と魔理沙が口を開く。
 ……その言葉に何か棘のようなものが含まれているような気がしたのは、思い過ごしだろうか。


「失礼ですね、おふたりさん。
 ひょっとしたら髪型とか服が気になってるのかもしれないじゃないですか」
「ないない。それはない」
「天狗の顔も見飽きたわ」


 少女が三人いればこうも姦しいものか。
 霖之助はため息を吐き……ふたりに視線を向ける。


「……彼女はお客さんだよ。君たちとは違ってね。
 あまり失礼なことを言うんじゃない」
「ふん。香霖は天狗の味方か」
「……安いお茶ね」


 彼にたしなめられ、魔理沙はぷいっとそっぽを向いた。
 霊夢はいつもどおり、素知らぬ顔だ。


「いや、不躾だった。すまないね。
 少し考え事をしていたんだ」
「考え事ですか?」
「ああ」


 文に向き直り、霖之助は言葉を続けた。


「天狗になるという言葉があるが、それは鼻が高いという天狗のイメージから来たものだ。
 幻想郷で一番有名なのは君たち烏天狗だろう。
 その場合……どんな意味になるのかと思ってね」
「ははぁ。なるほど。
 そんな話ですか」


 何を期待していたのだろうか。
 彼女は残念そうに肩を竦める。


「まあ鼻高天狗はいますし。
 やっぱり同じ意味だと思いますよ」
「だろうね」


 その返答は予想通りだったようで、霖之助も苦笑を浮かべた。
 そんなふたりのやりとりに、魔理沙が口を挟む。。


「だいたい、なんで天狗が新聞を読んでるんだ?
 あまりにも売れないのに嫌気が差して、とうとう書くのを諦めたのか?」
「そんなわけないじゃないですか。
 売れないのは事実ですけど……」


 文が今見ているのは外の世界の新聞だった。
 霖之助が無縁塚で拾ってきたものだが、新聞は傷みやすいため無事なものはあまり無い。


「今、新聞の学習中なんですよ」
「なんだ、パクリか。
 泥棒は嘘吐きの始まりだぜ。
 もう手遅れかもしれないがな」
「あなたに言われたくないですね」


 それにそれを言うなら逆ではないだろうか。
 ……魔理沙が言うと何となく説得力があって困るのだが。


「それで、何か面白い記事はあったかい?」
「いえ、外の世界の事件には興味ないですけど」
「……そうか」


 その言葉に、霖之助は肩を竦めた。
 霊夢や魔理沙も外の世界に興味がないのだ。
 それだけ幻想郷が刺激的なのかもしれない。


「じゃあなんで読んでるんだ? そんなもん」
「私が見ているのは新聞自体の構成ですよ。
 外の世界の新聞は、新聞を読まない人にも向けて作られてるらしいですからね」


 外の世界は競争社会らしい。
 おそらく、幻想郷とは比べものにならないほど新規開拓が死活問題なのだろう。
 その意味では、見習うところがある……かもしれない。場合によるだろうが。


「天狗の新聞は基本的に内輪向けですからね。
 こういう紙面作りは参考になるわけですよ」
「その内輪向けの新聞を、アンタは私のところに持ってきたのかしら」
「私のは違いますよ!
 文々。新聞は山の内外老若男女人妖問わずターゲットにしてますから」


 霊夢の言葉に、文は首を振った。


「単に天狗内での購買数が頭打ちなだけじゃないの?」
「…………」


 そして彼女は言葉を詰まらせる。
 幅広いターゲットは、あまり功を奏していないようだ。


「図星のようだぜ」
「まあ、否定はしませんけど」


 魔理沙に言われ、文は大きくため息を吐いた。


「確かに、内輪向けのほうが読まれるのも事実なんですよねぇ……」
「そうかい?
 僕は君の新聞を気に入ってるんだけどね」
「ありがとうございます、霖之助さん」
「……ふん」
「…………」


 嬉しそうな文に、しかし不満そうな魔理沙と霊夢。
 ふたりの視線に気付かず、霖之助は質問を続けた。


「で、天狗内ではどんな新聞が流行ってるんだい?」
「最近だと、D新聞とかが人気でしょうか」
「……D?」
「デバガメのイニシャルだそうです」
「なるほど、わかりやすいね」


 苦笑する霖之助に、文はひとつ頷いた。


「誰と誰がくっついたとか。そんな話ばっかり載ってますよ。真贋問わず。
 さらには連載小説が人気で、それ目的で読んでる天狗とかも……」


 そこまで言って、彼女は首を振る。


「新聞は事件を伝えるもののはずなんですが、嘆かわしいことですよ」
「情報媒体という意味では正しいのかもしれないがね」
「なあ、どんなのだ? その小説って」


 魔理沙が目を輝かせ、尋ねてくる。

 そう言えば、最近天狗の漫画をよく読んでいるらしい。
 紅魔館から借りてきたという話だが、ちゃんと返すつもりはあるのだろうか。


「えっと……確かフィクションですよ。
 西洋の、中世頃の話だったと思います」


 文は思い出しながら言葉を発する。
 文花帖を開かないところを見ると、メモするほどの事柄でもなかったのだろう。


「お姫様と騎士の話だそうで、いわゆる恋愛ものですね」
「なんでそんなのが人気なのかしら」
「まあ、それは私も同感ですが」


 霊夢は首を振り、ため息を吐いた。
 あまり他人のそういうことに興味がないのかもしれない。
 もしくは、作り話だからか。


「わりとよくある話ですよ。
 お姫様が騎士に恋するけどなかなか振り向いてもらえないっていう」
「ふぅん」
「本当に、よくありそうね」


 文の言葉に、反応はそれぞれだった。

 どのみち霖之助が読むものではないだろう。
 そう結論づけ、彼はお茶のおかわりを用意する。


「ただその騎士はお姫様を小さい頃から面倒見てきたらしくて、
 全くそう言う対象に入ってないらしいんですよ。
 それをどう振り向かせるかって言うストーリーらしいですね」
「ふぅん……?」
「……本当に、よくある話ね」


