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歌と猫とキーボード

韮さんからネタをもらったリリカ霖。
はて、バレンタインSSを含めるとこれでほとんどのカプは書いたのかな?(書籍は除く)


霖之助 リリカ








「これちょーだい」


 言葉と共に、カウンターの上にプラスチック製の置かれた。
 霖之助はその道具を見、そして少女の顔に視線を移し……思わず口を開く。


「本当に買うのかい?」
「ええ、だっていい曲だもの。何か問題あるの?」


 糸のように細い目を困惑に染め、彼女――リリカは首を傾げた。
 特徴的なその帽子が、動きに合わせて少し揺れる。


「どうしたの? 鳩が豆鉄砲食らったような顔してる」
「いや、ちょっとね。どこから言うべきか……。
 ん? いい曲って、本当かい?」
「なんで店主さんが驚くのよ」


 疑問符を浮かべる彼女に、霖之助はひとつ深呼吸。
 それから改めて、カウンターの上に視線を向けた。


「まさかこれを買う客が他にもいるとは思わなかったんだよ」
「誰か決まった人が買うの?」
「ああ、スキマ妖怪と亡霊の姫がね」


 彼女が持ってきたのはCDやカセットテープ……いわゆる音楽の記録媒体だ。
 ひとつの種類だけ持ってくるならまだわかるのだが、雑多な種類を買おうとしているのはどういうことか。

 ……そんな感じで悩んだ末の驚きというやつである。


「これらの道具を聴くにはそれ専用の再生機が必要のはずなんだが」
「ああ、そういうこと。
 別にそんなもの必要無いわよ。私が聴いてるのは幽霊だし」


 リリカは事も無げに頷くと、澄まし顔で首を振った。


「幽霊を?」
「そう、音の幽霊。私は騒霊だもの。使えて当然でしょ?
 聴く者のいなくなったこの道具に宿った、悲しい旋律。
 聴いてあげないと可哀想よね? こんなところに置きっぱなしより」
「こんなところは余計だよ」


 芝居がかった彼女の仕草を見れば、何が言いたいのか一目瞭然だった。
 可哀想だから安く売れ、ということだろう。

 歌という、ある意味魂を封じ込めた記憶媒体。
 そこに移った気質を読み取れるのなら、確かに歌を聴くことも可能だろう。


「なるほど、そういうことか」
「そういうことよ。なんかがっかりしてるわね?」
「ああ、ひょっとしたら僕の知らない再生機でもどこかで動いてるんじゃないかと期待したんだけど」


 それが騒霊の能力から来るものなら真似られそうにない。
 霖之助は肩を竦めると、精算するため算盤をたぐり寄せた。


「でも予想外だったわ。
 まさか道具を買おうとして、売るほうがビックリするなんて」
「勘弁してくれ。こっちとしても予想外だったんだよ」


 算盤の珠を弾きながら、霖之助は苦笑を浮かべる。
 それから思い出したように、疑問の言葉を投げかけた。


「騒霊なら、同じ事が出来るのかな? 例えば、君の姉さんとか」
「たぶんできると思うわ。あとは幽霊使いとか……」


 そこまで言って、リリカは霖之助に問い返す。


「私のこと、知ってるの?」
「もちろん。何度かライブを見に行ったことあるし、君たちは有名人だからね」
「そうなんだ。ありがとー」


 営業用のスマイルを浮かべ、一礼をするリリカ。
 様々な宴会に呼ばれる彼女たちのことを知らない幻想郷住人のほうが珍しいかもしれない。

 もっとも、霖之助がライブに行ったのは彼女たちが使っているという値打ちものの楽器を見物に行くことがメインだったのだが……。
 わざわざそんな事を言う必要は無いだろう。


「君はうちに来るのは初めてだったかな。誰かに聞いて来たのかい?」
「うん、新聞屋にね。変な店があるからって」
「文か……。変な伝え方をしないように注意しないとな」
「でも実際変でしょ? 店主さんにも使えない道具ばっかり置いてあるんだから」
「…………」


