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屋台のお土産に

そうだ、久しぶりにミス霖を書こう。
と急に思い立ったので書いてみました。


霖之助 ミスティア









「まったく、困った話だと思わないかい?」
「そうですね」


 ため息とともに、霖之助はカウンターへ空となった杯を置いた。

 森の中で営業している、ミスティアの屋台。
 他の客はおらず、もうすぐ空も白み始めようかという時間だった。

 霖之助は好んでこの時間帯に来店していた。
 他の妖怪は朝日を嫌って退散し、人間には早すぎる、そんな刻。

 最初こそ迷惑かと思ったが、ミスティアにとっては余った食材を片付けてくれるので特に問題ないらしい。

 もちろん店じまいを手伝うことも多く、男手があると助かると彼女は言っていた。
 その言葉に甘えてか、すっかりこの時間の常連となっている。


「でも、そのお客さんだって悪気はなかったのかもしれませんよ?」
「だろうね。それはすぐにわかったよ」
「ふふっ、それでどうしたんです?」
「どうもこうも」


 曰く。
 今日、香霖堂にひとりの妖精が来た。
 その客は花の妖怪から貰った花を飾るため香霖堂に花瓶を買いに来たものの、
あいにくと対価となるようなものを持ち合わせていなかった、というのが今日の話だ。

 彼女の持ち物の中で最も価値があるのはその花だったが、それを交換してしまったら本末転倒である。


「そのまま帰すのもなんだったしね。大事にしてくれるという条件で、ツケにしたよ。
 将来の客は育てるものだからね」
「そうなんですか。霖之助さんらしいですね」


 ミスティアは空いたグラスを拭きながら、思わず笑顔を零した。
 その目には、優しい光が灯っている。


「喜んでいたでしょう? その子」
「まあ、ね。問題は……今日の客が、そのひとりだけだったって事だけど」


 肩を落とす霖之助に、彼女も苦笑で返した。
 しばらくそうしていた彼だったが、やがて顔を上げ、口を開く。


「もう一杯、貰えるかな」
「飲み過ぎですよ、霖之助さん」


 一杯の酒に、愚痴ひとつ。
 今日も客が来なかったとか、魔理沙に道具を持って行かれたとか、そんなことを酒の代わりに吐き出すのがいつものやりとりだった。

 しかし普段は2、3杯で切り上げる霖之助だが、今日はもう5杯目だ。

 ミスティアがたしなめるのも無理はないだろう。
 ……心配してしまうのも、当然だろう。


「……なにか、ありましたか?」
「いいや、特には」


 霖之助は首を振り……それでも酒を注いでくれたミスティアに感謝しながら、ゆらりと杯を傾ける。

 ミスティアが注ぐのは普通の酒ではない。
 どこから入手してくるのか変わった酒が多く、例え1杯でもあっさりと酔いが回ることもある。

 やがて大きく息を吐き出し……霖之助はぽつりぽつりと語り始めた。


「少し前に、酒を仕込んでみたんだよ」
「お酒ですか?」
「ああ。米を原料にね。だけど失敗したよ。見事なまでに」


 そこで霖之助は再び杯を口に運んだ。
 美味い、と呟いて言葉を続ける。


「今年で何度目のチャレンジになるかわからないよ。今回は自信があったんだが……。
 まあそれは大したことじゃないものの、材料になった米に申し訳なくてね」
「そうですか」


 ミスティアの相槌は、急かすことなく、話の続きを促す。
 自分のペースで喋らせてくれるあたり、彼女の優しさを感じる。


「お酒以外のものにしてしまう神様が多すぎるって霊夢は言ってたが、やはりそのせいなのかな」
「本人に聞いてみたらどうですか?」
「試そうとしたがね。そもそも特定出来なかったよ」


 そう言って霖之助は肩を竦めた。
 ミスティアはひとつ首を傾げると、疑問を口にする。


「お酒なら、うちで飲めばいいじゃないですか」
「確かにそうだ。ミスティアは商売上手だね」
「そんなことはありませんよ。ただもし霖之助さんが来てくれなくようになったら、寂しいなって思って」
「まったく……本当に商売上手だよ、君は」


