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依姫完全攻略マニュアル

お見合いの話を書こう、と言う流れだったので。
依霖。依姫霖?

bellmanさん。
yamotoさん。
十四朗さん。
が協力者でございます。ウフフ。


霖之助 依姫





「蓬莱人を殺すことが、貴方に出来る唯一の善行です!」


 香霖堂の扉を開け放つなり、閻魔は朗々と言い放った。
 霖之助はお茶を飲もうとしていた手を止め、彼女に向き直る。


「酔ってます?」
「酔ってません」
「客じゃないなら帰ってくれませんか。今すぐに」
「用件が終わり次第すぐ帰りますよ。ですのでお茶は結構です」
「せめて唯一はやめてください。まるでそれ以外価値がないように聞こえます」
「何故なら……」
「いや、やはりその先は言わなくて結構。
 ……ひょっとして、部下のサボりにとうとう堪忍袋が切れましたか?
 小町なら今頃神社でサボっていると思いますが」
「その用件ではなかったのですが、いい話を聞きました。
 帰る時にでも役立てるとしましょう」


 どうやら藪蛇だったようだ。
 友人の未来に冥福を捧げつつ、霖之助は視線を少し移動させる。
 閻魔の後ろで可笑しそうに笑っている薬師へと。


「君の仕業かい?」
「あら、違うわよ」


 永琳は笑みを隠さないまま首を振る。


「ただちょっと閻魔様に蓬莱人の殺し方を聞かれたから、それっぽく答えただけで」
「それを何かしたと言うんだよ」


 なんだか頭が痛くなってきた。

 だがこうしていても事態は改善しない。
 殺すと言っても、文字通りの意味ではないだろう。
 そもそもなんでそんな話題になったのか気になるところだが、あえて触れないでおく。

 霖之助は気を取り直し、真面目な顔に切り替えて閻魔に向き直る。


「蓬莱人のようなものを昇天させた経験ならありますが。それはもう何度も」
「…………」
「…………」


 自信たっぷりに言い切った。
 しかし周りの反応は何故か冷たい。

 映姫に至っては可愛そうな瞳さえ浮かべる始末。


「ちなみに聞いておきますが、それは八意女史のことですよね?」
「もちろんそうですが」
「貴方はもう少し、女の嘘を見抜く努力をするべきです」
「……え?」


 その言葉に、霖之助は思わずふたりの瞳を見比べた。
 信じていたものに裏切られたような、そんな気分で。


「……ええ?」
「あらやだ、ばらしちゃうの?
 だって勢いがあるのはいいけどそればかりじゃちょっとねぇ。
 もうちょっとテクニックを磨いて欲しいんだけど」


 まさかの二度見に、さすがの永琳も驚いたらしい。
 そこまで言って、彼女は慌てて手を振った。


「もちろん全部が全部、嘘じゃないわよ。
 そうね、5回に1回くらいは本当だったわ」


 そんなフォローをされても余計に泣けてくるのだが。
 むしろ今まさに泣きそうである。


「貴方達がそういう間柄であることは知ってますしあまり細かいことを言いたくはありませんが、
 そういった行為はもっと節度を持って行っていただきたいですね。
 男女間の古来からの快楽の手段であることは否定しませんけど、
 房中術に代表されるようにそのやりとりは男女の身心の和合を目指し……」


 閻魔の演説も、今はどこか遠い。
 霖之助はゆっくりと椅子に座り直し、長々とため息を吐いた。


「……帰ってくれないか」
「そうでした、用件を済まさなければなりませんでしたね」
「すっかり話題が逸れちゃったわ」


 ふたりとも、少しも話を聞く気がないらしい。
 顔を見た瞬間わかっていたことではあるが。

 絶望の表情を浮かべる霖之助に構わず、閻魔は姿勢を正した。
 そしてやって来た時と同じように、唐突に言い切る。


「縁談ですよ、霖之助さん」
「私の弟子でいい娘がいるのよね」
「ああ、殺すってそう言う」


 ようやく本題に入ったと思ったらこれである。

 結婚は人生の墓場とはよく言った言葉だが。
 つまり墓場送りにしろ、ということだろうか。


「蓬莱人と言うことは……弟子と言っても、兎じゃないんだね」
「月の民よ。ちょっと真面目で融通が利かなくて短絡的なところもあって選民思想入ってたりするけど、いい娘だわ」
「それはちょっとで済む欠点を逸脱していると思うんだが」
「でもきっと貴方好みだと思うわよ。身体とかは」
「そんなもので僕が釣れると思ってるのかい?」
「あら、私の言うことならだいたい聞くわよ? 貴方と寝ろと言えば血の涙を流しながらでも」
「そう言うことは本気でやめてくれ」
「ではこの話、受けるのですか?」


