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酉京都幻想 第4.4話

先日の誕生日にいただいた青犬さんのイラストを元ネタに。
蓮霖……いや秘封霖第4.4話。
感謝感謝!


霖之助 蓮子 メリー







「私、あの教授に今日初めて感謝した気がする」
「初めてって……今までしたことがなかったのかい?」
「あると思う?」
「……いや、いい」


 蓮子に質問を返され、霖之助は肩を竦めた。
 教授とはもちろん岡崎教授のことだ。

 彼女の中であの教授の評価はいったいどうなのだろうか。


「まあ横槍を入れられるのはともかく、割のいいバイトを紹介してくれるのは感謝に値するね」
「でしょう? でもこんなバイトがあるなら早く紹介してくれればよかったのに」
「ある意味人体実験とも言えなくもないが」
「人体実験ならこの前もやったじゃない」
「確かに、違いない」


 昼下がりのカフェテラス。
 いくつかあるカフェの中で、最も大学の奥にあるここには他の生徒の姿はない。
 そしてその方が、霖之助達のアルバイトには都合がよかった。

 目の前にあるのは大量のケーキ。
 これが今回のアルバイトの対象だ。

 霖之助としては見ているだけで口の中が甘ったるくなってくるのだが……蓮子はそうでもないらしい。


「それにしても、コネって大事よね」
「それだけ聞くと悪い人に聞こえるよ」
「正直な感想なんだけど」
「同意はするよ」


 彼女の言うように、このアルバイトは教授が持ってきたものだ。
 大学で開発した新技術によって作られた、合成小麦によるケーキの試食依頼。
 まだ実験段階で市場に出回っておらず、味に変わったところがないか確かめて欲しいというものだった。
 同時に、それを使った新作ケーキの味見も兼ねられている。

 確かに人体実験と言えなくもないだろう。
 言葉の響きはすごく悪いが。


「遊びじゃないんだから、真面目にやらないと」
「わかってるって。私を誰だと思ってるのよ」


 胸を張る蓮子に、霖之助はため息をついた。
 それから目の前のケーキを眺め、ふと呟く。


「それにしても、これが合成とはいまだに信じられないんだが」
「んー。今時天然素材の方が珍しいと思うけど」
「まあ、そうなんだろうね」


 幻想郷で暮らしてきた霖之助にとって……いや古来より、食物は天からの恵みであった。
 それを技術でなんとかしてしまった人間の英知には、感心とともに危惧も覚えてしまう。
 かつて妖怪を追いやった人工の光のように。


名無しの本読み妖怪


 もっとも幻想郷では妖怪がランプを使って本を読んでたりするからなんとも言えないところはある。


「それに合成品なんて昔からあったでしょう」
「ふむ?」
「合成甘味料とかずいぶん昔のものだし。調味料も化学系のが多かったかな。
 あと人間の脳細胞なんて適当だから、かき氷のシロップとか認識しちゃうじゃない」
「ああ、香料以外は確か全部同じ味という……」
「つまり分解していけば分子の結合でしかないってことよ。美味しく食べられれば私は満足」
「なるほどね」


 蓮子の言葉に、霖之助は肩を竦めて見せた。
 確かに彼女の言う通り、目の前の現実がすべてである。


「そんなに難しく考える必要なんてないわよ、霖之助君。
 自分の目の前にあるのが本物。それだけで十分でしょ」
「つまり僕の前にある大量のケーキからは逃れられないということか」
「そうそう。そーいうこと」
「……やれやれ。それじゃあ仕事に取りかかろうかな」
「うん。いただきます」


 フォークを使い、ケーキの欠片を口に運ぶ。

 なめらかなクリームの舌触りとともに、ケーキの甘さが口の中に広がる。
 とても人工的に造り出されたものとは思えない味わいに、霖之助は唸り声を上げた。

 それから手元のレポート用紙に目を落とし、ペンを走らせる。
 書くのは食感、色、見た目、味、それから……。


「……霖之助君、グルメリポーターじゃないんだから、そんなに書き込まなくてもいいと思うんだけど」
「そんなつもりはないんだが……」


 蓮子の呆れ声に、霖之助は首を振る。
 見ると、彼女はすでに4個目のケーキに取りかかっているところだった。


「蓮子、いつのまにそんなに食べたんだい?」
「え? 普通でしょ、これくらい」
「いや……それはどうかな。現に僕はまだひとつ目なわけだし」
「霖之助君、何でも自分を基準に考えちゃダメだよ」
「……君にその言葉を言われるとは思わなかったよ」


