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彼が筋トレを始めた日

先日の誕生日にいただいたクロロイヌ。さんのイラストを元ネタに。
感謝感謝!


霖之助 妖夢









 窓から差し込む太陽を反射するように、店の中で銀と白が揺れていた。

 銀は髪。
 霖之助のものより色が薄いが、手入れがされているせいか短いながらも艶がある。

 白は霊。
 ふよふよと儚く揺れるその塊は、この世ならざる色合いを見せる。
 幽霊の色なれば当然だろう。
 いや、半人半霊ということは半分生きているわけではあるが。


「珍しいこともあるものだな」


 思わず霖之助はそう呟いていた。
 その言葉が聞こえたのか、振り向いた少女と目が合う。


「どうかしましたか?」


 小首を傾げ、少女……妖夢が返事をした。
 霖之助は一瞬誤魔化そうかと思ったが、そうするまでもないと思い正直に言い直す。


「いや、君がお客なのは違和感があるなと思ってね」
「……店主さん、ひょっとしてひどい事言ってます?」
「ああ、すまない」


 唇を尖らせる妖夢。
 もっともな反応である。


「でも今まで君がまともな客として来たことがあったかな?」
「それは、確かにそうですけど……」


 そう言って彼女は少し俯いた。
 少し意地悪をしすぎたかもしれない。

 霖之助は話題を変えるように、彼女の手元に視線を移した。


「それにしてもご褒美か」
「はい」


 返事とともに、妖夢は嬉しそうに笑みを零す。
 つい先日のことだ。神霊が活性化する異変の解決に、妖夢が携わったらしい。

 いつもは霊夢や魔理沙が力業で解決させるようで、最近は早苗が出張ることも多いようだ。


「確かに霊夢達も騒いでいたね。それで、無事に解決したのかい?」
「はい。今のところは、ですけど」
「また揉め事を起こす可能性はあり、か」


 今回の異変の当事者について、まだ霖之助が会ったことはない。
 縁があれば会うこともあるだろう。

 そんなわけで、異変解決のご褒美を妖夢が受け取ることになったらしかった。


「幽々子様が、何か欲しいものをひとつ買っていいって仰って」
「それでうちに来たというわけだね。それ自体はありがたいが、人里で探そうと思わなかったのかい?」
「えっと、いざ買おうと思うと迷っちゃって。それなら知ってる人のところがいいかなって。私、そんなにすぐには決められませんから」
「ふむ、なるほどね」
「それに、店主さんにはお世話になってますから、何かお返しできたらと思いまして」
「殊勝な心がけだ。常にそうあって貰いたいものだね」