 そう言われては何も言い返すことが出来ない。
 そんな霖之助の心境を知ってか知らずか、リリカは店内を見回し笑みを浮かべる。


「ま、個人的には結構アタリだわ。姉さん達に見つかる前に来てよかったわね」
「僕の個人的には皆で来てくれたほうがありがたいんだがね、売り上げ的に」


 ある意味営業妨害なのではないだろうか。
 まあその分彼女が買ってくれれば問題無い。


「リリカ君は、これらの曲を聴くことが出来るんだな」
「そうよ。羨ましい? 偉い?」
「正式な使い方ではないにしろ、道具を役立てられるのは確かに羨ましいよ」


 道具は正しい持ち主のところへ導かれる。
 それ相応の人物が現れたら手放すのは吝かではない。

 もちろん保管料などはいただくが。


「これ、僕にも聞こえる形で再生することは出来ないかな?」
「んー、私が演奏する形でなら可能だと思うけど」
「本当かい?」
「出来るけどー」


 そこでリリカはわざとらしく言葉を切る。
 細い眼をさらに細め、霖之助を見つめてきた。


「でも、タダってわけはないよね?」
「もちろんお代は勉強させてもらうよ」
「そうこなくっちゃ」


 ぽんと手を打ち、嬉しそうに笑う。

 抜け目ない性格だ、と阿求は言っていた。
 なるほど確かにその通りらしい。


「じゃあちょっと待っててね……っと」


 どこからともなくキーボードを取り出すリリカ。
 楽器の幽霊らしく、収納は自由なのかもしれない。


「じゃあ、再生するよー」
「ん……?」


 キーボードから流れてきた旋律は聞き覚えのあるものだった。
 ずっと昔に聴いた曲。


「これは……」
「知ってるの?」
「ああ、昔外を放浪していたときに何度か聴いたことがあってね……。
 この国では、第九と呼ばれてるらしいが」


 リリカが最初に手に取ったのは、クラシックのCDらしい。
 キーボードだけで演奏可能とは思えないが……そこはそれ、視覚的なものなのだろう。
 彼女が操ってるのは曲霊そのものなのだから。


「これ一曲全部聴くと長いから、ある程度でいい?」
「ああ、構わないよ。聴けただけでも満足だ」
「そのわりには名残惜しそうに見えるわ」


 リリカはそう言うと、キリのいいところで演奏をストップした。
 それから次のCDを準備する。


「これは最近の曲か」
「みたいねー。激しいのはメルラン姉さんのジャンルなんだけど」
「ふむ……」
「あ、悪くないとか思ってるでしょ」
「元より君のチョイスだからね。悪いはずがないさ」
「そう?」


 CDから音を取り出しているのか、それとも忠実に再現しているのか。
 だとっしたら瞬時にコピーしているのかもしれない。

 どちらにせよ霖之助には再現できないようだ。


「じゃあ次ね」
「これもクラシックなのかい?」
「なんかね、クラシックに歌付けたやつみたい」
「ああ、カバー曲というやつか」
「うん」
「歌付きねぇ……」


 3曲目を聞いている最中、ふと霖之助は疑問を抱いた。


「歌は付かないのかな」
「へ?」


 4曲目をどれにしようか迷っていたらしいリリカが、素っ頓狂な声を上げる。
 何故か慌てたように、首を振った。


「さすがに歌の部分を演奏するのは無理だよ」
「ああ、それもそうか」


 言われて納得する。


「君は歌わないんだね」
「私?」
「ああ。君の他にいないだろうに」
「えっとー……そのー」


 何となく口を突いて出た言葉に、深い意味はなかったのだが……
 なにやらリリカは予想以上の反応を見せた。


「君たちがライブするとき、たまにボーカルを雇ってるだろう?」
「そうね。ミスティアとか、あと永江さんとか」
「それで君たちは歌わないのかな、と思ったんだ」
「私が? ボーカルを?」


 メルランはトランペット担当なので歌は歌えない。
 もしやるとするならルナサかリリカなのだろうが……。
 よく言えば落ち着いた雰囲気の長女はそういうことをする雰囲気ではないので、必然的に選択肢は限られる。