 彼女に限らず、霖之助の知り合いというのは何でも自分を基準に物事を判断する少女ばかりなのではないかと思うことがある。
 それだけ特異な能力、才能を持っている人物ばかりなのだ。

 よく言えば個性的な面々である。
 よく言えば。


「それにレポートを書くんだから、しっかり味わって食べないと難しくないかい?」
「ちゃんと味わってるよ? 私なりにね」


 フォークをぴこぴこと振り、蓮子は自慢げに胸を張る。


「そもそもこんなのはインスピレーションで書けばいいのよ。重要なのは第一印象なんだから」
「そういうものかね」
「そういうもの。それに正式に商品になったとしても、そんなに味わって食べる客の方が少ないと思うよ」
「ふむ、なるほど。そう言われてみれば確かに……」
「もちろん美味しいことにこしたことはないけど。
 だから私は一口目で感想を書くようにしてるのよ。例えば……」


 そう言って彼女は手を伸ばし、フォークでケーキをすくう。
 そして言葉通りに一口食べると、なにやらPDAに文字を打ち込んでいく。


「クリームとスポンジとの調和とか、生地のきめ細かさとか、パイの焼き加減とか、しっとり度合いとか。
 あとはこれならもうひとつ行けそうとか、あまり重すぎると最後まで食べるのが大変そうだなとか。
 そういう感想を一口目で考えればいいのよ。あとの残りはおまけってやつね。
 もったいないから私が個人的に楽しみながら食べてるけど」
「……一口でそこまで判断するのは無理だよ」
「そうかなぁ」


 書き込まなくてもいいと言った割に、蓮子の方が書いているのではないかという気がしてきた。
 霖之助と違ってレポート用紙に記入しているわけではないので、どれくらいの文量なのかはわからないが。

 そして書き上げたことに満足したのか、蓮子は美味しそうに残りのケーキを食べ進める。
 きっと彼女は宿題を先に片付けるタイプなのだろう。まったく実に優秀な学生である。


「まあ、教授の言っていた新種の素材ってのは、なかなかアタリだと思うよ」
「ああ。最初に話を聞いた時はどうかと思ったけどね」


 生産性向上を兼ねての新技術。
 このケーキに使用されている材料は、そう言った目的の産物らしい。

 霖之助の目には普通のケーキと何ら変わりがなく映っていた。


「しかし美味しいと言っても、ふたりでこの量はなかなか大変だね」
「あれ、余裕だと思ったんだけど」
「いや、甘い物は別腹にも限度があるから」
「そうなの?」
「そうだよ、普通はね」


 話している間に、蓮子は次のケーキへと取りかかっていく。
 対して霖之助はまだひとつ目が終わったところだ。


「蓮子、よかったら僕の分も食べてくれないかな」
「いいの? 私としては半々かなって思ってたんだけど」
「……そもそも半分も無理だよ。何個あると思ってるんだい」
「仕方ないなあ」


 言葉とは裏腹に、蓮子の表情は笑顔だった。
 甘い物が好きな蓮子だが、とりわけケーキは格別のようだ。

 頭脳労働に必要な栄養素だから、らしいが。
 むしろ個人的な趣味がメインだろうと思う。


「こんなにケーキに囲まれてると悪い気がしてくるね」
「むしろ食べ過ぎて気分が悪くそうだよ」


 肩を竦めると、霖之助は鞄から本を取り出す。
 その表紙を見て、蓮子が表情を輝かせた。


「あ、それって私が勧めたやつ?」
「ああ、意外と面白い物語だね。まだ半分くらいだけど」
「ふむふむ。となるとあのあたりかな?」


 んー、と考えつつも、フォークの手は止めない蓮子。
 このマルチタスクっぷりはたいしたものだと思う。


「私もメリーから勧められて読んだんだけど、すっかりはまっちゃったのよ。
 少し前はでは、恋愛モノは苦手だったんだけどね。
 それにその本、別に恋愛がメインってわけでもないし」
「そうなのかい?」
「なんかね、あんまり興味が湧かなくて。最近はそうでもないけど」
「心境の変化でもあったのかな?」
「たぶんそんなとこ」


 そう言って蓮子は霖之助を見つめた。
 それから照れたように笑うと、手元の小説へと視線を移す。


「そうそう、恋愛モノと言えばこの前読んだ本に……」


 そこで彼女はふと動きを止めた。
 そして何を思ったのか、フォークでケーキを少しすくうと、霖之助の前に突き出してくる。


カフェテラスにて


「あーん」
「……?」


 一瞬、何を言っているのかわからなかった。
 だがこの行為の意味するところはひとつしかない。


「霖之助君。あーん」
「それは君の分だろう。全部食べてしまって構わないよ」
「まぁいいじゃない。あーん」
「僕はもう十分食べたから気にしないでくれ」
「……あ~~~ん!」