 霖之助はゆっくりと首を振る。
 それからおつまみとして渡された春巻きをつまみつつ、ひとつ杯を振った。


「単に美味い酒を飲む手段なら、手段はいくらでもあるさ。
 買ってもいいし、貰ってもいい。それにタダ酒ほど美味いものはないなんて言ったりもする」
「それでも作る理由があると?」
「ああ。一体どこから米から酒になるか、その境界を僕の目で見たかったんだが……また来年かな」
「次こそ成功しますよ」
「だといいがね」


 そこで霖之助はいつの間にか空にしてしまった杯の中身と、屋台の女将の顔を交互に見比べ大きく頷く。


「そう考えると、ここで飲む酒は実に美味い」
「あら、ありがとうございます」


 ミスティアはいつも通りの笑顔で返した。
 手慣れたような、照れたような。

 この笑顔を見るために来店する客もいると聞くが……無理もない、と霖之助は思う。


「どうぞ」
「ありがとう、ミスティア」


 焼きたての蒲焼きを、ミスティアから受け取る。
 炭の火を消し始めたところを見ると、どうやら今日はこれで打ち止めらしい。

 一本の蒲焼きに、話をひとつ。
 いつからかふたりの間でそんな暗黙の了解が出来ていた。

 今度は霖之助が聞き手側に回る番だ。


「少し前に、お客さんのお話を聞いたんですよ。
 その人は天狗に納めるお酒を造ってる職人さんでした」
「ふむ」


 八目鰻の蒲焼きを囓りながら、ミスティアの話に相槌を打つ。
 夜目に効くとは言うが、どれほど効果があるのか調べたことはない。


「その人にお連れの人が尋ねたんですよね。
 せっかく造った酒を浴びるように飲まれて、味もわからないだろうに悔しくないのかって」
「確かに、天狗は樽で飲むからね……信じられないことに」
「鬼や天狗の肩がお客さんでいらしたら、お店のお酒もなくなりますよ。
 と言っても、だいたいそういった方々は持参してらっしゃるんですけど」
「まあ、自分たちでもわかってるだろうからね」


 霖之助も妖怪の山で飲んだことはあるが、前後不覚になるほど酔わされたので若干トラウマ気味である。
 あれ以来天狗とは飲むものかと心に誓ったものだ。

 そんな妖怪が客で来たら、酒も足りなくなるだろう。
 ましてや酒造りの職人の心境は如何に、というところだ。


「でもその人は、笑って答えてましたよ。
 楽しく飲んでくれるなら、それこそ美味かったってことだって」
「なるほどね……」


 酒の席まで含め、職人への返礼ということだろう。

 確かにその気持ちは霖之助にもわかった。
 道具を買ったときだけではなく、常々使ってくれてたりすると嬉しいものだ。


「だから失敗しても、霖之助さんの糧になるならいいんじゃないですかね。
 あとは、お米の神様に供養をすれば……あ、今度紹介しましょうか?」
「そうしてくれると助かる。あと、お酒以外のものにしてくれる神様を遠ざける方法も教えてくれるとありがたいよ」
「それは私からはなんとも。でも、私も蒲焼き失敗したこと何度もありますし……やっぱりへこんじゃいますよね」
「こんなに美味いのにかい?」
「こんなに美味しくなるまでに、ですよ。今でもたまにやっちゃいますけど」


 そう言ってミスティアはちろりと舌を出した。
 そういう仕草をすると、途端に女将から少女に戻るから不思議だ。


「今のお客さんの笑顔が、その時の供養になるのかなって思って焼いてます」
「そうか……」


 霖之助はため息を零すと、蒲焼きを一口。


「うん……美味い」
「ありがとうございます」


 満面の笑みを浮かべるミスティアに、霖之助は思わず視線を奪われた。
 我に返るかのように咳払いをひとつすると、少し慌てて話題を変える。


「それにしても、ミスティアの話は毎回感心するよ。情報が集まるのは鳥の妖怪だからかな?
 君は幻想郷一の情報通かも知れないね」
「そうですか? 天狗の皆さんの方がすごいと思いますけど」
「彼女たちは空から見ているからね。
 地に足を付けて得られる情報では、君に勝るものはないさ」
「でもそれ、鳥関係ないですよね」
「ああ、確かに」


