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太陽の車輪

『太陽の休憩所』の続きかもしれないお空霖。
駐車場の猫はあくびをしていると思います。

いわゆる前編っぽいものだったり。


霖之助 お空









 気配とは不確かなものである。
 それは呼吸だったり足音だったり、あるいは鼓動の音や体温であるかもしれない。

 だが能力者や達人ならいざ知らず、常ならざる感覚を持ち合わせていない霖之助にとってそれは確たるものになり得ず、曖昧の域を出ることはない。

 しかし曖昧なものであったとしても、人を動かすには十分な理由だった。

 早い話……店の外に誰かがいる気がする、と。


「……お空?」
「あ、おにーさん」


 ドアを開け、店の外を確認した霖之助は、見知った少女を見つけて首を傾げた。

 鴉の羽根に白いマント、黒い髪をポニーテールにまとめた少女。
 お空は霖之助に太陽のような笑顔を向けている。

 彼女は店の前に置かれたベンチに腰掛けていた。
 気配がすると感じたのは、店内から羽根の影でも見えたせいだろう。
 霖之助の座っている位置からはちょうど死角になっているのだ。

 それにしても、どうして彼女は店に入ってこなかったのだろうか。


「何をしてるんだい、そんなところで」
「バスを待ってたの」
「バスを?」


 お空が座っているベンチの横には、バスの時刻表の貼られた標識が立っていた。
 確かにバス停に見えるだろう。

 ただし時刻表は白紙であり、そもそもこの標識自体、霖之助もいつ拾ったか覚えていなかった。
 用途も目的もわかっている道具ではある。
 それが機能しているかはさておき。


「ここにバスが来ると思っているのかな」
「そーだよー」


 屈託のないお空の笑顔に、霖之助は苦笑を浮かべた
 バスと言えば外の世界で走る大型の自動車のことだ。
 だが当然ここ幻想郷にはそんなものが走っていると聞いたこともない。

 そんな霖之助の心境をよそに、お空は楽しそうに話を続ける。


「お燐が言ってたの。森の中に昔から住んでるひとのところにバスが来るんだって」
「昔からはいいとして、ここは森の中ではなく入り口だがね」


 そう言って、霖之助は店の周辺を見渡した。
 妖怪の住む魔法の森と、人間の住む里。
 その間に香霖堂はある。


「しかし君の言う通り長年ここに住んでいるが、そんな話は聞いたことがないな」
「そうなの?」


 しゅんとお空は肩を落とした。
 しかし霖之助は彼女に向かって首を振る。


「気を落とすのはまだ早い。君はお燐からそのバスのことを聞いたんだね?」
「うん、ねこのバスって言ってた」
「じゃあもしかすると、猫だけが知っているものかもしれない。
 だったら僕が知らなくてもおかしくはないね。
 でも猫は夜行性だから、もっと遅い時間じゃないかな」


 そもそもお燐が知っているバスと言うことは、外の世界と同じく自動車であるとも限らない。
 『ねこのバス』というのが何を指すのかはわからなかったが、きっと猫の間に伝わるバスなのだろう。

 元々バスというのは乗合馬車のことだ。
 可能性は十分にある。


「そっかー。じゃあもう少し早く来ればよかったかなぁ」
「うん?」


 納得した顔で頷くお空だったが、ふと霖之助は動きを止めた。
 空を見ると、太陽は高い位置にある。
 まだ昼を回ったところだ。つまり……。


「まさか、朝からずっといたのかい?」
「うん、お日様があがるのをずっと見てたよ」
「……どうりでなんか気配がすると……」
「うにゅ?」
「いや、なんでもないよ」


 今の今まで気づかなかったことに自嘲気味に笑いながらも、ごまかすように霖之助はお空の頭を撫でる。
 彼女の気配は霖之助が起きたときからずっとしていた、というわけだ。


