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ある春の日に

夢茶さんが「誕生日なんでリリ霖書けよ(意訳」と仰ったので。
あくまでリリ霖です。さと霖ではなく。たぶん。


霖之助 リリーホワイト さとり








「春、買いませんか?」


 冬も終わろうかというこの季節。
 香霖堂に入ってくるなり、おずおずとその少女は言葉を発した。

 白い帽子に白い服。身長は子供くらいだろうか。
 背中には薄く透き通った羽根を持っている。
 一見何枚も持っているように見えるが……よく見ると鳥の羽のようなものがくっついているだけで、彼女自身の羽根は2枚のようだ。

 春告精――リリーホワイトと彼女は名乗った。


「春というと、あの春かい?」
「はい。あったかくて気持ちよくていろいろ産まれる、あの春です」


 春を想像しているのだろう。
 彼女はそう言うと、ポッと頬を赤らめる。


「春、買ってくれませんか?」
「もし買わないとどうなるのかな」
「多分……私が冬を越せないと……」
「それは後味が悪いね」


 とはいえ、リリーホワイトは妖精なので人間や妖怪とは命の形が違う。
 だからと言って店先で動かなくなられても大変困るわけで。


「春、売りますよ?」
「なんで僕なんだい?」
「だって……道具屋さんなら、いいかなって思って」
「ふむ、目の付け所は悪くないね」


 そう言われて悪い気はしない。

 それに香霖堂にはストーブもある。
 冬であるにもかかわらず春のような陽気を保つのはこの店ならではと言えるだろう。


「熱くなりすぎて夏みたいになることはあるけどね」
「さとり、人の脳内にツッコミを入れないでくれないか」


 飛んできた別の少女の声に、霖之助はため息を吐いた。

 ここのところよく顔を見せるようになった常連の少女、さとり。
 さとりはわりといろいろ買ってくれる上に金払いもいいので、かなりの上客の部類に入る。


「いらっしゃい。買い物かい?」
「ええ。ペット用の遊び道具が欲しかったのだけど……取り込み中だったかしら?」


 リリーホワイトと霖之助を見比べ、さとりは首を傾げた。

 そんな彼女に、リリーホワイトは頭を下げる。


「どうも、こんにちは」
「珍しい顔ね。妖精みたいだけど」
「そりゃあ、地下に四季はないからね。
 彼女は……」
「紹介はいいわ。読めばわかるのだから」


 霖之助の言葉を遮り、さとりはリリーホワイトに視線を向けた。
 3つの瞳で見つめられ、少し彼女は戸惑った表情を浮かべる。


「じゃあその調子で君の自己紹介もお願いするよ」
「あら、出番取られて拗ねてるのかしら」
「拗ねてない」


 心なしか唇を尖らせる霖之助を見て、さとりは笑みを零した。
 そんな彼を尻目に、会釈を交わす少女ふたり。


「古明地さとり。地下に住んでるわ」
「リリーホワイトです。えっと、妖精してます」


 どうやら細かい事情は言わないつもりのようだ。
 もっとも、言ったところでどうなるものではないし問題無いのだろう。


「春告精……前に見たのは何年前かしらね」
「地上にいたころが最後かな?」
「そうね」


 さとりは頷き、霖之助とリリーホワイトを交互に見比べた。
 しばしの逡巡。


「で、何を話していたのかしら?」


 ややあって、彼女は口を開いた。

 霖之助はさとりがなにを迷ってたのかがわからず、頭を捻る。


「読めばわかるんじゃなかったのかい?」
「そうだけど、ちゃんと聞いておきたくて」
「……まあ、構わないけど」


 咳払いひとつ。
 リリーホワイトは話を聞いているのかいないのか、春のような笑顔を浮かべている。


「知っての通り、リリーは春の妖精だからね。
 このところ急にまた寒くなったから、暖を取るための場所を探してたんだよ」
「ですよー」
「そ、そうよね。もちろんそう思ってたわよ」