「でも騒霊だから楽器が専門なのかな」
「うん、まあね」


 なんだか歯切れの悪い返事を残し、リリカは曖昧に頷いた。

 しばらく沈黙が落ちる。


「実はね、練習はしてるのよ」
「歌のかい?」
「そうそう」


 やがて口を開いたリリカは、自信のなさそうな口調だった。
 なかなか珍しい表情かもしれない。


「でも見たことないね、君が歌っているところは」
「だって誰にも見せたことないんだもん。姉さんにもね」


 そう言って微笑む彼女の表情は、少しだけ……寂しそうに見える。


「いつもひとりで練習してるのよ。誰にも聴かれたくないから。
 ほら、誰にも聴かれなければ、自分が上手いかもって思うでしょ?」
「なるほど」


 下手と思う者がいなければ、誰にも下手だと思われないわけで。
 当然の話だが……やはり彼女の表情が物語る通り、寂しく思えた。


「まるでシュレーディンガーの猫だね」
「猫? 今歌の話してるんだけど」
「これは不確定性の話だよ」


 そう言って、霖之助は引き出しから小さな箱を取り出した。
 もちろん中身は空だ。
 猫が入っているわけではない。


「外から見えない箱の中に、猫と1秒ごとに半分の確率で毒を出す装置を入れたとする。
 箱の中は確認できないものとして、しばらく経ったあとに箱の中の猫は生きてるか死んでるか、と言う思考実験さ」
「猫に聞けばいいじゃない。死んだら出てくるんだし」
「それは幽霊視点だろうに。まあ別に猫じゃなくてもいいんだけどね」


 本来は確認しようとしたら自動的に毒が出るとかいろいろな前提条件があるのだが。
 そもそも元はミクロの世界の話なので、猫で説明するのもおかしいらしい。


「とにかく、この猫が生きてる確率は半々になるわけで。
 つまり生きているのと死んでいるのが同居しているという状態になるわけだ。
 ……まあ、そんな思考実験があるんだよ」
「ふ~ん?」


 霖之助は箱の中に先ほどリリカが再生したCDを入れた。

 霖之助にとって、この箱の中が何であるかわかっているし、それが奏でる旋律も先ほど聴いた通りだとわかる。
 だがこの中に入っているのがリリカの歌だったらどうだろうか。


「君の歌も、誰かに聴かれない限り上手いか下手か不確定である、という状態なわけだ」
「確かにそーかもね」


 とはいえ、シュレーディンガーの猫と違うのは別に誰かに聴かれたところでリリカが死ぬわけではないということだ。
 元々騒霊なので、生きるか死ぬかという話とは無縁ではあるし。


「でも、下手って言われたら嫌でしょ?」
「そうだね。でも誰かに観測されない限り上手とも言われないよ」


 そこまで言って、霖之助はふと気付いた。


「いや、話が逸れたね。僕は可能性の話をしただけで、無理に言ってるわけじゃないよ。
 それでなくても、君の演奏は素晴らしいものだしね」


 いつの間にか歌を聴く方向で話が進んでいたらしい。
 別に彼女の歌を聴くことが目的ではないのだ。


「待って」
「ん?」
「ちょっと待ってて……。心の準備するから」


 しかしリリカはなにやら目を閉じ、深呼吸していた。
 そしてゆっくりと目を開き……霖之助を上目遣いに覗き込む。


「さっきの曲でいい?」
「歌えるのかい?」
「たぶん。でも笑ったら、呪い殺すわよ」
「殺されたくはないね。万に一つもその可能性はないと思うが」
「……約束だからね、店主さん」


 頬を少し染め、初々しさの残るまま、彼女は旋律を紡ぐ。







 霖之助だけが聴いたリリカの歌声は、とても可愛らしいものだった。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

かわいらしい、がどういう風にかわいらしいのか気になりますねw

「歌声的な意味で」かわいらしいのか、「音痴だけど頑張ってる的な意味で」かわいらしいのか・・・・・・
もちろん俺は前者で考えましたww

初めての歌声を披露するの恥ずかしがるリリカかわいいです^q^

新作が出るので、カプが広がりますね。

にしても、霖之助さんは道具に関するとやっぱり違いますね。

No title

第九って日本だけの俗称だよ
海外で聴いたならドイツ語とかの方がいいんじゃなかろうか

No title

悶えるばかりで上手く文字に表現出来ないこのもどかしさっ。
もじもじリリカすごく可愛いです。

No title

イ、イクさんがボーカル?なにそれ超聞いてみたい!

これでプリズムリバー姉妹全員攻略完了ですね。次も楽しみにしています。
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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