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河城川のにとりさん

華扇ちゃん漫画を読んでてそういやダム作ってましたねと。


霖之助 にとり








「つい先日の話なんだが」
「ほえ?」


 おもむろに語り出した霖之助に、にとりは煎餅をくわえたまま首を傾げた。
 返事とともに、煎餅がぱりと音を立てる。

 彼女が眺めているのは香霖堂の商品のひとつ、外の世界の工具カタログだ。
 商品と言ってもカタログだけではどうしようもないので売れた試しはないのだが。
 それでも彼女が読んでいるのは、いいものがあったら再現するためらしい。


「正確には4日前かな。いい天気だったからね、河童の里に行ってきたんだよ」
「そうなの? ひとりで?」
「ああ」
「なんだ、私に言えば案内してあげたのに」
「連絡が付けばそれもありかと思ったんだけどね」


 唇を尖らせるにとりの湯飲みに、肩を竦めながらお茶を注ぐ。

 いつものようにふらっと香霖堂へやって来たにとりは、特に何をするでもなくくつろいでいた。
 外の世界の道具に興味のある彼女は霖之助のいい話し相手だ。
 隙あらば商品を分解しようとする癖さえなければ、最上の客とも言えるのだが。


「そもそもここ10日くらい誰も君を見かけてないと聞いたんだが、一体どこにいたんだい?」
「え? えーと」


 霖之助の質問を受け、にとりは気まずそうに頬を掻いた。
 秘密にするようなことなのだろうかと考えたが、ややあって彼女は口を開く。


「実は、ずっと家にいたんだ」
「家というと、河童の里の?」
「うん。なんだかすごく調子が良くてさ、研究がすごく捗っちゃってね」
「僕が里に行ったとき、君の友人の誰も君の行き先を知らなかったようだが」
「このところずっと研究に没頭してて、一歩も外に出た覚えがないから出掛けてると思ったんじゃないかな」


 つまり引きこもっていたのだろう。
 なるほど、蓋を開ければ単純な話である。


「普通は炊事の煙とかで在宅かどうかわかりそうなものなんじゃないのかい」
「研究中は悠長に料理なんかしてられないよ。携帯食料はいつも買い込んでるから、その気になれば1ヶ月は余裕でこもれるのさ」
「それはなんというか……あまり自慢できることではないな」


 開き直ったように胸を張る彼女に、思わず掛けるべき言葉を見失う。
 その姿勢は評価できるのだろうが、褒められたことではない。

 口ごもるあたり、本人も自覚はあるようだ。


「いつも時計なんて見ないからねー。いつの間にか日にちが経っててびっくりしたよ」
「それはまたなんとも。まるで浦島太郎だね」


 霖之助はひとつ息を吐き出すと苦笑いを浮かべた。
 実は似たようなことを自分も経験してるので、あまり強くは言えなかったりする。
 あの時は魔理沙と霊夢から散々文句を言われたものだ。


「まあ、そんな感じで君に依頼できなかったんだよ」
「むー。待っててくれてもいいのに」
「思い立ったが吉日というからね」


 ちなみに思い立ったが吉日ならそれ以降は全部凶と外の世界の書物に書いてあった。
 幸運の女神は待ってくれないのである。
 ……幸運の妖怪兎ならその辺を散歩してるだろうが。


「それに前回君に案内を頼んだときは、君のラボでいろいろ見せて貰ってるうちに時間が過ぎて、結局見て回れなかったじゃないか」
「そーだけどさー。楽しければいいじゃん」
「それについては否定はしないけどね」


 にとりはしばらく文句を言っていたが、やがて諦めたようだ。
 カタログのページをめくりつつ、思い出したように首を傾げる。


「で、なんで河童の里に行ったのさ」
「よく聞いてくれた」


 待ってましたと言わんばかりに霖之助は引き出しから小さな箱を取り出した。
 それから中身を取り出し、彼女の見やすい位置に置く。

 このまま話題が流れてしまったらどうしようと心配していたことは秘密である。


「これ、腕時計ってやつ?」
「外の世界のブランド品らしいが、驚くことに衝撃や水圧に強いという特性があるらしくてね」
「へえ、まるで河童の道具みたいじゃん。でも、本当に大丈夫なの?」
「そう思うだろう? だから僕は実験してみることにしたのさ」


 カウンターに置かれた腕時計を手に取り、興味深そうに眺めるにとり。
 道具を見るその真剣な目はまさに技術者のものだ。


「この時計、スペック的には200メートルの水圧にも耐えられるらしい。
 と言ってもそんな水圧なんて普通に生活していたらお目にかかれないからね。
 だから水を操ることのできる河童に協力を仰いだんだよ」
「へぇ、面白そう。で、どうなったの?」
「ああ、外の技術はさすがと言うべきか。かなりの勢いで水を掛けたり叩いたりしても見事に動いていたよ」
「それはなかなか、たいしたもんじゃない」


