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ぶらり稲荷下車の旅

少女が霖之助と一緒に外の世界に行くとしたら、どんな生活になるだろう。


紫が原因で起こしてしまった異変を、ひょんなことから解決してしまった霖之助。
彼女から報酬にと、霖之助が望んでいた外の世界へ行く権利を与えられる。

ただし、1年間という期限付き。
旅をするのもよし、一つ所に留まるもよし。
支度金と場所は紫が用意してくれるらしい。
必要なら仕事も紹介してくれる、と紫は言った。


それから1ヶ月間、霖之助は外の世界について勉強する。
そして……。


~ここまでテンプレ~


ハzLさんに挿絵を描いていただきました。感謝感謝。


霖之助 藍







 窓の外に見える景色が、ゆっくりと流れていく。
 たまに隣を走る自動車に抜かれているところを見ると、随分速度が遅いのだろう。

 カタンカタン、と伝わってくる振動の単調なリズムが、揺りかごを連想させた。


「どうぞ」


 差し出されたカップを、しばし霖之助は惚けたように見つめる。
 カップから細く白い指、腕、肩、そして美しいその顔に視線を動かし、やがて気が付いたかのように焦点を合わせた。


「ああ、ありがとう、藍」


 霖之助はカップを受け取り、正面に座る少女に礼を言った。

 どうやら夢見心地だったらしい。
 ……いまだこの状況に慣れていないのかもしれない。

 外の世界を彼女とふたりで旅をしている、この状況を。


「少し眠られてはいかがですか?」
「いや……」


 彼女の提案に、霖之助はゆっくりを首を振った。


ぶらり稲荷下車の旅


 見慣れた帽子と尻尾がないとかなり印象が違って見える。
 だがこの世界で唯一霖之助の見知った少女であり、それが何より彼を安心させた。


「少しでもこの景色を見ておきたいんだ」
「そうですか」


 藍はひとつ頷くと、カップ代わりの水筒の蓋にお茶を注ぎ、口に運ぶ。
 この中に入っているのは幻想郷のお茶らしい。


 ――どうりで、飲み慣れた味がするはずだ。


 霖之助も彼女に倣ってお茶を飲むと、やがて口を開いた。


「少し、意外だったよ」
「はい?」


 空になった霖之助のカップ……水筒の内蓋を受け取りながら、藍は首を傾げる。


「君がついてきたことさ」


 最強の妖獣と呼ばれ称される彼女の、そんな少女らしい仕草に思わず微笑みつつ、霖之助は言葉を続けた。

 すると彼女は少しだけ済まなそうな表情を浮かべ、頭を下げる。


「気ままなひとり旅とはいかず、申し訳ありません」
「なに、旅は道連れ世は情け。
 それについて言うつもりはないし、むしろ助かってるんだが……」


 その言葉に嘘はない。
 霖之助ひとりだったら、これほど効率的に旅は出来なかっただろう。

 そうでなくても、今回のこれは期限付きなのだし。


「いや、幻想郷でこの旅の説明を受けていた時、君の主人が随分楽しそうでね」
「紫様は電車が好きですから」


 言いながら、藍は笑みの形に眼を細める。


 外の世界への外出権を貰い、霖之助は紫に「外の世界の乗り物で旅をしてみたい」と答えた。
 そこで彼女から薦められたのが、電車での旅だ。
 待ってましたと言わんばかりの勢いで。

 交通費や宿泊費の経費は全て紫が出してくれるという。
 正直破格の待遇だと思ったが、ただひとつだけ条件があった。

 それが、藍を連れて行くことである。


「随分乗り気だったからね。それに電車が好きというなら……ひょっとしたら紫がついてくるのかも、と思ったんだが」
「あら? そちらのほうがよろしかったでしょうか?」


 藍の疑問に、霖之助は苦笑を浮かべた。
 わかっていて聞いているのだ、彼女は。


「いや、君でよかった。今と違って、四六時中落ち着かない気分になるだろうからね」
「あら、では私といると落ち着きますか?」
「正直、ね」


 霖之助が外の世界を歩いたのはもう100年以上前の話だ。

 知らない土地、知らない時代。
 ましてや知らない世界である。

 顔見知りがいるというのは、これ以上ない安心感があった。


「好きだから、来なかったのですよ」
「うん?」


 その答えに、しかし霖之助はすぐに納得することが出来なかった。
 そんな彼の様子を見て、藍は楽しそうに笑う。


「例えば霖之助さんが綺麗な景色を見たら、誰かにそれを話したいでしょう?」
「まあ、確かにね」


 こうやって見聞きしていることも、いつか誰かに話すだろう。
 歴史書の番外にしたためるのも悪くない。
 もちろん話を聞いてくれる相手がいれば、だが。


「……ああ、なるほど。そういうことか」
「ええ。紫様は霖之助さんのお土産話に期待しておいでです」
「彼女の知っている光景と僕が今回見る景色、どれだけ変わったのかも楽しみだね」
「同じ時間を共有することもいいものですが……。
 同じ時間を共感することも、それはそれで楽しいものですよ」