 映姫の視線に、霖之助は首を傾げた。
 尋ねてくると言うことは、返答を選べと言うことで。


「先に聞いておくが、もし断ったらどうなるのかな」
「そうね~。うっかり誰彼構わず貴方のこと喋っちゃうかも。
 夜のこととかね」


 ウィンクされても困る。
 つまり最初から、選択肢はなかったと言うことだ。

 ……いつも通りに。


「謹んで、お受けさせていただきます」


 内心血の涙を流しながら、霖之助は頭を下げた。











 待ち合わせ場所に指定された、人里にある広場。

 平服でいいと言われたので、いつもの格好で霖之助は手持ち無沙汰に空を見上げていた。
 寝坊したので髪型もいつも通り。
 つまりやる気ゼロというやつである。


「しかし、見事に不安材料しかないな」


 懐にしまった手帳を軽く指先で触れる。
 見合いに際して永琳から渡されたものなのだが……『依姫完全攻略マニュアル』というタイトルが付けられていた。
 実に不安である。

 何が書いてあるのかと期待してみても、ご丁寧にその時にならないと先が読めない仕様になっているようだ。
 まさに技術の無駄遣い。月の頭脳が何を考えているのかさっぱりだった。


「ん?」


 視界に見慣れない人影を見つけ、霖之助は目をこらす。

 いや、見慣れないから注目したわけではない。
 一見麗しい美少女ではあるのだが、漂ってくるのは遠目からでもわかる不機嫌そうなオーラ。
 腰の刀に手を添え、いつでも斬りかかれるようなその雰囲気は、異様なものとして否応なく注目を集めていた。

 やがて霖之助の前で、その少女は立ち止まる。
 現在位置を確認するような素振りを見せると、ため息ひとつ。


「ひょっとして、君が綿月依姫かい?」
「……ふん」


 霖之助が声をかけると、彼女は面白くなさそうに鼻で笑う。


「私の名前を知ってるということは、貴方がそうなのかしら?
 話には聞いていたけど、軟弱で軽薄そうな男ね」
「そりゃどうも」
「せっかく八意様からお呼びがかかったからなんだと思えば……」


 そして再び盛大なため息。
 不本意ですと言わんばかりのその顔に、霖之助は苦笑を浮かべた。

 第一印象から最悪である。
 いったいどんな話をしたというのか。

 だがあくまでこれは無理矢理仕組まれた見合いであるわけだし。
 彼女の方もどうやら霖之助と同じような立場のようだ。

 ならば、さっさと終わりたいと言う点でも一緒だろう。


「その話と一緒に永琳から聞いていると思うが、今日はまあよろしく頼むよ」
「永……? 八意様の名前を軽々しく呼ばないでもらえないかしら」
「そうは言っても、僕と彼女は友人だからね」


 どのようなものかは置いといて、友人であることには違いない。
 外の世界ではなんとかフレンドと呼ぶらしいが。

 態度の硬い依姫を安心させるべく、霖之助は営業スマイルのようなものを装備する。


「それに君は彼女の言いつけでここに来たんだろう?
 本意でないことは見てわかるが、なればこそ早く終わるように協力するべきじゃないかな?
 僕としても早く帰りたいし」
「くっ……」


 どうやら永琳の言葉に絶対服従とはいかないまでも、断れない立場にあることは間違いない。

 しかし霖之助の言葉に、依姫は何故か怯んだように後ずさる。


「……身体は許しても、心まで思い通りに出来ると思わない事ね!」
「誰もそんなことは言ってないよ」


 大声を上げる彼女に、霖之助は慌てて周囲を見渡した。
 登場シーンから目立つ依姫のことだ。
 こうして見合いなんてしているところを知り合いに見られでもしたらたまったものではない。