 ふと御阿礼の子を思いだしたが……まあ、それはそれ。
 生の声というのは書に出来ない魅力があると思う。


「私は天狗みたいに自分で取材してるわけではないので、お恥ずかしいです」
「それが集まるのも、君の人徳というやつだよ」
「そうでしょうか」
「そうだとも」


 大きく頷き……それから霖之助は苦笑いを浮かべた。


「そんな君の言葉で、気が楽になる者だっているわけだしね。
 ありがとう、ミスティア」
「もう、霖之助さんったら」


 ミスティアは少し頬を染め、それからコップに水を注ぐ。
 このあたりは阿吽の呼吸というやつだろうか。
 ただ彼女が気が利くだけかも知れない。


「今日は少し、飲み過ぎですよ?」
「そうかもしれないね……ここの酒が美味いせいかな」


 霖之助は水を飲み干し、長く息を吐き出すと……カウンターに俯せた。
 酒で火照った肌に、木の感触が心地いい。


「少し経ったら、起こしてくれるかい?」
「ええ、任せてください」


 ミスティアはいつもの笑顔で頷くと、カウンターを迂回し霖之助の隣にやってきた。
 その手には毛布。

 店にいつも用意してあるのだろう。


「明け方は冷えますから、これをどうぞ」
「ありがとう、ミスティア……屋台の片付けは、手伝うから」
「ええ、お願いします」


 されるがままで申し訳ない気分になるが、今回は許して貰おう。
 今度屋台の改良を提案してみるのも悪くない。

 そんな事を考えながら、次第に意識が沈んでいくのを感じていく。


「霖之助さん、ひとつおまじないをしてあげましょうか?」
「そんなものがあるのかい?」
「はい。いい夢が見られるおまじないです」
「そうだね……よければひとつ頼むよ……」
「任せてください」


 ミスティアの吐息が、すぐ耳元で聞こえた。

 それから囁くように、彼女の甘い声が響く。


「お休みなさい、霖之助さん」


 頬にやわらかな感触を覚え……その正体を探る前に、霖之助は意識を手放した。

 またいつか近いうちに、同じ事を体感するような。
 そんな予感を、胸にしながら、

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非公開コメント

No title

ミスティアがいい女将さんすぎるwww
俺もこんな店で酒飲んでみたいなぁ・・・


ところで、動物みたいに~は増刷する予定はあるのでしょうか?
お金がないお金がない言ってる間に在庫切れになってしまっていて(T_T)

ミスティアがいい女将すぎる
霖之助さんとはいい夫婦になりそうだなー



ツイッター勝手にフォローさせていただきましたー。

No title

なんかいいなこの雰囲気w

道草さんに影響されて動画内にミス霖を取り込んでしまったぜ。
東方卓遊戯ですけどねwww

いつも良い作品をありがとうございます。

こんな店で飲んだくれたいぜwww

No title

これはいいおかみすちー
実はみすちーってすっごく大人の女性なんじゃ……
少女と女の両方を行き来するとかマジぱねぇ
これは霖之助さんも惚れる

供給は少ないけど、夜伽で読んで以来ミス霖がジャスティスな俺にはたまらん話でした。

みすちーはバカルテットより、女将キャラのが魅力がありますね!

No title

これは良い隠れ家屋台(違
最後のメニューは店主さん専用でしょうけど、ご馳走様でした。

No title

これは良い雰囲気のミス霖ですね^^
ラストのは伏線ですねわかります(チラチラ

No title

むずがゆいです!かきむしりたくなってきた!
顔がにやけてしまう・・・だと!?


『鬼や天狗の肩が』→『鬼や天狗の方が』ではないでしょうか?
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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