 このどこまでも広がる景色も、電車が好きという紫にとって、何度も見たものなのだろう。
 長く生きた妖怪ならではの楽しみ方というやつか。


「紫様は全ての路線を巡ってますから、詳しいですよ?」
「全て、ねぇ」


 壮大な話だが、彼女ならあり得そうだから困る。
 どこまで本当かはともかく。


「それに霖之助さんと同じ時間は、私が見てますからね。
 もし忘れたりしたらサポートしますよ」
「そうならないようにしたいものだがね」


 霖之助は懐からカメラを取り出し、外の景色を収めた。
 天狗に使い方を習ってきた、幻想郷式のカメラ。
 フィルムを使い切っても、藍が取り替えてくれるらしい。


「このあたりの景色は幻想郷と変わらないな……」


 どこまでも広がる自然。
 違うのは電線と僅かばかりの道路くらいだろうか。


 都市部を走る電車にも乗ったが、あちらは満足に座ることも出来なかった。
 一駅の間隔が数分しかないのは随分忙しなく思える。
 何より驚いたのは、時刻表の正確さだったが。


 ふたりが今乗っている電車は山間部を縫うようにして走るため、次の駅まで数十分とかかることもあった。
 しかしどちらかというとこちらのほうがゆったりしていいと思う。


「……いいかな?」
「ええ」


 霖之助はカメラを仕舞おうとして……何となく、藍の写真を撮ってみた。
 優しく微笑む彼女を収め、なんだか満足した気分になる。


「そろそろお昼にしましょうか」
「もうそんな時間かい? 時間が経つのは早いものだね」


 窓の外の太陽は、既に高く上がっていた。
 確かに彼女の言う通りのようだ。


「一食くらい食べなくても平気だけどね」
「ちゃんと人間らしい生活をしてください。それも条件のはずですよ?」
「わかっているよ」


 食事は弁当を買う時もあれば、売店やコンビニなどで済ませることもあるし、食事処に寄ったりもする。
 霖之助としてはご当地駅弁的なものが気に入っていたものの、いかんせん売っている駅が少ない。
 だが出来ればそういう駅弁も全部食べてみたい、というのが密かな旅の目的になっていた。


「次の駅で降りましょうか。この先の駅では特に店もありませんし。
 ついでですから、今日はそこで宿を取りましょう」
「ふむ、そうかい?」


 紫と一緒にだろうか、一度来たことがあるらしい藍はやはり頼りになる。
 都市部や有名所ならガイドブックなどで情報を得ることも出来るが、田舎の駅だとそうもいかないのだ。

 電車内では風景を見る。
 旅館では買った本を読むのが霖之助の旅の楽しみ方だった。

 それに、藍と一緒の利点は宿選びにもある。
 ひとり旅の客は旅館があまり歓迎しないこともあるらしいからだ。

 加えて銀髪金瞳という霖之助の見た目もあるため、外国人と間違われることもあった。
 ……名前はどこまでも和風なのだが。

 なので仕方なく、霖之助は八雲と名乗っていた。
 藍とは書類上夫婦という設定だ。
 新婚旅行と答えておけばだいたいの言い訳に使えるらしい。

 そういう流れになったときに、紫が嬉しそうな顔をしたあと、複雑そうな表情になったのは今でも覚えている。


「次の目的地はでは、まだ遠いのかな」
「もう少し先の駅ですね。
 この駅から少し歩いたところに土地神を祀った祠があるはずですから、そこに行きましょうか」
「そうだね」


 旅を始める際、藍が来ると知って立てた目標があった。

 稲荷さんを、できるだけ全て回ること。

 そうでなくても、祠などは尋ねてみようと決めていた。


「しかし随分あるんだね、稲荷神社というものは」
「それだけ身近な存在だと言う事ですよ」


 今まで訪れた場所を記したノートを見ながら、肩を竦める。
 霖之助もある程度知ってはいたがこれほどとは思わなかった。


 稲荷とは稲生、つまり農業神である。
 その所在地は全国津々浦々に渡っていた。

 さすがに屋敷神として祀られているものまで参拝するのは無理だったが。


「君がいてくれてよかったよ。ひとりじゃ不可能だったからね」
「任せてください。最後までお付き合いしますから」


 自信たっぷりに頷く藍に、霖之助は笑みで返した。

 ちょうどその時、車内アナウンスが聞こえてくる。
 電車もゆっくりとスピードを落とし始めていた。
 そろそろ次の駅に着くらしい。


「忘れ物はないですか?」
「ああ、大丈夫だ」


 旅の道連れは少ない。
 せいぜい明日の下着と少しのお金、あとは吟味して買った本くらいだ。
 本が欲しくないかと言われれば嘘になるが、いつか流れ着いてくる本より、一番の目的である旅を満喫したかった。