 ……あとで何を言われるやら。


「とにかく、早く次に行こう」
「仕方がないわね……」


 どうやら諦めがついたらしい。
 一安心し、霖之助が歩き出そうとした時、懐から振動を感じた。

 何事かと思うと、永琳の手帳が振動していた。
 どうやら先のページの封印が解けたようだ。

 依姫に気づかれないよう、ちらりと手帳をめくり……。

『エスコートする際は手を繋いでね!』

 踊っていた文字を見て、ため息。


「じゃあ、行こうか」


 永琳の指示を無視し、霖之助は依姫の少し前を歩き始めた。
 目的地は近くの甘味処である。

 事前に永琳から指示された場所なのだが、他にこれと行っていく場所もないので大人しく従うことにした。


「いらっしゃいませ」


 店員に出迎えられ、霖之助は甘味処の暖簾をくぐる。
 内装はシンプルだが、少女受けするもののようだ。
 正直霖之助ひとりだと場違いな感じがする。

 だが幸いなことに店内にはカップルも数組見受けられた。
 ただし、霖之助と依姫がカップルかと言われると首を傾げざるを得ないのだが。


「ふたりなんだけど、空いてるかな?」
「あの、もしかして森近様ですか?」
「ああ、そうだけど」


 少女の質問に頷く霖之助。
 そんなに有名人だったかな、と一瞬考えたが、そんなことはなかったらしい。


「それでしたら、ご予約されてますのでお席にご案内します」
「そうかい?」
「はい、お二方の後見人と仰る方から」


 後見人と聞いて、なんだか嫌な予感がした。
 十中八九永琳のことだろう。


 ……そして予想通り、最初は外から丸見えの特等席に案内されそうになったが、なんとか奥まった席に変えてもらい、依姫と向かい合って腰を下ろす。

 先が思いやられる、と思いながら。


「それにしても、君も大変だね」
「……八意様のすることだから、きっと何か意味があると思ってるわ」


 とうてい納得はしてない顔で、依姫は苦々しく呟いた。


「さっきも言ったが、僕も無理矢理参加させられたクチでね。
 当分身を固める気はないから、安心していいよ。適当に口裏さえ合わせてくれれば」
「当たり前よ!」


 依姫の大声に、一瞬店内がしんと静まりかえる。
 だがそれも束の間のこと。

 彼女も自分のしたことに気がついたらしく、少し恥ずかしそうに俯いた。


 ……ひょっとしたら、わりとドジな娘なのかもしれない。


「それにしても、こんな話をよく受けたものだね。やはり永琳だからかい?」
「ええ。八意様は私達の師匠なのよ。いろいろなことを教えてもらったわ」
「私達? ああ、確か……」
「姉がいるのよ。綿月豊姫。少々大食いなところ以外は自慢の姉だわ」