 執拗に突きつけられるフォークとケーキに、霖之助は首を傾げる。


「やっぱり食べ切れないかい? 時間はあるしゆっくり食べると良い。僕は本でも読みながら待って……」
「もぅ! い・い・か・ら! 食べなさい!」


 とうとう蓮子が怒ってしまった。
 霖之助は仕方なく、彼女のフォークに口を付ける。

 ……誰かに見られていないだろうか、と心配になるのだが。


「どう?」
「……甘い」
「他には?」


 その回答はあまりお気に召さなかったらしい。
 霖之助はため息を吐くと、少し小声で言い直した。


「ああ……美味しいよ」
「でしょう?」


 どうだと言わんばかりに、蓮子が笑みを浮かべた。


「こうやってふたりでケーキを食べるシーンがあったのよ。
 そこが私の一番のお気に入りなの。今度その本貸してあげるわ。
 で、こうやって食べると美味しいわよね」
「先日も似たような食べ方をさせられた気がするよ」
「美味しかったでしょ?」
「まあ、ね」


 というか、美味しい以外の返答を許される気がしないのだが。
 ひょっとしてその登場人物も同じ心境だったかもしれない。

 霖之助はそんな事が気になり、件の本を読んでみることにした。


「…………」
「蓮子?」


 ふと、蓮子が何か言いたそうにしているのに気がついた。


「……………………」
「あー……」


 否。
 これは何かを待っているのだ。

 そしてこの流れで彼女が待っているものと言えばひとつ。


「期待しているところ悪いが、僕からさっきのをするのは勘弁してくれないか」
「えー。そんなぁ」
「そういうのはもっとちゃんとした機会にしなさい」
「んー、そうだね、まだ早いかもね」


 残念そうに蓮子は呟く。
 どうやら諦めてくれたらしい。


「じゃあ今後に期待と言うことで」


 ……本当に諦めたのかは、定かではないが。

 霖之助は苦笑を漏らすと、小説の続きを読もうとしたところで……。


「あ、メリー」


 蓮子の言葉に、動きを止めた。


「仲いいことはいい事よね。うん、きっとそう。まだセーフゾーン。たぶん」


 まるで自分に言い聞かせるように、メリーはなにやら呟きながら歩いてくる。
 その瞳が暗く見えるのは……きっと気のせいだろう。


「……やあ、メリー。来てたのかい?」
「ええ、蓮子に誘われてたのよ。ケーキが食べ放題って聞いて」
「なるほど。すまないね、先に始めていたよ。と言っても僕はもう食べ終わったんだが」


 霖之助はメリーに向き直り、挨拶を交わす。

 ……彼女はいつからいたのか。
 気がかりなのはその一点。


「霖之助君ったら、ケーキひとつで満足しちゃうのよ。もったいないよね」
「ええ、そうね。その通りだと思うわ」


 メリーはゆっくりと頷いた。
 それから、と付け加えるように。


「もったいないから。私も霖之助さんに食べさせてみようかしら。蓮子みたいに」
「…………」


 頭が痛くなってきた。
 糖分の過剰摂取によるものだろう。きっとそうに違いない。

 何故か寒気を感じた理由まではわからなかったが。


「じゃあ私ももっかいやろ、霖之助君。せっかくだから私のお薦めのケーキも食べてみてよ。一口でいいからさ」
「じゃあ私のお薦めも食べてもらいましょうか。……まさか断りはしないわよね?」
「僕に他の選択肢はない。君が一番よく知ってるだろう」


 そして逃げられないことは、霖之助が一番よく知っていた。

 もしあのまま霖之助が蓮子に食べさせていただろうなっていただろうか。
 ……恐ろしい未来が待っていそうなので、霖之助は思考を放棄する。


 明日の胸焼けに気をつけつつ。
 霖之助は小説をしまい、ふたりへ視線を向けた。



 いろんな意味で甘い一日だ、とぼやきながら。

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No title

蓮子は可愛らしいですね~ 霖之助の鈍さも相変わらずですしwww

でも結局メリーと蓮子が「あーん」するのに夢中になって霖之助が
倒れる未来しか想像できなかったり(笑)

・・・よかったねメリー、ちゃんと出番が合って

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