 慌てて頷くさとり。
 少し顔が赤いのは、気のせいだろうか。


「でもひょっとしたらって思うじゃない」
「君は何を言ってるんだ」


 霖之助は肩を竦め、首を振った。


「ちなみにリリー、今まではどこにいたんだい?」
「えっと、いろんなところで冬眠してましたよ」
「ふむ……最近また寒くなったからねぇ」


 冬の終わり。一気に気温が上がり、いよいよ春かと思った……のだが。
 最近めっきりまた寒くなってしまい、すっかり冬に戻ってしまった。

 リリーホワイトが冬眠から目醒めてるのにも関わらず春が訪れてないのは、この異常気象のせいだろう。


「ちなみにさとりの場所は……」
「地下は季節がないから春っぽくないのよねぇ」


 さとりはリリーホワイトを見、ひとつ頷く。


「でもいい機会だから、私にも紹介してもらおうかしら」
「春をかい?」
「ええ、そう言う道具、あるんでしょう?
 ペットたちにも見せてあげたくて」
「構わないよ。いい春鑑定士もいることだしね」
「ほえ? 私ですかー?」
「そうよ。あなたが気に入ったものが春っぽいものってことよね」
「そういうことさ」
「え? え?」
「じゃあ、頼んだわよ」
「ああ、任せてくれ」


 まだ本人はわかってないようだが……構わず霖之助は商品を用意し始めた。

 いくつかの商品を箱に詰め、カウンターに乗せる。


「まずはこれだ」
「……靴?」
「靴ですねー」


 最初に置かれたのは、一組の靴だった。
 淡い色合いが春を連想させる。

 だがこの道具のメインはそんなものではない。


「よく見てくれ。実はこの靴、靴底にバネが仕込んであってね」
「バネですか?」
「ああ、そういうこと」


 さとりは途中で興味を失ったかのように、視線を外した。
 思考を読んだのだろう。

 ……主題はリリーホワイトだ、ということで霖之助はめげずに説明を続ける。



「時にリリー、バネのことを英語でなんというか知ってるかい?」
「え? えーと確か……」
「バネはスプリングと言ってね。
 この靴はスプリングシューズという種類なのさ」
「返事を聞く気、あったのかしら。
 で、春も英語でスプリングなのよね」


 彼のセリフを奪い、さとりが口を挟んだ。
 霖之助は何か言いたそうにしていたが……やがてため息を吐く。


「つまりは、そういうことさ
 スプリングは元々『湧き出る』や『跳ねる』の意があり、湧き出るもの――源泉の意味を持つようになった。
 そしてこの国でも新春という言葉があるように、昔は春が新年の始まりだったから……」
「霖之助さん? ちょっといいかしら」
「……なんだい?」
「今日はよく言葉を遮られる日だね、ですって? それはあなたのせいでしょうに」


 さとりは苦笑を浮かべると、カウンターの上にある靴をつつく。


「これ、男物よね」
「……まあ、そうだね」


 それだけ聞いて、彼女が何を言いたいのかわかったようだ。

 リリーホワイトの手を引き、さとりは靴を彼女に差し出した。


「大きいですー」
「そもそもこの子、靴履いて歩かないと思うんだけど」
「いや、春らしい道具をって話だったからね。別に彼女のためってわけじゃ……」


 首を振る霖之助だったが、咳払いひとつ。


「……これはほんの小手調べだ」


 気を取り直したように次の商品を乗せる。
 だが少し悔しそうな顔をしていたのを、さとりは見逃さなかった。


「少女らしい春と言えば桃の節句だろう。
 桃の節句と言えば雛祭りだ。というわけで、雛壇セットとかはどうかな」
「おひな様ですかー」
「確かに春らしいわね」
「そうだろう、そうだろう」


