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バレンタインSS24

まだバレンタインに間に合いますよね。
むしろ時代を先取りしすぎたかもしれない方向でひとつ。


霖之助 パチュリー









「いつもあなたはそんな顔をするのね」


 玄関から顔を覗かせるなり、睨み付けるように彼女は呟いた。
 その言葉に我に返り、霖之助は慌てて腰を浮かす。

 カランカランというカウベルの音が、やけに大きく聞こえた気がした。
 冬の冷たい空気が流れ込み、そして閉まるドアに遮られていく。


「いらっしゃい、パチュリー」
「ふん」


 勧められるまま、彼女は霖之助の対面へ腰を下ろした。
 しかしその表情には不機嫌の色が濃い。

 驚いた顔をしたのがバレバレだったようだ。
 客商売をする者として、確かにマズかったと反省する。


「毎回思うけど、よくそれで客商売が勤まるわね」
「まさか君がうちに来てくれるとは思わなくて。予想外の出来事に反応が遅れてしまったんだよ」
「不測の事態に対処してこそのプロってものだと思うけれど?」
「やれやれ、耳が痛いね」


 言うまでもなく、魔法使いはご立腹らしい。
 不機嫌そうに眉を寄せると、持って来ていた荷物を脇に置いた。

 その間に霖之助は彼女の分のお茶を入れる。
 温かい飲み物はストレスをほぐす効果があるらしいので、それに賭けた……わけではないが、一応。念のため。
 いつもより少しいいお茶を使ったのも、もちろん他意はないわけで。


「それにしても、動かない図書館と呼ばれる君がわざわざ来るとは、明日は雨でも降るのかな?」
「動かない道具屋のあなたに言われたくはないわね」


 不満そうに唇を尖らせるパチュリーに、霖之助はゆっくりと首を振る。


「断っておくが、僕は全く動かないわけではないよ」
「本当かしら」
「もちろんだとも。常に新しい商品を仕入れ続けるには店主自ら仕入れに出向かなければならないからね」
「あら、珍しく商人っぽいことを言うじゃない」
「僕をなんだと思ってるんだい、まったく」


 霖之助はため息を吐きながら、湯飲みを口に運んだ。
 商人は霖之助を構成する重要な要素である。それはパチュリーが魔法使いであることと同じくらいに。

 確かに商売熱心かと問われれば、返す言葉を探さなければならないのだが。


「それで、具体的にはどれくらいの頻度で仕入れに出るのかしら?」
「ええと……週一か……」
「もしくは?」
「……月一、くらいで」


 パチュリーの呆れたため息が聞こえてきた。
 霖之助は不満そうな顔で、言葉を付け加える。


「いや、外には出るんだよ。実際紅魔館にも行ったりしてるじゃないか」
「そうね。それでも週に一度くらいよね」
「まあ、そうだね。残りは店番をしているのだから、仕方ないだろう」
「ちゃんと店番をしてるなら、客が来たからって驚いた顔をしないわよ」


 そう言ってパチュリーは唇を尖らせた。
 まだ根に持っているらしい。

 霖之助は冷や汗を流しながら、彼女の視線に耐えつつ口を開いた。


「それを言うなら君だって同じか、それ以下だろう? 僕がいつ図書館に行ってもだいたいいるじゃないか」
「私はいいのよ」
「ほう?」
「異変があったときに迅速に対処するため、普段は充電期間なのだから」
「確かに天界や地下に起因する異変については君も活発に動いていた……と聞いたけどね」


 まったくモノは言いようである。
 しかし充電も過ぎればかえって悪影響を及ぼすのだ。

 ……彼女がそのことを知っているかはともかく。


「地下と天界、ね。確かに迅速な対応だったんだろうけど」
「……何か言いたいのかしら」
「いや、大したことじゃないよ」


 くつくつと霖之助は笑う。
 その含みを持った笑みに、パチュリーは不審そうな瞳を向けた。


「地下の件はね。動き出すのは早いが途中で飽きるのも早かったと、君の親友が言ってたような」
「たまたまよ」
「じゃあ途中で方向性を間違えたりとか」
「それも偶然ね」
「そうか」


 ついっと彼女は視線を逸らす。
 天界の異変をいち早く察し、天界に赴き、そして黒幕を間違えて帰ってきたのはまあ、彼女くらいのものだろう。
 と、少し前にそんな事を楽しそうに吸血鬼が話していたことを思い出した。


「まったくレミィったら……」


 喋るのに疲れたのか、パチュリーがお茶で喉を潤していた。
 おかわりを用意しつつ、霖之助は肩を竦める。


「と言うわけでだ、パチュリー」
「なによ」
「そんな君だから、僕が驚くのは無理もないと、そう思わないかな?」
「……ずいぶん前置きの長い言い訳ね。別にいいわよ、もう」