 霖之助は笑みを漏らすと、妖夢のお茶を入れ直した。
 ありがとうございます、と彼女は頭を下げ、再び商品棚に視線を戻す。

 今日の彼女はお客である。
 お客。
 実に心温まる言葉だ。


「しかし何か欲しいものをひとつ、か。そんなに自由に選べるなら、ずいぶん小遣いを貰ったのかな」
「え? 貰ってませんけど」
「……ん?」


 思わず霖之助は動きを止めた。
 胸中に宿る不安を振り払うように、一縷の望みを託して彼女へと問いを投げる。


「ひとつ確認するが」
「はい」
「君の主人が言ったんだね、何かひとつ買ってこいと」
「そうです、好きなものをって」


 頷く妖夢は、まだ質問の意図に気づいていないようだ。
 ……気づいていたら最初からこんな事態にはならないだろうが。


「で、お金は持ってないと」
「ええ、まあ」
「どうやって支払うつもりだったんだい?」
「えっと……」


 ようやく妖夢は理解したらしい。
 困ったような視線を投げかけられても、霖之助にはどうすることも出来ない。


「どうやって……でしょう?」
「確認してこなかったんだね」
「はい……」


 肩を落とした彼女に、ため息を吐いた。

 おおかた浮かれてそのまま出て来たのだろう。
 先程までの上機嫌が一転して、沈痛な表情を浮かべている。

 ……見ている方が痛々しいのだが。


「まあ知らぬ仲でもないし、今回はツケで構わないよ」
「本当ですか?」
「ああ。もちろん後日、君の主人にお代は持ってきて貰うがね」


 西行寺幽々子。
 会ったことはある、妖夢の主。

 紫の友人というあたり一抹の不安を覚えるものの、彼女ほど胡散臭くはないのでまだ安心できる。
 人を従者の教育材料に使うあたり油断ならないのだが。


「それで、そろそろ何を買うか決まったのかな?」
「はい。えっと、このあたりが欲しいんですけど」


 妖夢が指さした先には、大小様々なカメラが置いてあった。
 外の世界のものがほとんどだが、天狗などによって幻想郷で使われている光景を見るのも珍しくない。

 記録の形式にさえ気をつければ扱いが手軽なものが多く、香霖堂の売れ筋商品のひとつだった。


「撮ったその場で写真が出てくるのって、どれですか?」
「ああ、それはそこの下段のやつだよ」
「この辺ですか。出来れば使い方がわかりやすいのが欲しいんですけど……」
「ん、ちょっと待っててくれ。カメラに関しては初心者なんだね?」
「はい」


 霖之助はカウンターの席から立ち上がると、彼女の隣へと移動する。
 それからいくつか質問しながら、妖夢の望む商品へと導いていく。


「君の用途からすると、僕としてはこのあたりがお勧めかな。
 このタイプは解析を河童に協力してもらってフィルムの製造が実現したんだよ」
「わかりました。デザインもいいですし、これにします」


 霖之助の進めた品を、迷うことなく即決。
 信じてくれているのはありがたいのだが、もう少し選ぶことも覚えた方がいいとは思う。

 もちろん今回進めたものに関しては霖之助も自信があるため、まったく問題はないが。


「それにしても写真に興味を持つとはね。鴉天狗の影響かい?」
「い、いえ。そういうわけじゃないんですけど」


 言いにくそうに妖夢は視線を逸らし……それから恥ずかしそうに俯く。


「実はその、この前幽々子様からもっと風流を学ぶようにって言われたんですよ。
 でもそうは言ってもどうしたらいいのかわかりませんので……とりあえずかたちに残してみようかな、と」
「なるほど」


 風流は学べと言われて学べるものではないし、一朝一夕に身につくような単純なものではない。
 これまで見て、体験したものの集大成でもあるし、人生そのものと言い切る人すらいるほどの深い道だ。

 風流を嗜むには観察眼が欠かせない。
 いいものをたくさん見ることは、確かにひとつの方法だろう。
 そのためにカメラを選んだ妖夢は、いい選択をしたとも言える。


「それはとてもいい心がけだと思うよ」
「ありがとうございます」


 妖夢の笑顔に、霖之助は簡単のため息を吐いた。
 向上心があることはとても素晴らしいことだと思う。

 ……あとは結果に繋がれば、言うことはないのだが。


「せっかくのお祝いなら、僕からも何かあげようじゃないか」
「いいんですか?」
「ん、いらないなら構わないが」
「いえ、是非お願いします」
「素直なのはいい事だ」


 香霖堂を選んでくれたことに対する礼も兼ねてのことだ。
 それにあのカメラ、フィルムは当然ながら使用したらなくなるわけで。
 なくなったらまた買いに来てくれると思えば、これくらいの先行投資は安いものだろう。


「それで、何か欲しいものはあるかい? 何でもとはいかないけどね」
「えーと……あ、そうだ」


 彼女は少し考え込むと、しかし他の商品棚を見ようとはせず、手元のカメラを少し掲げて見せた。


「せっかくだから一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」
「それくらいならまったく構わないが……そんなものでいいのかな?」
「はい。この気持ちを忘れないようにお守りにしたいんです」


 それから、と付け加えるように妖夢は続ける。


「ついでに使い方も教えてもらうと助かるんですけど……」
「それはもちろんだよ。我が香霖堂はアフターケアも万全だからね」


 ただし使い方のわかるものに限るが。
 といってもカメラの使い方に関してはさほど苦労せず調べることが出来た。
 幻想郷にもメジャーな道具のせいか、紫が教えてくれた事も大きい。

