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君に会えるなら

ドルルンさんとリンクを貼ったとき、甘い慧霖を書くことになった。
でも実は僕、思いついたネタを書くだけなので甘いのとそうでないのの境界線がわからないんだ……。
まあ、話になればいいってことでひとつご容赦を。

慧音がアクティブになりすぎてしまったことは反省している。


迷いの竹林で慧音を見つけた霖之助。
なにやら様子がおかしいようだが……。

霖之助 慧音







 空が白み始めていた。
 慧音は半分眠っている意識を総動員し、迷いの竹林を転ばないように歩く。

 昨日は満月だったため、溜まっていた仕事を一気に片付けた。

 ……そこまではいつものことだったのだが、そのせいで体調が良くない。
 一言で言えば、寝不足なのだ。

 こんなことならテストの採点を後回しにして仮眠を取っておくべきだった。
 ……今更後悔しても遅いが。


 まぶたが重い。
 重いので視界が悪い。
 視界が悪いからフラフラとした歩みになる。
 フラフラしていると、自分が何をしているかわからなくなってしまう。


「慧音」


 ふと、幼馴染みの声が聞こえてきた。
 閉じかけた目で見ると、銀髪眼鏡の見慣れた姿。


 ――いくら急いでいたとはいえ、自分はこんな歴史まで作ってしまったのだろうか。


 回っていない頭で、そんなことを考える。
 まあ、起きてから消してしまえばいいだろう。
 せっかくなので、利用させて貰うことにした。
 正直もう、限界なのだ。


「霖、ちょっと家まで連れてって……」







 ――困ったことになった。


 霖之助は幼馴染みの少女と歩きながら、そんなことを考えていた。

 満月が綺麗だったので、伝説の焼鳥屋とやらを探してみようかと思ったのが昨日のこと。
 しかし迷いの竹林を一晩中歩き回ったのだが、それらしき店はどこにもない。
 仕方なく偶然見つけた八目鰻の屋台で聞いてみたところ、満月の夜はまず店を出さない、という情報だった。

 当てが外れ、仕方なく八目鰻で呑むことにしただが……これはこれで良い。
 欲を言えば、探し回りすぎて既に満月が隠れ始めていたことだろうか。

 店を出たのが少し前のこと。
 そして偶然、フラフラと歩いている幼馴染みを見つけ声をかけたのだが……。

 ただ寝不足なだけのようだ。
 そういえば、満月の夜にはハクタクとしての仕事を片付けている、と昔聞いた気がする。


「どうした? 霖。
 もっと元気よくーだな」


 半ば閉じたような瞳で、慧音が尋ねる。
 しかしその名前で呼ばれるのは久しぶりだ。
 あの場所に香霖堂を建てる前のことだから……もう何年になるだろう。


「はいはい、わかったよ慧音」
「おー」


 まるで酔っぱらっているようなテンションの慧音に苦笑を漏らす。
 先ほどまで呑んでいたため多少酔っているのは霖之助も同じだが……。
 寝不足だとたまにこういうことになるが……慧音は普段早寝早起きを徹底しているのだろう。
 月一とは言え、生活リズムを崩すのはかなりの負担に違いない。

 霖之助がそんなことを考えていると、慧音は霖之助の手を取ってずんずんと歩き出した。


「早く帰ろう、帰ろう」
「んん、慧音……?」


 手を繋いで歩くなどどれくらいぶりのことだろうか。

 しかしあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
 手を引かれる方が危険極まりない。


「慧音、慧音」
「なーにー?」


 慧音はとろん、とした瞳ですっかり幼児退行を起こしていた。
 いや、この場合少女退行だろうか。
 もう、何十年前のことかも忘れたが。


「もう少し落ち着いてくれ。転びそうだ」
「わかった、霖に任せる……」


 そう言うと慧音は霖之助に寄りかかり、寝息を立て始めた。


「慧音……? ちょっと、起き……そうにないな」


 ため息。

 さすがにこんなところで放っておくわけにもいかず。
 仕方なく腰と背中に腕を回し、抱き上げる。

 いわゆるお姫様だっこというやつだ。


「冷蔵庫より軽いな」


 霖之助は未だに使い方のわからない道具の名前を呟いた。
 本人が聞いていたら、恐らく怒られそうな名前を。


「……さて、家に帰るんだったか」


 しかし先ほどまでの慧音が向かっていたのは人里の外れの方角だった。
 あそこには、ひとつの屋敷しかない。

 幼少期、霖之助と慧音が過ごした家。
 稗田の屋敷が。


「家、ね」


 慧音の家は人里の近くにあり、ここからではかなりの距離がある。
 だからといってこんな状態のまま阿求のところに行くわけにもいかない。


「……仕方ない」


 霖之助は再び、盛大にため息を吐き出した。







「霖ー」
「……おはよう、慧音」


 一眠りして元に戻るかと思った慧音だったが、未だに少女退行は継続していた。
 香霖堂の居間に行儀良く座り、目を輝かせている。


「朝ご飯、食べるかい?」
「うん、食べる」


 霖之助は仕方なく、慧音を香霖堂に連れて帰った。
 寝不足から来るものなら、少し休ませれば元に戻るだろうと考えたからだ。
 ……思い切り当てが外れたわけだが。


「うーん」
「どうした?」


 向かい合って座り……慧音は朝食を前に首を傾げていた。


「よっと」


 彼女は食器を持って立ち上がると、霖之助の隣に腰掛ける。


「このほうが落ち着く」
「……そうか」


 霖之助はただひとつ頷いた。

 慧音といつも並んで座り、向かい側には……先代の阿礼乙女が座っていた。
 半人半妖と半人半獣の子供は、ふたりとも稗田の家で保護されていたのだ。
 もう100年以上前の話だが。