 気分よさそうに、霖之助は頷いた。
 ふたりの反応も上々である。


「まあ、片付けるのが遅れると婚期がどうとか言う話もあるけどね。
 ただ問題は……」


 言おうか迷ったが……さとりがいる以上同じだろう。
 既に彼女の目が半眼になっている。

 ……大変心に痛い。


「今、曰く付きの雛人形しか手持ちがないんだ」
「ひええ」


 リリーホワイトはすっかり怖がってしまった。
 そんな彼女を抱きしめ、さとりは優しく撫でる。


「よしよし。大丈夫よ。悪い店主は私が退治しておくからね」
「退治されたくはないね」
「ならちゃんとしたものを出しなさいよ」
「うーむ」


 彼女の言葉に、霖之助は首を捻る。
 持ってきた道具は数あれど、これだと言えるものが思い浮かばないのだ。


「では……」


 口を開きかけ……止めた。


「今何を想像したの?」
「考えただけだ。出すつもりはない」


 霖之助を問いただすさとりに、あくまでシラを切り通す。

 春のつくものと言えばいろいろなものがあるわけで。
 その中には当然、春のつく本もある。

 いわゆる春画本というやつだ。

 もちろん別に彼女たちのために用意したわけではない。
 あくまで可能性のひとつとして想像しただけで。


「可能性って……まるで獣ね」
「誤解だよ、さとり」
「なんだったんですー?」
「なんでもないわ」


 そう言うと、さとりはリリーホワイトの手を握った。


「まったく、来る場所間違えたんじゃないの?」
「でも、楽しいですよー。道具屋さんとお姉さんの会話とかー」
「そう? いい子ねあなた」
「えへへー」


 リリーホワイトの笑顔に、さとりも笑みを零す。

 小さい子供と接するのは慣れているのかもしれない。
 こうして見ると、とても嫌われ者とは思えないのだが。


「じゃあとっておきの春を教えてあげるわ」
「春ですかー?」
「うん、魔理沙から聞いたんだけどね」


 さとりはなにやらリリーホワイトに耳打ちした。
 そんなふたりを見て、霖之助は疑問符を浮かべる。


「何を教えてるんだい?」
「いいから、あなたはそこに座ってて」


 伝え終わったのだろう。
 リリーホワイトはトテトテと歩くと、霖之助の膝に飛び乗った。


「ほえ~」
「……これが、とっておきかい?」
「ええそうよ」
「魔理沙から……なるほどね」


 頷くさとりに、霖之助は肩を竦める。


「どう? 春を感じるかしら」
「ぽかぽかしますー」
「僕の膝の上は商品じゃないんだが」
「あら、いいじゃない。減るもんじゃないし」
「確かに減らないけどね」


 リリーホワイトの頭を何となく撫でながら、苦笑を漏らす霖之助。
 彼女の金髪と長い髪が、かつての少女を彷彿とさせた。

 ……だから、ではないが。
 何となく、懐かしい記憶が蘇ってくる。


「まあ、もう少し待てば温かくなるだろうし。
 それまでなら、いるのは構わないよ。店を手伝ってもらうけど」
「最初からそう言えばいいのに」
「断っていたわけじゃないだろう。
 それに、幻想郷で一番先に今年の春を体験できるというのはなかなかいいものだしね」


 いつだったか、紅魔館のメイド長がこの妖精を探しに来たことがあった。
 春を独り占めするつもりだったらしい。

 あの吸血鬼の考えることはいつも突拍子がないと思う。
 だからこそ彼女らしいのだが。


「すぅ……すぅ……」
「あらあら、寝ちゃったわね」


 さとりは優しげな眼差しで、眠るリリーホワイトを眺める。


「ふふっ」
「なんだい?」
「いえ、小さい春が生まれたみたい」
「確かに、リリーは春の妖精だが……」
「そうじゃなくてね……ま、あなたにはわからないでしょうけど」


 首を振る彼女は、答えを言わないまま言葉を続けた。


「でも、その場所よさそうね。地下にも設置しようかしら」
「勘弁してくれ。僕はこの場所を動く気はないよ」
「あら、残念」


 本当にそう思っているのだろうか。
 笑うさとりの真意は、よくわからない。


「でも、私も体験してみたいわね」
「君がかい?」
「ダメかしら」
「さて、ね」


 霖之助はリリーホワイトを起さないように気をつけ、椅子に体重を預けた。
 春のような眠気に、身を委ねながら。


「春が来たら、考えることにするよ」

コメントの投稿

非公開コメント

更新のスピードに脱帽。


リリー・ホワイトのキャラは、なんか掴みにくい
「春ですよー」しか言っていないイメージが

No title

さすがの保護者の貫禄 だてに魔理沙を娘として扱っているだけあるな
ほのぼの家族
春がきて口惜しそうにリリーに別れを告げる霖之助・・・ってとこまで妄想してニヤニヤ

No title

ぽえぽえしたリリーの無邪気さと、優しい霖之助さんがとてもほほえましい。
春は此処にあったのですね。

No title

ほのぼのしてて暖かくなる話ですねwww

優しいお兄さんって素敵です(´∀`)

誰も「春買いませんか」に突っ込まないあたり、皆高度に訓練されてるなあと感じる今日この頃w

No title

ブログを見るのをとっても楽しみにしています。

No title

さとりさんたら何を想像したのかしら・・・2828

やっぱり霖之助に父or兄役はぴったりですね。

No title

リリーお前なぜ買わそうとしたwww

前半中盤はともかく、後半はいい保護者でしたね^^
とりあえずリリーそこかわr(ピピピピチューン ←粛清
プロフィール

道草

Author:道草
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フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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