 依姫は目を細め、誇らしげに胸を張った。
 よほど好きなのだろう。ふたりのことを話す彼女は刺々しいオーラが和らぎ、どこにでもいる少女のように見えた。


「ふたりのことが大事なんだね」
「ええ、そうよ。でも八意様ったら地上に降りてちっとも帰ってこなくて……何がそうさせてるのかしら」


 ジロリと依姫に睨まれる。
 そう言えば霖之助もその理由を聞いたことはなかったが……。

 あまり変な勘ぐりはやめてもらいたいものだ。


「お待たせしました」


 いいタイミングで店員が品物を持ってきた。
 ……問題は、霖之助が注文した覚えがないと言うことだが。


「……何、これ」
「ラブリーピーチスペシャルパフェです。
 カップル様専用なんですよ。予約の際、お代と一緒に注文をお受けしましたので」
「あ、そう」


 目を丸くするふたりに、店員はごゆっくりと言い残して去っていく。

 派手派手しい色のパフェに、ご丁寧にハート型のふたつのスプーン。
 どうしろと言うのだろう。

 霖之助が固まっていると、手帳が激しく振動した。

『これでふたりはラブラブチュッチュね!』

 今すぐ怒鳴りに行ってやりたかった。
 いったいいつのセンスなのだろうか。

 もちろん突っ込むべきはそこではないのだが。


「……貴様……!」


 同じく硬直から解けたらしい依姫が、目に剣呑な光を讃えて腰の刀に手を伸ばす。


「全部食べていいよ」
「……は?」


 先手を打って、霖之助は肩を竦めてみせた。
 パフェを押しやり、手を出す気はないというアピールとともに。


「甘いものは嫌いじゃないが、それほどの量になると食べる前から胸焼けがね。
 すまないが、みたらし団子をひとつもらえるかな?」


 近くにいた店員に声をかけ、ため息を吐く。
 どうして甘味ひとつでこれほど疲れなくてはならないのだろうか。

 いや、原因はわかっているのだが。


「食べないのかい?」
「……仕方がないわね」


 霖之助に視線で促され、依姫はパフェの攻略に取りかかった。
 使わない片方のスプーンを横に置き、てっぺんのシャーベットを崩していく。

 桃の形をしているから、たぶん桃のシャーベットだと思う。


「美味し……」


 無意識なのだろう。
 顔を綻ばせる依姫に、霖之助は笑って見せた。


「地上のものも気に入ってくれたかい?」
「悪くない、と言っただけです」


 運ばれてきたみたらし団子を口に運びつつ、霖之助は会話を続ける。

 最初こそどうなるかと思ったが……少女というのは甘味に弱いらしい。
 永琳の案だが、たまに役に立つようだ。


「桃が好きなのかい?」
「ええ、それなりには。お姉様ほどではないけど」
「姉さんは、それほどまでに?」
「そうなのよ。もう桃ばかり食べ過ぎて……」


 困った顔を浮かべる依姫だったが、どこか嬉しそうだ。
 家族のことをを話す彼女はやはり年頃の少女で。

 ふたりが食べ終わる頃には、幾分気安い空気が流れていた。


「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま。満足したかい?」
「そこそこね」


 みたらし団子の代金を払い、店の外に出る。

 結局あのパフェは依姫がひとりで綺麗に食べてしまった。
 やはり少女の胃袋というのは摩訶不思議である。


「君の姉さんなら何杯行けるかな?」
「あまり知りたくないわね」


 霖之助の質問に、依姫は首を振った。

 里中をふたり並んで歩きながら。
 先ほどより、少しだけ近い距離で。


「そうそう、永琳から聞いたんだが、月はこっちより文明が発達してるんだって?」
「少なくとも幻想郷の発展速度じゃ何百年経っても追いつけないでしょう」


 自信たっぷりに胸を張る依姫。
 やはり月の文化に関しては絶対の自信があるらしい。


「機会があればでいいんだが、よければ何か月の道具を見せてくれないかな」
「何かって、何でもいいのかしら」
「僕は道具屋でね。そう言うものに目がないのさ。
 永琳にも頼んでいるんだが、あまり道具を持ってきてないらしくてね」


 もちろん嘘である。
 永琳に月の道具を見せてくれるよう頼んでいるものの、いつもはぐらかされていた。


「まあいいけど……」


 そして依姫も怪訝な表情を浮かべる。

 少し急ぎすぎたかもしれない。
 そう上手くは事が運ばないようだ。

 見合いついでに月の道具も手に入れば万々歳、と思ったのだが。


「道具屋。そう言えばそんな話も聞いた気がするわね。
 興味がなかったから覚えてなかったわ」
「なら是非覚えて帰ってくれ。
 我が香霖堂では冥界や魔界、それに外の世界の道具も取り扱って……」
「なんですって? 外の世界? あんな汚れた世界の道具に縋っているというの?」


 突然依姫は語気を強め、霖之助を睨み付けた。

 最初よりも、少し遠い距離。
 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 外の世界で月に関係があることと言ったらアポロ計画くらいだが、彼女と何かあったのだろうか。
 それともただ嫌いなだけか。


「いや、僕は外の世界の技術を参考に、この幻想郷に革新を起こしたいんだよ。
 そのためにはいい点悪い点踏まえ研究する必要があると思っているだけで」
「本当かしら」


 疑惑の眼差しは晴れぬまま、彼女は足を止めた。

 もし依姫が香霖堂に来ることがあったら、ストーブは隠した方がいいのかもしれない。 あれば、だが。


「で、今度はどこに行くのかしら」
「ん? ちょっと待ってくれ、今考える」
「行き当たりばったりねぇ」


 いつの間にか里の入り口まで歩いてきていたらしい。
 適当に歩いてきたせいで気づかなかった。

 どうしようかと思案していると、再び懐の振動に気づいた。

『パフェを一緒に食べることができなかったチキンな貴方!
 でもワンチャンあるわ! 綺麗な景色を一緒に見て好感度アップ!』

 ……それにしてもタイミングがよすぎる。
 どこかで監視しているのではないだろうかと疑ってしまうほどに。


「ところで、さっきから何をしてるのかしら」
「え? ああ、ちょっと永琳に報告用のメモを作ってたんだよ」
「そういうこと。でも、書いてる様子はなかったけど」
「速筆は僕の特技でね」