 だが当時と違ってふたりとももう身体が成長している。
 なのに慧音の距離感は昔のままで座っているため、いろいろとくっつきとても食べづらい。


「霖」
「うん? ああ」


 横から呼ばれ、振り向いた瞬間に差し出された箸を無意識のうちに口に入れる。

 そして後悔。
 男女が相手に食べさせる。
 これではまるで……。


 言い訳をするならば、昔の慧音は好き嫌いが多かった。
 だからこっそりとおかずを交換し合うなど日常茶飯事……ではあった。
 見つかると怒られるため、いかに手早く相手に食べて貰うか考えたことがあった。

 方法は簡単だ。食べさせてやればいい。

 ……だが後になって考えると、大変食事のマナー的によろしくない。
 あと、子供だから出来ることだ。
 大人になってやることではない。断じてない。


「ん?」
「…………」


 至近距離で首を傾げる慧音に、しかし霖之助は何も言えなくなる。


 ――今になって先代の苦労がわかるとは。


 霖之助は隣に座る慧音の行動が気になってしまい、朝食の味などわからなかった。





 朝食が終わると、霖之助は香霖堂の開店準備を始める。
 簡単に掃除と商品の整理を行うと……慧音がそれを手伝ってきた。


「これ、ここでいいの?」
「ああ、構わないよ」


 この数時間でいくつかわかったことがある。

 慧音はお互いをきちんと大人の姿で認識している。
 霖之助が香霖堂の店主なのも知っているし、阿求が転生したことも知っている。

 にも関わらず、子供の頃と同じ扱いだ。
 つまり、本人と霖之助との関係性だけが過去に戻っていることになる。


 そして子供の頃と同じようなスキンシップをしてくる。
 ……困る。

 慧音のスキンシップは動物的というか、近い。すごく近い。
 ……困る。

 慧音の身体は大人のものであり、そして子供特有の好意をストレートに表現してくる。
 ……かなり困る。


「これ、何?」
「アイロン。皺を伸ばすものだよ」
「どうやって使うの?」
「……考え中だ」


 慧音は掃除をしながら、商品を興味深そうに見つめていた。
 ……いや、あれは普段の慧音も同じように見ていた気がする。
 つまり現在の慧音は興味はあったが恥ずかしくて聞けなかっただけ、なのだろうか。


「これは何?」
「それはだな……」


 結局、慧音の相手は彼女がはしゃぎ疲れて眠るまで続くのだった。









「ひぁぁぁあ!?」


 すっかり夜も更けたところで、その叫びは店内に響き渡った。


「……おはよう、慧音」
「も、森近!? 私は一体……」


 慧音はすっかり取り乱している。
 自分が何をしたのか覚えているのだろうか。
 顔を赤くして、霖之助の顔を見ようともしない。


「何を言ってるんだい。ちょっと疲れたから休ませてくれって言ってきたじゃないか、ついさっき」
「さっき? そ、そうか……」


 その言葉を聞いて、慧音は数度深呼吸。
 姿勢を整え、礼儀正しく頭を下げた。


「突然取り乱して失礼した。世話になったようだな」
「ずいぶん疲れてたみたいだね」
「仕事だからな」


 そう言って、そわそわと視線を泳がせる。


「……今日はその、急に来て悪かった。本当ならもっとゆっくりと……」
「いや、君なら構わないよ」
「そ、そう言ってもらえると……。
 あと、だな。寝ているときに変なことを言っていなかったか?
 ああいや、別に何もないんだが、妙な夢を見てしまってな」
「さて、覚えてないね」
「そうか」


 安堵と、少しだけ残念そうなため息を吐き、慧音は出口に向かって歩き出した。


「では、邪魔したな。この埋め合わせは、近いうちに」
「期待しているよ」


 そう言って慧音は店を出て行った。
 あとに残されたのは、いつもの香霖堂。
 まるで昨日のことなど無かったかのように。


 半獣といえどハクタクにかかれば歴史を無かったことにすることなど造作もない。
 突然見知らぬ景色に驚いた慧音は、慌てて歴史を消してしまった。



 ――と、彼女は思っていることだろう。


「頑固な割に少し単純なところも昔のまま、だな」


 霖之助は懐かしそうに微笑んだ。

 昨日のことはすべて覚えている。
 うやむやになっているのは彼女の記憶だけのようだ。


 本人は誤って作り出した歴史を、すぐに食らうことで消去した、と思っているのだろう。
 しかし慧音は自分で自分の歴史を作り出してしまったのではないか、と霖之助は考えていた。

 いや……それは歴史などではなくただの願望、だったのかもしれない。
 だがあの慧音が昔に戻りたいなど思うとは考えにくい。

 だとすれば……。


「……いや、まさかな」


 頭を振って、自分に都合のいい考えを追い出す。
 まさか、慧音は昔のように霖之助と話したかったのかもしれない……などと。

 いつか、今日の日のことを話す日が来るのだろうか。
 そしたら彼女はどんな顔をするだろう。


「しかし、まあ」


 外を見る。
 夕陽が景色を赤に染めていた。

 明日は晴れるだろうか。
 もし晴れたなら……。


「たまには人里に行くのも悪くないかもしれない、な」


 そして旧友や恩師と会い、不思議な顔をされるだろう。
 里の人間は奇異な目で見てくるに違いない。

 だが、それもすぐに気にならなくなる。
 そもそも気にしすぎだ、と慧音は言った。
 彼女に言われると本当にそんな気もしてくる。


「ああ、それも、悪くない」


 そう、どれも大した問題ではないのだ。



 ――君に会えるなら。

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No title

>彼女は食器を持って立ち上がると、霖之助の隣に腰掛ける。

隣が膝に見えて悶えた
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