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絵を描こう

絵を描こう。
別に僕が書くわけではなく、絵を題材にしたショートショートを3本。


霖之助 幽香
霖之助 咲夜
霖之助 アリス







『幽香』



「花が欲しい?」
「ああ」


 香霖堂の商品を物色していた幽香は、突然の申し出に首を傾げた。


「珍しいわね、貴方がそんなこと言うなんて。それも、そんなに大量に」


 そう言って幽香は微笑む。
 しかし彼女の目は笑っておらず、言外にその使用法を問いただしているようだ。


「ちょっと、思うところがあってね」


 霖之助は視線を逸らす。
 が、そのようなことで逃れられるわけもない。


「なに? 誰かへのプレゼントかしら?」


 さらに視線が強まる。
 霖之助は背を伝う冷や汗に震えながら、首を横に振った。


「あんまり脅かさないでくれよ、荒っぽいことは出来ないんだ」
「なら正直になるのね」


 幽香の語気は強い。
 男が花を欲しい、と言ったら、その理由はあまり無いではないか。

 そして……幽香にはそれが気に入らなかった。


「……わかった、正直に話すよ」


 霖之助は諦めたようにため息を吐くと、少し照れたように呟いた。


「絵を描きたくてね」
「……絵?」


 その一言で、幽香の剣呑な雰囲気が霧散していく。
 しかし霖之助はそれに気づかず、早口で捲し立てた。


「ああ。それで、花から染料を作れないかと研究してたんだが、なかなか……」
「…………」
「だから君に頼んだんだが、色を抽出するには花を潰したりする必要があるだろう? そんなことを話せば君は……聞いているのかい?」
「ええ、聞いてるわ。ちゃんとね」


 幽香はそう言って、ひとつ頷く。


「いいわよ」
「ああ、そう言うと思……なんだって?」


 予想外の返答に、驚いて幽香を見つめる霖之助。


「いいって言ったのよ。花の絵の具なら、私が昔作ったやつがあるからそれをあげるわ」
「昔作った……?」
「ええ」


 幽香は微笑んでいた。
 まるで、同志に出会えたかのように。


「ただ形が変わるだけですもの。それに、その花は形を変えてもずっと咲き続けることが出来るのよ?」
「限りあるから美しい、と言うと思っていた」
「それはそれ、これはこれ。どっちも素敵なものよ」
「ああ、それについては……同感だ」


 霖之助は力強く頷く。
 それぞれの長所があるならわざわざ否定することもない。

 しかし幽香は霖之助の言葉に、意地悪そうに首を振った。


「いいえ、それは貴方の描く絵次第ね」
「…………」


 ため息。
 絵を描くと決めたものの、まだモチーフすら決まってない段階だったのだが。


「じゃあ、準備を始めましょうか」
「……準備?」


 首を傾げる霖之助に構うこともなく、幽香はどこからか色鮮やかな瓶を取り出した。
 彼女の言っていた花の絵の具というやつだろう。
 魔法がかかっているのか、不思議な光沢を見せている。


「だが、まだなにを描くかなんて……」
「なにを言ってるの?」


 首を傾げる幽香。
 同時に彼女は自らの服に手をかけた。


「花の絵の具を使うんだもの。描くものも花に決まっているでしょう?」


 ぱさり、という音とともに一糸纏わぬ裸身が霖之助の目の前にさらけ出される。









『咲夜』



「探してるんでしょう?」
「……何を」
「だから、絵のモデルよ。言わなかったかしら」


 咲夜はタオル一枚にメイドカチューシャという出で立ちで、さすがに少し照れたように佇んでいる。

 霖之助はしばらく彼女を見つめていた。
 呆れたような瞳で。


「いいから服を着たまえ」
「そう」


 次の瞬間には、いつものメイド服を着た咲夜が立っていた。
 瀟洒な笑顔。
 洒落の効いたメイドの、いつもの洒落だろうか。
 それにしては、少し効き過ぎているような気もするが。


「……理由を聞こうか?」


 突然夜中に押しかけ、タオル一枚の姿を晒すなど……霖之助でなくとも、気になって仕方がない。


「絵のモデルを探してるって聞いたのよ」
「誰が」
「貴方が」


 毎回、このメイドの言うことはどこまでが本気なのかよくわからない、
 頭の回転が速い人物は相手にも同じ早さを求めるのだろうか。
 霖之助もそこそこ自信があるが……彼の場合、事前の考察によって培われたものだ。
 突然の事態にはどうしても反応が遅れてしまう。