 呆れ顔で、彼女は息を吐き出す。
 ようやく怒りも収まってくれたらしい。

 霖之助は内心安堵しながら、彼女に向き直った。


「では改めて、いらっしゃいパチュリー。何か急ぎの用事かな?」
「急ぎというか、あなたが連絡してきたんじゃない。あの本を手に入れたって」
「それで、わざわざ? 次行くときに持っていく予定だったんだが」
「早く読みたかったのよ。夏になる前にね」
「なるほど、了解」


 彼女が言う本というのは、外の世界の太陽に関する研究書だ。
 科学的な見地から書かれた分析が載っているのだが、本の状態から察するにどこかの図書館が潰れたから流れ着いたらしい。
 貸し出しカードが挟まっていたので間違いはないだろう。

 今年の夏も暑いらしいので、快適に過ごすには研究が必須というわけだ。
 地下の地獄鴉を見て興味を持ったという理由もあるが。


「あなたはもう読んだのかしら?」
「一応ね。だが理解したとは言いかねるかな。なんせ、科学的な観測の数値が主に載っているだけの本だからね」
「あら、だからいいんじゃないの」
「そうかい?」
「ええ。錬金術に必要なのは正確なイメージだもの」


 パチュリーは書物をぱらぱらとめくって確認すると、満足そうに鞄に仕舞う。
 あとでじっくり読むつもりなのだろう。

 重力軽減を付与された彼女特製の鞄。
 その様子を見つつ、霖之助は首を傾げた。


「ところでパチュリー、ひとついいかな」
「なにかしら」


 さっきから気になっていたことを、尋ねてみることにした。
 ……先程まで聞けるような状態ではなかったと言うこともある。


「ずいぶんと大荷物のようだけど、何を持ってきたんだい?
 まさかお土産ってわけでもないだろうし」
「用心のためのお守りよ。備えあれば憂い無しってやつね」
「ふむ……何を持ってきたのか、聞いてもいいかい?」
「構わないけど」


 そう言って彼女は本をどかし、持ってきた鞄の中身を机の上にひっくり返した
 どこにこんなものが入っていたのだろう、というくらいに物が溢れ出る。

 霖之助が驚きで目を瞬かせていると、彼女は事も無げに首を振った。


「お土産のつもりはなかったんだけど、欲しいならあげるわ。もう用は済んだのだから」
「ん? ここに来る途中で使ったのかな?」
「そうね、使ったとも言えるしそうでないとも言えるわ。お守りなんてそんなものでしょう?」
「お守り……ねぇ」


 その言葉に、頭を捻る霖之助。
 机の上に散らばるのは、わさびにうなぎ、高麗人参。
 ゴーヤや梅干しまである。食べ物が多い気がするのは何か理由があるのだろうか。

 それらを眺めているうちに、霖之助の脳裏にあるひとつの考えが閃いた。


「まさかお守りって」
「あら、今更気がついたのかしら」


 パチュリーは薄い笑みを浮かべると、散らばったそれぞれを指さしていく。


「例えばこの唐辛子は辛味。辛味は五味の金行。
 木行の妖怪を相手するときなんかに効果覿面でしょうね」
「うなぎは土行かい?」
「もちろんよ。水行の者を相手するのにもってこいね」
「するとこの炒った大豆は……」
「それは見たままよ」


 つまり鬼対策ということだ。

 ということは、彼女が持ってきたお守りはすべて対人用なのだろうか。
 ……話を聞いていると、想定する相手が顔見知りのような気がしなくもない。


「別にこれらを直接使うってわけじゃないわ。
 相手の優位な属性を持つということはそれだけで意味があるのよ」
「なるほど、さすがは七曜の魔法使いだね」
「当然よ」


 自信たっぷりに頷くパチュリー。

 それにしても、彼女は出掛ける度に毎回こんな準備をしているのだろうか。
 それならほとんど出歩かない理由も納得できるのだが。


「お守りを持ってくると言うことは、戦う予定でもあったのかな?」
「ないこともない、ってところね。いつ邪魔が入るかわからないもの」
「……邪魔? 妨害でもされるのかい?」
「その可能性は考えてたわ。まあ私がここに辿り着いた以上、もうこのお守りも必要なくなったって事だけど。
 特に今日は、他の誰にも負けるわけには行かないんだから」


 あとは目的を果たすだけね、と彼女は呟き……それから何故か迷うような視線を向けた。
 言うべきか、言わざるべきか。
 そんな逡巡が見て取れる。

 やがて彼女は意を決したように深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。


「もちろん、あなた用のも持ってきたわよ」
「僕のかい? あいにく君と戦う予定はないが……」
「五行におけるお守りの効果はそれだけじゃないわ。
 有利な属性を持ってくれば……えっと、交渉事がスムーズに運ぶ、はずなのよ」