 これも真っ赤な嘘である。
 もしこの手帳が本人にばれたら酷いことになるだろう。
 特にこのタイトルが。


「じゃあ魔法の森の向こうに……」
「あら、店主じゃない」


 冥界に花見でもしに行こうかと思った矢先、見知った顔に声をかけられた。


「ん? ああ、レミリア……」
「何故貴様がここにいるのかしら」


 だが挨拶する間もなく、彼女は隣に立っていた依姫へ鋭い視線を向ける。


「いたら悪いのかしら」
「ここは幻想郷よ。宇宙人に吸わせる空気はないわ」
「ええ、できたら私もすぐに帰りたいわね」
「痴れ言を……」


 火花の散りそうなやりとりの中、霖之助は出来るだけ気配を殺して移動する。
 レミリアの横にいる、瀟洒なメイドの元へと。


「咲夜、どうして君の主はあんなに不機嫌なんだい?」
「あら、こんにちは、霖之助さん」
「……こんにちは。急を要するんだが」
「お嬢様にだけ挨拶されて私にはしてくださりませんでしたので」
「それはすまなかったね……」


 あくまでマイペースな咲夜に、霖之助は疲れた笑みを浮かべた、
 いつものことだが、この少女はよくわからない。


「で、どういうことなのかな?」
「月に行った時、ちょっとばかしコテンパンにやられまして」
「はぁ……なるほどね」


 プライドの高い彼女のことだ。それなら無理はないだろう。
 見ると、すでに事態は一触即発のようだった。

 このまま放置していたら大惨事になりかねない。
 依姫と一緒にいるところは大勢に見られているのだ。
 変に噂が広まってはとても困る。


「咲夜、止めるのを手伝ってくれないか」
「そうですね、このままじゃ買い物もできそうにありませんし」


 重要なのはそこじゃないのだが、この際目をつぶる。


「ところで店主さんは、どうしてあの方と一緒にいるのですか?」
「今言わなきゃダメなことかい?」
「それはもちろん」
「……仕事上の都合だよ」


 間違ってはいない。
 嘘を吐くのは忍びないが……上客との仲が険悪になるのはもっとまずい。

 見合いの件を秘密にすべく、咲夜の疑惑の視線に耐えていると、手帳の振動に気がついた。

 何か解決案があるかと期待してみるのだが。

『修羅場を乗り越えた先に光はあるのよ!
 軟弱と言われた貴方! 実は強いところを見せるチャンス!』

 頭が痛くなってきた。
 もうこんな手帳は絶対見ない事に決め、睨み合うふたりの間に割って入る。


「レミリア、ここで争うのはやめてくれないか」
「どうだか。宇宙人が何を考えてるかなんてわかるわけないでしょう?」
「……まあ、それは確かに」


 永琳の姿が浮かび、思わず納得しかける霖之助。
 だがふと我に返り、元凶のもう片方へ視線を移す。


「いやいや、依姫もそんな目的出来たわけじゃないんだし、ここは穏便に」
「じゃあなんでここにいるのよ」
「それはその、観光というか」
「馬鹿言わないで。貴方との見合いの話なんてなければここまで来なかったわ」


 穏便にすますつもりが、あっさりと依姫は口にしてしまった。
 肝心の、本人への口止めをすっかり忘れていたようだ。


「はい?」
「見合い?」


 思った通り、ふたりは固まっている。


「……見合い?」


 咲夜が改めて尋ねてきた。


「先ほど仕事と仰いましたが」
「……仕事上のね、うん」


 真正面から見つめる瞳が怖い。


「で、貴方は私の見合いとこのふたり、どっちが大事なのかしら」


 背後から響いてきた依姫の声に、逃げ道を塞がれた。

 前門の虎後門の狼と言うやつだろうか。
 修羅場を乗り越えるどころか目の前が真っ暗になる感覚に、霖之助は疲れた笑みを浮かべていた。











「絶対に楽しんでいただろう」
「そんなことはないわ」
「今ちょうど、君の嘘を見抜くように訓練中でね」
「あら、私が嘘をついてるというのかしら。嘘だけど」


 永遠亭の診察室にて。

 偶然通りかかった永琳がちょうど霖之助達を見つけて事態を収めてくれたため、なんとか事なきを得た。

 あとで覚えておきなさいよ、とレミリアに言われ。
 あとで覚えておいてくださいね、と咲夜に言われ。

 ……考えてみればなにひとつ好転していないのかもしれない。


「はい、治療終了」
「やれやれ、酷い目にあったよ。彼女はもう帰ったのかい?」
「ええ、さっきね」


 永琳が止めに入ったのは一触即発の即発した少し後だったため、少々流れ弾で怪我をしてしまった。
 どれも放っておいても治る傷だったのだが、彼女に話を聞くためこうして永琳の治療を受けていた。