 彼女に教えてもらったセルフタイマーをセットし、霖之助はカウンターの前で妖夢と並ぶ。


「じゃあ10秒後にシャッターが切れるから、この辺に立つといい」
「は、はい!」


 答える彼女の声は緊張で震えていた。
 そんなに緊張してはお守りにならないと思うのだが。

 そう考えた霖之助は、彼女の背中に手を伸ばす。


彼が筋トレを始めた日


「お祝いなら少しくらい華やかな方が良いだろう……どれ妖夢、ちょっと失礼するよ」
「ちょ!? て、店主さん恥ずかしい! 恥ずかしいですって……!」


 妖夢を腕の中に抱き上げ、霖之助はシャッターを待った。、
 いわゆるお姫様だっこというやつだ。

 名前の響き的にこれ以上華やかな抱え方はない、という判断だったのだが……ただひとつの誤算があった。


(こ、コレ以上持ち上げられないとは流石に言えない…!)


 ほんの数秒。
 だがシャッター音を待つ時間がとても長いものに感じられた。、

 カメラからフィルムが吐き出されたことを確認すると、暴れる妖夢を床へと下ろす。
 恥ずかしそうに顔を赤らめている妖夢に対して、咳払いひとつ。


「……暴れるから抱えにくいことこの上ないね」
「ご、ごめんなさい……って、私が謝るんですか?」


 そういう事にしておいた。
 彼女は鍛えているせいか予想以上に重かったというのもあるが、何より自分の力を見誤っていたのが敗因だろう。

 ……腰を痛めず済んでよかった。本当によかった。


「いきなり何するんですか、もう!」
「すまない、少し軽率だったかな」


 実にもっともな言葉である。
 いろんな意味で反省することにした。

 ……ついでに少し、筋トレもしようと誓った。


「それにその、どうせならもっとちゃんとした時の方が……」
「何か言ったかい?」
「いいえ、なんでもないです」


 口ごもる妖夢に首を傾げながら、霖之助は幻想の終わったフィルムを手に取った。
 出来映えを確認し、予想通りのそれに苦笑を漏らす。

 自分のこととはいえ、顔が引きつってしまっていた。
 妖夢も慌てているせいかとても記念写真には見えない。


「ん、やっぱり変な感じに撮れてしまったかな。処分して撮り直すかい?」
「い、いえ、これでいいです! これがいいです!」


 一生懸命に首を振り、まるで霖之助から奪い取るように妖夢は写真を手の中に納めた。
 それからひとしきり眺めて何故か顔を赤らめると、大事そうに仕舞い込む。


「ありがとうございます、店主さん。最高のプレゼントです。
 お守りと……それから、目標にしますね!」
「目標かい?」
「はい、目標です!」


 風流を学ぶことが目標ではなかったのか。
 そう思ってみたが、あえて聞かなかった。

 何であれ、目標を持つのはいい事だ。
 その目標を叶える手伝いを出来たら道具屋として喜ばしい事だ、と。







 彼女の目標が何だったのかに気がついたのは、もう10年ほど後のことだった。
 ようやく夢が叶いましたと笑う彼女に写真を見せられ……。

 霖之助は腕の痛みとともに、今日の記憶を思い出していた。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

霖之助さん、いくらなんでも非力すぎるのぜ……
妖夢が100kgあったとかそんなオチは流石に無いですよね(ぉ

自慢ですが俺は暴れる子猫を抱きあげられます、1kgほどの(ドヤッ

No title

霖之助は本当にヒョロ男ですねwww 
妖夢以外にもお姫様だっこして欲しい娘たちはたくさんいるだろうから、
ちゃんと筋トレしておかないといけませんね(笑)

No title

結婚おめでとうございますwww

十年後にはしっかりお姫様だっこが出来るようになってあげてね。

No title

た、多分刀が重かったんですね・・・うん・・・

十年後か~、半妖や半人半霊にとっては長い期間でもないのかな~

No title

ちょっとぐぐったら刀は刃渡り80cmで1400g程度、100cmで3000g以上って感じでした。
設定上、楼観剣は長くて並みの人間では扱えないらしいのでかなりの重量なのかもしれませんね。白楼剣もあるし。
それに鍛えてる人は筋肉がついて見た目より体重が重うわなにするやめry

しかし霖之助さんのひょろさはだからこその魅力があると思います!←
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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