「しかしバスか……香霖堂行きのバスなんかあったらいいかもしれないな」
「バスはすごく大きくてすごくたくさん運べるのよ!」


 なにやらぶんぶんと手を動かすお空。
 バスの大きさを身体で表現したいらしい。

 そういえば、お空は香霖堂でよく外の世界の乗り物の本を見ていた気がする。
 さすがに霖之助も実物を見たことはないものの、それがどういうものかはわかっていた。


「お空は乗り物が好きなのかい?」
「うん、好き」


 屈託のない笑顔で、大きく頷いた。
 それだけで、本当に心から好きなんだとわかる。


「お燐がたまに車に乗せてくれるんだけど、とっても楽しいの」
「ああ、あの猫車ね」


 あれは乗り物というか、本来は死体を運ぶためのものだった気がするが。
 特に気にならないのだろう。

 彼女の中では単なる仕事道具なのかもしれない。


「……でも、君は飛べるだろう?」


 それは霖之助からしてみれば当然の疑問だった。

 地獄鴉はカラス天狗と同じく鴉の妖怪だ。

 ましてや彼女は太陽神を取り込んでいる。
 つまり光の力を持っていると言うことだ。

 外の世界の本によると、光より速いものはないという。
 とすれば、お空の飛ぶ速さは推して知るべしだろう。

 だが。


「おにーさん、わかってなーい。
 自分で飛ぶのと乗り物に乗るのは別物なんだよー」
「そういうものか」


 彼女の笑顔でそう言い切られると、なんだかそんな気がしてきた。


「で、その猫のバスに乗りたくて待ってたわけだ」
「そうなの。でももうちょっとちゃんと聞いてくればよかった」


 おそらく聞いてすぐに飛び出してきたのだろう。
 その様子が目に浮かび、霖之助は思わず笑みをこぼす。


「しかし今から夜までここに座っているのももったいないんじゃないかな」
「そうなの。でも明日はお仕事あるし……」
「なるほど……そうだ、ちょっと待っててくれ」


 コロコロと表情を変えるお空に、ふとあることを閃いた。
 お空の返事も聞かず、納屋へと向かう。


「確かこのあたりに……あった、これだ」


 目指すは納屋の1階右奥。
 そこには作ったはいいが使いどころのない、もしくは未完成の品ばかりが納められていた。
 いつか使うときが来るまで、と置いていたのだが、日の目を見ることになりそうで何よりである。
 決してもったいなくて処分できなかっただけではない。


「待たせたね」
「ううん、ぜーんぜん。おにーさん、なにそれ?」
「これかい? これは自転車さ」


 お空に尋ねられ、待ってましたとばかりに霖之助は説明を開始した。


「お空は自転車というものを知っているかな?」
「んー……知らない」


 霖之助が持ってきたのは、フレームが金属でできた自転車と呼ばれる乗り物だ。
 これもお空の読んだ本に載っていたはずだが、どうやら大きな乗り物にしか興味がなかったようだ。

 お空の前に自転車を置き、説明を続ける。


「構造は簡単だ。ここのペダルを踏んで回すと車輪が回り、前に進む。わかりやすいだろう?」
「ほえー」


 軽く前輪を持ち上げ、くるくるとペダルを回す。
 ペダルの回転に呼応するように、車輪が回転した。


「だがこれには少々細工がしてあってね」


 ここからが本番と、霖之助は身を乗り出した。
 身振り手振りを交えながら、自然と口調はヒートアップしていく。


「外の世界には電動アシスト自転車というものがある。
 これは電気によってペダルを回す補助をするというもので、つまり身体にかかる負担が軽くなるわけだね。
 また同時に太陽発電というものも外の世界に存在し、文字通り太陽の力で電気を起こす装置だ。
 そこで僕はこのふたつを元に、電気に一度変換するのではなく光の力を直接……」


 熱く語る霖之助に……しかしお空は、いつもの笑みを浮かべていた。
 というか、反応がない。


「お空?」
「にゅ?」


 首を傾げた。
 聞いていなかったらしい。

 霖之助はひとつため息をつき、深呼吸。


「お空は、ひまわりを知ってるかな」
「知ってるよ、あれ!」


 わかる話題を振られたからだろう。
 お空は楽しげにある方角を指さした。

 ……あちらは太陽の畑のある方角だろうか。
 少し時期が早いが、今頃花の妖怪が畑の手入れをしている頃だ。


「そうそう、ひまわりは太陽の方向を向くだろう?」
「うん、向くねー」
「この自転車は、あれと同じようにして車輪が回るんだよ。
 太陽の光を受けて、ぐるぐるとね」
「なるほど、わかりやすーい」


 さすがおにーさんと褒めてくるお空に、霖之助は複雑な笑みで返す。


「とはいえどうにも出力が上がらなくてね。今まで倉庫で眠っていたんだ」
「そうなの?」
「ああ、それだけ生命の力は強いということさ。
 簡単に真似できるものではないようだね」


 ひまわりを例に出したのは偶然ではない。
 この自転車を制作する際、花の妖怪に協力してもらったのだ。

 ……結果はまだ出せていないのだが。


「しかし、だ。君がいるとなると話は変わってくる。
 お空、僕にちょっと協力してくれないかな」
「うん、いいよ」


 理由も聞かず、彼女は即決で了承した。

 無防備な少女だと思う。
 まあ、普通の人妖が彼女をどうこうできるとはとても思えないが。


「で、なにやるの?」
「簡単だよ、僕と一緒にこれに乗ってくれればいい」
「乗れるの?」
「もちろん」
「おもしろそう、やるやる!」


 出力が足りないなら入力を増やせばいい。
 実に簡単な話である。

 ただ自然界でそれをやろうとしてもできるものではない。
 そこでお空の出番というわけだ。


「じゃあ、ふたり乗りに改造するからちょっと待っててくれ。
 すぐに終わるよ」
「うん!」


 後ろの車輪の軸にハブを取り付ける。
 作業自体はあっという間だ。

 そして霖之助が自転車に跨り、準備完了。


「よし、これでいい。あとはこの御札を持っていてくれるかな。
 これで君の太陽の力がこの自転車に供給されるんだ」
「わかった。ここに足を置くの?」
「僕の肩に手を置いてくれ。ああそう、そんな感じだ。
 バランスは問題ないかな?」
「だいじょーぶ」