 まるで狙ったような引っ掻き傷とナイフの切り傷はまあ、見なかったことにしておく。


「もう会うこともないだろうけどね」
「あら、ひょっとして残念?」
「まあ、月の道具を見られなかったのはね。君が見せてくれないから」
「私のイロイロは見せてあげているでしょう?」
「いや、それはそれ、これはこれだよ」
「欲張りねぇ。でも、向こうは貴方のこと気に入ったみたいよ」
「……ええ?」
「今度は月の都に招待したいって」


 永琳の言葉に、霖之助は首を傾げた。
 あれで気にいる方がどうかしていると思うのだが。


「あら、まんざらでもない感じ?」
「さてね」


 だがいろいろと面白い人物ではあったし、機会があったらまた会ってみるのもいいかもしれない。
 師匠に似て変なところは頑固で、変なところでポカをして、そして家族想いな彼女のことを。


「ああ、そうか……」


 一難去って気が緩んでいたのかもしれない。
 霖之助は無意識に、その言葉を口にしていた。


「あの娘が誰かに似てると思ったが……君を若くしたような感じなんだな」


 言葉にした瞬間、空気が止まった。

 その時の永琳の目を、霖之助は一生忘れないだろう。
 ……いや、すぐに忘れてしまうかもしれない。

 この先に起こる、出来事によって。


「取り消しは効きませんか」
「効きません」


 あくまでもにこやかに、謎の注射器を取り出す永琳に。
 霖之助もにこやかに、自らの運命を受け入れる覚悟を決めた。











「お姉様」
「あら、お帰りなさい。地上は楽しかった?」
「ええ、八意様にも会えましたし。それより、今度ひとり地上人を月の都に招待してもよろしいですか?」
「あら? 珍しいわね。ひょっとして殿方かしら」
「そんなところです。どうやら八意様のお気に入りのようで」
「依姫がいいと思うならいいんじゃないかしら? 扉は開けてあげるわ」
「ありがとうございます」
「ちゃんと落とすのよ!」
「ええ、ちゃんと仕留めて見せます」
「逃げられないようにね?」
「はい、月の都でなら逃がしませんとも。
 これで八意様も帰ってきてくれるといいのですが……」



「……寒気がするんだが」
「あら風邪かしら。それより、依姫から招待状が届いてるわよ?」

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非公開コメント

No title

ああ・・これはレイセンにフラグを立てるな

No title

めずらしいカップリングと思い、読んでみましたがやはり中身も珍しく霖之助が終始可哀想な話でしたね。
道草さんのssでは霖之助のことをうらやましいなと思うことが多々ありますが今回は一切なかったですw

ていうか一級フラグ建築士の手にかかってこれなら完全マニュアルとかw
常人にはムリゲーとしか思えませんよww

No title

前半の永琳の話で心が折れた…霖之助アワレ
yamotoさん仕様?の永琳はマジ鬼畜(だがそry

どうやってえーりん先生といい仲になったのか気になります。フラグには事欠かなそうですが。

なんというyamotoさん……もしくはボディチェンジ。な匂いがするwいやーこのssは強敵でしたね(´∀`)
霖之助がお先真っ暗過ぎんぞww紅魔館√と永遠亭√フラグを同時に立てるから…強制終了に見えるのにえーりんのせいでフラグ(?)が『立ってるのが絶望的』w
踏みとどまれる気もしない、霖之助は欲望(知識欲)を抑えないだろうしな…

あとえーりん。そこで切れるなら、初めから紹介すんなw紹介したら若さについてなにかしら感想持つだろw
………山田なぜ手を貸したし

yamoto永琳の性格は、鬼畜というか腹黒というか…
てか若い云々でキレるなら教え子を薦めんなwww


はてさて
次に始まるのは月と地上の霖之助争奪戦か


後、道草さんはシュマさんの咲霖企画には参加するのですか?

No title

続きは無いようですがとても続きが気になる作品ですね
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
リンクはフリーですが、ご一報いただけたら喜びます。

バナーはこちら。

<wasre☆hotmail.co.jp>
メールです。ご用のある方は☆を@に変えてご利用ください。

スカイプID<michi_kusa>

ついったー。

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