 ……ややあって、彼は言葉を絞り出した。


「仮に僕が絵のモデルを探していたとしよう」
「ええ」
「それで、君は裸で押しかけるのかい?」
「お嬢様がそう望まれたので」


 頭が痛くなってきた。
 お嬢様というと……あの吸血鬼の仕業なのだろうか。

 そもそも絵のモデル=裸婦画とはいささか短絡的ではないだろうか。


「少し前までは、裸婦画など珍しくなかったと聞きますが」
「ちなみに、どれくらい前かな」
「お嬢様が生まれた頃……でしょうか」


 未だに幼い吸血鬼からしてみれば、なるほど少し前なのかもしれない。
 だが人間である咲夜にとってはそうでもないはずだ。
 ……おそらく。


「君はもっと恥じらいというものを持つといい。あいにくうちの店では扱っていないがね」
「あら? 恥じらいのある娘のほうがお好みかしら?」
「どうしてそうなる」


 霖之助は思わず咲夜の瞳を見返した。


「そもそも僕の好みが君に関係あるのかい?」
「ええ、大有り、ですわ」


 そう言って、咲夜は一歩霖之助に詰め寄る。
 普段より熱く濡れた瞳。
 吸い込まれそうな紅に、思わず動くことが出来なかった。


「……まさか」
「お嬢様が、そう望まれたので」


 彼女は再びそう呟く。
 その唇から、ふたり分の唾液を含んだ雫が落ちた。


「今日一日、私の好きなことをしなさい、と」









『アリス』



「うーむ、やはり見事なものだ」


 霖之助は感嘆のため息を吐いた。
 目の前には上海人形と蓬莱人形。
 その手には筆。

 ちょうど今、絵を描いているところだった。


「ほら、動かないで」


 そんな霖之助を、アリスが描く。
 そして彼女の口調は刺々しい。


「……少しくらい融通を利かせてくれてもいいんじゃないのか」
「貴方から言ったことでしょう?」


 不機嫌そうにアリスは返答。
 さっきからずっとこの調子なのだ。

 どうしてこんなことになったのか。
 それはほんの1時間前にさかのぼる。





「何か用かしら? 霖之助さん」


 いつもの来店ではなく、珍しく霖之助に呼ばれアリスは香霖堂にやってきた。
 店内はいつもと違って、少しだけ片付いているように思える。
 ……少しだけ。


「ああ、よく来てくれた。
 実は絵を描きたいと思ったんだが、モデルがまだ決まらなくてね」
「絵? 霖之助さん、絵を描くの?」
「描きたい、と思ってるだけだ。そんなに上手くはないよ」


 誰だって最初はそんなものだ。
 最初から上手い人間なんて……いや、いるにはいるかもしれない。


「それで、君にお願いしようかと思って」
「そう。……まあ、どうしてもというならいいわよ」


 霖之助の言葉に、アリスは照れたように顔を背ける。
 ふたりきりの店内。
 女性にモデルの依頼。
 もしかして、まで含めた承諾だった。


「おや、本当かい?」
「……ええ。私とあなたの仲……ですもの」


 絞り出すようにして返事をするアリス。
 その一言にどれだけの勇気が必要だったかなど……霖之助が気づくことはなかった。
 気づいていたら、こんなことは言わなかったはずだ。


「そうか、君の人形達をモデルにさせてもらおうかと思っててね。どうもありがとう」





 そう言ってからというもの、人形は貸してくれたもののアリスは不機嫌になり、睨み付けるような視線で霖之助を凝視するのだった。

「せっかくだから、君も絵を描いたらどうだい?」

 これ以上見つめられたら本当に穴が開いてしまいかねない。
 比喩ではなく、無意識の人形操作的な意味で。

 しかし、そう言ったのがさらに間違いだったのだろうか。
 何故か彼女はアリスの人形を描く霖之助の絵を描くことになり……今に至る。



「そっか、服のこの部分って横から見るとこう見えるのね」


 とはいえさすがに時間が経ったせいか、彼女の機嫌も少し直ってきたように思える。
 刺すような視線が和らいできたので、ようやく霖之助は絵の方に集中し始めた。

 ……のも束の間。


「下手ねぇ」


 突然背後から声がかかり、思わず振り向く霖之助。

 いつの間に移動したのか、椅子の背もたれに上体を預けるようにしてアリスが霖之助の絵を覗き込んでいた。


「……言っただろう、上手くはないと」


 確かに絵画の経験はあまりないが、スケッチの経験などはあったため自分で下手だとは思っていなかった。
 内心少し……いや、かなりショックを受ける。


「そう言う君はどうなんだい?」
「もうできたわよ」


 そう言って、アリスは自分の絵を霖之助に差し出した。


「……上手いな」
「ええ、人形を作るときは事前にイメージを描くようにしてるからね」


 アリスは勝ち誇ったように、彼によく見えるように自分の絵を立てかけた。


「要は経験の差よ」
「僕だって設計図なら得意だ」


 もちろん製図と絵画は全く別のスキルを要する。
 出来たところであまり意味はない。


「人に近く、動かないものと言うことで人形にしたんだが……難しいな」
「あ、そこはそうじゃないわよ」


 後ろに立っていたアリスが突然霖之助の筆を持った。
 自然、霖之助の手を握る形になる。


「ここはこう筆を動かすの」
「あ、ああ……」


 アリスは背後から身を乗り出すようにして霖之助の手を握っている。
 彼女が動くたび、細かい息づかいや彼女の鼓動が伝わってきた。
 そしてこの距離のせいで、いろいろ当たっている。

 ……言うべきだろうか。
 しかし本人が気づいていないのに言うとひとりで意識しているように思われるかもしれない。


「どうしたの? 筆が止まってるわよ」
「済まない」


 そう言われて筆を動かす。
 アリスは霖之助の手を握ったままだ。
 絶妙な力加減で筆運びを修正される。
 人形操作の延長だろうか、ほとんど違和感はないのにみるみるうちに出来映えが変わっていく。


「……いや、やはり良くない」
「何が?」
「アリス、さっきからその……胸がだな」
「胸が、どうしたの?」


 霖之助の言葉に、アリスはさらに身体を密着させた。


「…………のよ」


 耳元で、囁く。

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