 ふたりの声色が、いつもと違うものに聞こえた。
 残念ながら、その瞬間を見逃してしまったのだが。


「はたてが読んでるみたいでよく話を聞くんですが、
 なんでも初デートにこぎつけたところでどうこうとか……相手はデートと思ってないとか……。
 全く、そんな暇があるなら取材のひとつにでも行けばいいのに」


 疲れたようにため息を漏らす。
 天狗仲間内では評判なのだろう。


「それで?」
「それで、とは?」


 予想外の言葉だったのか。
 魔理沙の問いに、文は驚いた表情を浮かべる。


「だから続きだよ。それからどうなったんだ?
 持ってるんだろう?」
「持ってないし知りませんよ。
 まあ、まだ連載中らしいんでどうなるかなんて知りようもないんですが」


 そう言って、文は妖怪の山の方角に視線を移した。
 つられて魔理沙も視線を向ける。
 それと、霊夢も。


「はたてが持ってるんだったな」
「まあ、山の神とかも持ってるかもしれませんね」
「そうか」


 それだけで十分のようだった。
 魔理沙は立ち上がると、愛用の箒を掴む。


「……早く行きましょう」
「ああ、わかってるぜ」


 いつの間にか、既に霊夢が入り口で待っていた。
 ふたりは霖之助に挨拶をすると、あっという間に飛び出していく。


「……私の新聞も、あれくらい読んでくれればいいんですけど」


 文はふたりの行動にショックを受けているようだった。
 ……まあ、無理はないのかもしれないが。


「それをどうするかは、今度の君次第だろう」
「そうですね。そうでした」


 気を取り直したように、彼女は姿勢を正す。
 微妙に目が潤んでいるような気がするが……見なかったことにしておこう。


「新生文々。新聞の活躍はこれからです!」
「その意気だ。期待してるよ」
「……でも、たまに思うんですよ」


 気合いを入れ直したように見えた文だったが……。
 少しだけ困ったように、ぽつりと呟く。


「新聞って一度読めばそれきりじゃないですか。
 そもそもそう言うものだし、情報は鮮度が命だってことはわかってはいるんですけど」


 わかっていても、納得できないものあるのだろう。


「霖之助さんは、一度しか使われないものって……どう思います?」


 店内の商品を見渡し……文は首を傾げた。
 しかし。


「ただ一度きりしか使われない。
 それは悪いことなのかな?」


 古道具屋の店主たる霖之助。
 彼はそう言って、首を振る。


「例えば嫁入り道具なんかがそうだね。
 ただ一度の出番のために、長い期間をかけて制作される。
 だけどただ一度で十分なんだよ
 新聞の取材も同じようなものじゃないかな」
「……そうですね」


 霖之助の言葉に、文は頷いた。


「それに場合によっては、他の人に受け継がれていく。
 思い出というものになってね。
 新聞も人の話題に上れば……役割を果たしたことにならないかな」
「……ええ」


 使い捨てなどではない。
 物の価値は、ひとつだけで終わりではないのだから。


「すみません、私としたことが。
 甘えてしまいましたね」
「これくらいならいつでも構わないよ」
「そ、そうですか?
 じゃあ、その、また……」


 彼女は何か言いかけ……やめた。
 気を取り直したように、咳払いひとつ。


「さっきの話ですけど、霖之助さんは嫁入り道具とか作ったことあるんですか?」
「まあ、霧雨道具店で働いていたときにね」


 昔を懐かしむように、霖之助は眼を細める。
 そんな彼の言葉に、文は納得したかのように頷く。


「ふーむ、なるほど。
 ただひとりのためだけに作られる道具……。
 ……これは密着取材の価値がありそうですね」


 キラリ、と彼女の目が光った。
 ようやくいつもの調子が戻ってきたらしい。


「ということで、そのうちお願いしてもいいですか?」
「……構わないが、誰か当てがあるのかい?」
「え? それは、その」


 そこまで言って、文は照れたように口ごもる。


「……そのうち、ということで」


 そのうち、勇気が出たら。
 文は心の中で呟いた。

 まだ誰にも、聞こえないように。

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非公開コメント

No title

文ちゃんかわええ
霖ちゃんは相変わらずの朴念仁だけど・・・

祝☆香霖堂発売!

Dの呪縛と聞いて

No title

最近はDと聞いただけで崖下を思い浮かべてしまう・・・・・・w
まあ新聞の内容まで崖下ではないようですが。
しかし文は年食った妖怪と言う感じがしませんねぇ。
霖之助との話に初々しさを感じる辺りが素晴らしい。

あと、動画の方で小悪魔が登場したのでご報告を。
若干子悪魔入ってます・・・・・・ネチョって無いのであんまり露骨じゃないですが。
もうちょっと独自の路線を行かせてみようと考え中ですが、果たしてどうなるか。

No title

文さんと霖之助さんの、この割と何でも相談できるような間柄がいいですねぇ。
いい文霖でした。

それと霊夢と魔理沙、新聞の小説に過剰反応しすぎw
まぁ、お姫様の気持ちが分からんでもないからでしょうが…。

No title

うおぉ…かわいいなー
文がんばれ!あなたは我ら天狗の代表なんだから!

「天狗の顔も見飽きたわ」で幼女になつかれる最強の傭兵を思い出した

ブンキシャ好きですが単発の文霖もいいものだ…!
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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