 それに無人駅で野宿することもあるので、あまり荷物を増やしたくないという本音もある。 ……まあ、藍がいるので野宿したことはほとんどないのだが。


「霖之助さんを連れて行くと話したら、あそこの同胞も嬉しそうでしたよ。
 明日は楽しみです」


 藍は水筒などを手早くまとめながら、楽しそうに言った。
 狐独自のネットワークがあるようだ。


 だがそんな話を聞いて、ふと思い浮かんだことがあった。


「なんだか、君の親族に挨拶に行ってる気分だね」
「えっ……」


 藍が何か言いかけたが、ちょうど電車が駅に着いたためわからなかった。


「藍?」
「あ、すみません」


 しかしその戸惑いも一瞬のこと。
 すぐにいつもの表情へと変わる。


「霖之助さん。稲荷巡りが終わったら、最後に挨拶して欲しい場所があるんですけど」
「ああ、構わないよ」
「そうですか」


 駅のホームで去っていく電車を見送りながら、藍は霖之助の腕を取った。
 新婚ならこれくらいのことは当たり前らしい。


「では、紫様に待っていて貰いますね。
 ……天気雨の準備と一緒に」


 雲ひとつ無いよく晴れた空の下。
 金銀の輝きが、町の宿へと消えていった。

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非公開コメント

No title

どうも、初めまして、にわか鉄道ファンの自分が通りますよっと。
藍様と列車で二人旅・・・霖ノ助がうらやましいのお・・・
向かい合わせのクロスシートの車両も現在は大分数が減ってきてしまったし(千葉県でも最近までガンガン走っていたのですが・・・)
新型車は先頭車のみ向かい合わせクロスシートなので混んでるとボックス席がとれませぬ・・・

それから、この紫様とは楽しい鉄道の旅ができそうだなあ。
ああ、GW中も列車で一旅してきたのに、もう一度行きたくなってきたぞ。

No title

のんびりとした新婚旅行という感じがたまらんです(何
稲荷巡りの最後でどうなるのか......き、期待しても良いですかっ

No title

なんだか妙に和んでしますお話ですね。
紫の電車好きは公式ですよね。廃線ぱくってスペカにするぐらいですしw
最後に出てきた天気雨も皮肉なことに紫の気質(天気)ですよねぇ。
藍からそれを準備してと言われてどう反応するのやらwww

緋想天、非想天測プレイヤーの自分としては非常に面白かったです!

No title

三大稲荷の稲荷神社といえば岡山しか知らないんですが、他2箇所はどこでしたっけな。
電車大好きですけど金も時間もない悲しき現実・・・。こんなssを見るとふと窓から見える景色を想像してしまいますね。

そしてゆかりん・・・(´;ω;`)ブワッ

No title

最後に伏見の総本社でも行って外堀埋め尽くすのかと思ったら、すでに結婚を前提として主に直接対峙の覚悟完了済みとか、藍しゃまマジ男前。
そしていつもの如く、ゆかりんの扱いw

GW中はまったく遠出しなかったんで、せっかくの最終日に電車で動きたくなりますわー。

No title

このシリーズ良いですよね。大好きです。

帰った後、天気雨だけでなく赤い雨も振りそうだ。
そしてゆかりんの鉄ちゃん疑惑…w
あの電車は神主の故郷の廃線となったやつだそうですけど、紫とも何か縁があるのかな……?

誤字報告: 通りで → 道理で

No title

狐の嫁入り・・・

哀れゆかりんwww

No title

>明日の下着と少しのお金、
霖之助さんあんたメダル変身ライダーかwwww

そしていきなり嫁入り発言とは・・・・・・らんしゃま恐ろしい娘wwww

藍霖はほのぼのしていていいですよねー


ゆかりんの電車スペルの威力には泣かされる

No title

稲荷様は藍さんの親戚とかになるんでしょうか?www

知らず知らずのうちに挨拶回りを済ませる霖之助さんと藍さん・・・ヌフフ
幻想郷に帰ってきた時の紫様のリアクションを考えると・・・(´;ω;`)ナンテコッタ

狐の嫁入りか・・・稲荷寿司とお赤飯を準備しておきますね

穏やかで暖かいいいSSでした 藍霖最高!

No title

藍霖だー!藍霖は安心できる暖かさがありますねー。ほっこり

列車でのんびり二人旅いいですなー。
自分も一回ぐらいのんびり列車で旅をしてみたいものです。無理でしょうがw
ゆかりんの電車好きは和みますが天則的には・・・ぅぅガクガク(((;゚Д゚)))ブルブル

そして狐の嫁入りw
・・・藍しゃまもふもふ,;゙ ・ω・ ;,
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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