 先程までの勢いはどこへやら。
 珍しく自信なさげに、パチュリーは言い淀む。

 霖之助は不思議に思いつつも、彼女の真意を確かめるために先を促すことにした。


「ちなみに僕にはどんなものが効果があるんだい?」
「あなたが属するのは水行。水は土に弱い。だから用意するのは土行のものね」
「なるほど、魔理沙と同じ扱いか。だったら僕にもウナギなのかな?」
「いいえ、あなたにはもっとふさわしい物を持ってきたわ」


 そう言ってパチュリーは服の合わせに手を入れた。
 どうやらポケットがあるらしく、何かを取り出そうとしているらしい。
 あのバッグに入れてなかったところを見るとひょっとしたら大事なものだろうかと思いつつ眺めていると、ふとパチュリーが動きを止める。


「その前にひとつ聞きたいのだけど。あなた、今日がなんの日か知ってるかしら」
「今日……はて」


 彼女に言われ、壁に掛けられたカレンダーを眺める。
 2月14日。
 確か誰かが何かを言っていた気がするのだが。


「……忘れてるのね」
「面目ない」
「バレンタイン。私はあなたから教えてもらった気がするんだけど」
「ああ、そう言えば。女の子の行事らしいからすっかり忘れていたよ」
「そんな事だろうと思ったわ」


 なんだか今日は謝ってばかりだ。
 早苗からそのようなイベントがあると聞いたのはずいぶん前の話だ。
 あまりイメージが湧かなかったので、すっかり失念していた。

 ……彼女に言われるまでは。


「まったく、いろいろ準備した私がばかみたいじゃない」


 パチュリーは深いため息とともに、懐から何かを取り出す。
 拗ねたように呟く彼女の頬は、朱に染まっていた。

パチュリーバレンタイン

「……口に合うかはわからないけど」


 綺麗にラッピングされた、明るい色の小さな箱。
 名称はバレンタインのチョコレート。
 用途は、霖之助に渡すこと。


「水に有利なのは土。土は甘味。
 だから……その、少し甘めのものが合うと思って」
「……ありがとう、パチュリー」


 パチュリーから箱を受け取る。
 手作りらしいそれは、なんだか温かな感じがした。


「それで、その」


 コホン、と咳払いひとつ。
 照れた顔の彼女は、少しだけ早口に付け加える。


「聞いて欲しい話があるんだけど」
「……ああ、わかっているよ」


 交渉事がスムーズに運ぶ。
 彼女は先程そう言った。

 だから、そう。
 これは予想できたことなのだろう。


「その前に、このチョコレートを少し食べてもいいかな?」
「ええ、構わないわ。そのために持ってきたのだもの」


 包みを開け、中身を取り出す。
 一口サイズのトリュフチョコが並んでいた。
 形がそれぞれ微妙に違うのは、作り慣れていない故か。

 ひとつつまみ、口に放り込む。
 じんわりと広がる上品な甘みに、霖之助は思わず頬を弛めていた。


「どう、かしら?」
「おいしいよ」
「そう、よかったわ」


 甘い、甘いチョコレート。
 なるほど水行の霖之助に土行の甘味は実に効果がありそうだ。

 こんな物を出されては、どんな交渉だろうと頷いてしまいかねない。

 霖之助はなんとなくそんな事を思いながら、パチュリーの言葉を待つことにした。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

高尚な交渉ですね(棒
しかも気付いてなかったという事は一番乗り、これは大いにアドバンテージが得られそうな

No title

甘ーい!(挨拶
チョコを渡すためだけに、頑張ってかばんいっぱいに五行に関する物を詰めてきたと思うと胸がホッ、となりますね。
似た者同士の二人だから、ホワイトデーは霖之助が何かと理論付けて私に行くのかしらん。
挿絵も大変可愛らいしいです。

No title

よっぽど他の人にジャマされたくなかったんですねパチュリーが
なんと乙女なことwww 建前はあれだけスラスラ言えていたのに
いざ本題と言うときに限ってどもってしまう所もいと可愛し///

イラストのパチュリーも可愛くて大満足です。
・・・リボンをしているのは「私もプレゼント」というメッセージを
意味していたりして(笑)

あれ、続きが読めないですよ?
パチュリーさんの乙女度が高くて素敵ですね!

No title

おろ?続きはどこに消えた……?

それはともかくヒャッハー、パチュ霖だー!
上目遣いパチェさんかわいいです^^

甘いっ!これはとうぶん、砂糖には困らなさそうです。
しかし頑張って荷造りするパチェリーさんを考えるとすごく和む。

もう動かない同士一緒になればいいんじゃないかな…
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道草

Author:道草
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