 荷台に腰掛けてもらおうとも考えたのだが、立ち乗りにすることにした。
 実験機故、あまりいいクッションを積んでいないのだ。

 路面状況がいいとは言えない幻想郷では、かなりの揺れが予想される。
 というか、それは普通の自転車で体験済みだった。

 一言で言うと、座っていると尻が痛くなるのだ。


「じゃあ、行くよ」
「おおー」


 ペダルを漕ぐと、軽い滑り出しだった。
 アシストはうまく機能しているらしい。

 少し走ると一度自転車を止め、各部を点検する。


「ふむ、実験は成功かな」
「もう終わりなの?」
「いや、まだ始まったばかりさ。
 今日はこの自転車で人里まで行こうかと思ってるんだ」


 そもそもこの自転車を作ろうと思ったきっかけは、人里に置いて香霖堂への通行手段にしてもらおうと思ったためだ。
 損して得取れという言葉がある通り、いわゆるサービスである。

 この自転車が量産の暁には、香霖堂の売り上げはうなぎ登りというわけだ。
 もちろん、自分の趣味の延長でもあるのだが。


「行こう行こう! ねぇ、お菓子買ってくれる?」
「ああ、報酬はちゃんと払うよ」


 喜ぶお空に、霖之助は笑みで返した。
 しかし、その前に。


「……お空、僕の頭を台代わりにしないでくれないか」


 後輪で立ち乗りし、霖之助の背中に抱きつくような格好のお空。
 つまりなんというか、ちょうど乗っかっているのだ。
 霖之助の頭の上に、お空の豊満な双丘が。


「うにゅ」


 言われて身体を離すお空に、何となく残念な感覚はあったものの……。

 ……こんな姿を誰かに見られでもしたらと思うと。
 背に腹は代えられない。


「ここから人里までどれくらいだっけ?」
「そうか、君たちはいつも飛んでるからわからないかな。
 いろいろとデータを取りながら進むから少しかかると思うけど……」
「だいじょーぶ!」


 言いながら、お空は再び霖之助に抱きついてきた。
 これはもう彼女の癖なのかもしれない。


「じゃあ、出発するよ」
「ほーい」


 再び霖之助はペダルに力を込める。
 軽やかな車輪の音。

 流れる景色は、ゆっくりしたものだ。


「ゆっくりだろう?」
「ん~ん、もっと遅くてもいいくらい」
「そうかい?」


 ……鴉には物足りないかもしれない。
 霖之助はそう思ったのだが、そうではなかったらしい。


「だっておにーさんと一緒に乗ってるんだもん。早く終わるともったいないよ!」
「それはどうも」


 肩から伝わってくるお空の体温を感じながら、霖之助は人里への道を進んでいった。
 ブレーキを少しだけ、握りしめて。

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No title

ヒャッハーお空霖だ~!

猫のバスってそれ足がたくさんあるアレかwww 思わず噴いたww

無邪気なお空かわいいよお空^q^<ウマウマ
後編(っぽいもの?)も楽しみにしてます。

トロロはホントにいるんだよ!
懐かしいですねぇ……。

お空の純粋な笑顔が澱んだ私の心には眩し過ぎて生きるのが辛いですorz
お空の太陽エネルギーは素晴らしいと思います。霖之助さんと接触した二つの衛星も含めて←
道草さんのおかげでお空霖(というかお空)に目覚めてしまいそうです。魅魔様一筋だったのに……orz

No title

お空霖いいですよねww
無邪気なお空とお兄さんな霖之助さんの空気がほのぼのします(´∀`)

お空が好意をはっきりと自覚したら四六時中くっついてるんでしょうね(^q^)

続きキタ―――(゜∀゜)―――!!
お空かわいいよお空

ちなみにネコバスは裏設定では死者が乗るためのものだそうです

No title

お空の一言返事が可愛すぎる。
香霖堂にバス、か・・・
慧音と阿求が常連になりそうですね。

No title

お空かわいいよお空

人里までの坂道をゆっくりゆっくり下ってくわけですね

No title

夏色とサヨナラバス・・・と思いきやとなりのトトロですかw

前編的なものとの事で続きを楽しみにしてます。

ブレーキいっぱい握りしめてゆっくりゆっくり下ってくんですね。 わかります

お空が無邪気すぎて可愛すぎる

後、例大祭お疲れ様でした。
売り子やってた十四郎さんに差し入れで羊羮持って行きました。

No title

ネコバスってバス以外にも列車とかあるんですよね

紫が乗ってたりしないかな
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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