 腕時計を弄りながら、にとりは感心のため息を吐いた。
 こういった品物は動力が電池などで丈夫なため、動く物が流れ着くことが多いのが幸いである。

 ……それにしても、そもそも外の世界の人間が200メートルも潜るのだろうか。
 腕時計に与えられたスペックの理由を考えつつ、霖之助は言葉を続ける。


「河童達も喜んでいたよ。この時計の仕組みに興味を持っていたようだね」
「だろうねぇ」
「実験は成功だったんだ。……そこまでは良かったんだけど」


 そこで彼は大きなため息を吐いた。

 霖之助は技術師ではなく道具屋である。
 もちろん河童の里にも実験のためだけに行ったのではない。

 反応が良ければそのまま商売に持っていこうと思ったのだが。


「問題は、誰ひとりとしてこの時計を欲しがらなかったことだ。
 いや、時計を身につけるという習慣自体がないのだろう。君のようにね」
「あー」


 その言葉に、にとりは納得したように声を上げる。
 そして霖之助は改めて現実を突きつけられ深く肩を落とした。


「興味があったのはあくまで技術面ばかりのようでね。
 サンプルとして渡した腕時計だけで満足だったらしい」
「わかる気がするなあ」
「君もかい?」
「んー」


 彼女は唇に人差し指を当て、少し考える素振りを見せる。


「だってさ、時間に縛られるのってなんかヤじゃない?」
「そういうものかね」


 やがて出て来たのはいたってシンプルな答えだった。
 なるほど実にわかりやすい。


「少し前に山の神社から工事を請け負ったことがあるんだけどさー」
「ああ、ダムがどうこう言っていたね」
「そうそう。それなんだけど。やれ工期がどうのとかまだ完成してないのかとかうるさくてもー」


 確か聞いた話だと、ダム計画は中止になったらしい。
 その理由は、河童を知っている者なら何となく予想は付いた。


「だけど期間に間に合わせるのも重要だと思うよ」
「いーじゃん、気にしなくて。いいものができればそれでさー。
 私だって頑張ってるんだよ? だからダムの時も、いろんな機能を付けようとしたのに」
「設計図にないものを作りたがって困る、と早苗が言ってたのはそれか」


 少し前に山の風祝が話していたことを思い出した。
 河童は個人個人は有能な技術者なのだが、集団で何かをやるには全く向いてないと。

 大がかりな工事なら鬼に頼むべきなのだろうが、山の神の威光を示すのに旧支配者である鬼の手は借りられなかったらしい。
 つまり失敗すべくして失敗したのだ。


「うちみたいな客商売だと、時間感覚は大事なんだけどね」
「あれ、この店営業時間ってあったっけ」
「……あるよ。一応ね」


 どうして誰も香霖堂の営業時間を知らないのだろうか。
 ちゃんと言っているはずなのだが、浸透している気配がまるでない。


「とにかく、君ももう少し時間に対する意識を高めた方がいいと思うよ」
「えー……めんどうだよー。それに発明に没頭すると、ついつい食事も忘れちゃうし」
「その気持ちはわからなくもないがね」


 よくわかる、というかつい昨日も読書に耽り、霊夢に文句を言われたところだ。
 霖之助は食べなくても平気な体質なのだが……むしろ霊夢が夕食を食べたかっただけだと思う。
 無論、タダで。


「ずっとやってると、どうしても効率は下がってしまうだろう?」
「まぁ、ねえ」
「時刻を知り、メリハリの利いた生活を送ることで集中力が高まるんだ。
 案外、規則正しい生活を送った方が研究が進むかもしれないよ」
「本当?」
「絶対とは言い切れないけど、一考の価値はあるんじゃないかな」
「うーん、研究が捗るならやってみてもいいかなー」


 ひとつ頷き、にとりはなにやら考え込む。
 手応えアリと見越した霖之助は、彼女の返答を待つことにした。
 あまり無理に推さないのがポイントである。


「でも朝起きるの面倒なんだよね」
「……一番はそこか」


 よっぽど朝が苦手なのだろう。
 いや、吸血鬼的な意味ではなく。


「あ、いい事思いついた」
「なんだい」


 ポンと手を打ち、にとりは瞳を輝かせた。
 それから霖之助と腕時計を交互に見比べる。


「霖之助が朝私を起こしてよ。それで効果があったら、時計の導入を考えるからさ」
「僕が?」
「うん。いいアイデアでしょ」
「……起こすくらいなら、構わないがね」


 目覚まし時計でも売りつけようかと思ったが、それこそ意味がないだろう。
 何せその時計を使わないのだから。

 霖之助はしばし考えると、口を開いた。


「効果があったら他の河童に時計を売るのを協力してくれよ」
「もちろんいいよ。私に任せて」


 自信たっぷりに頷くにとりに、霖之助も笑みを浮かべる。

 外の世界で靴を売る商人の逸話を聞いたことがある。
 曰く、靴を履く習慣のない民族にセールスに行って、諦めるか、ビジネスチャンスと取るか。

 今霖之助の商人としての器が試されているのだ。


「じゃあ契約成立だね」
「うん。よろしくね、霖之助」


 あとはどうやってにとりを起こすかを考えるだけだ。
 目覚まし時計が使えないのなら、通話の出来る道具でも作ろうかと思った矢先。


「ついでに朝ご飯も作ってくれると嬉しいんだけど」
「ん?」


 続くにとりの言葉に、首を傾げる。
 何かすごく認識がずれているような、この感覚。


「ところでどっちに引っ越す? こっちに研究所作るのもいいけど、でも霖之助が向こうに来てくれた方が私は嬉しいかな。
 ほら、移動手段なら私が作ってあげるからさ」
「……もしかして、起こすって」
「直接起こした方が確実でしょ?」
「それはつまり、一緒に住むと言うことか」


 霖之助は大きくため息を吐いた。
 相手の真意を見抜けないあたり、まだまだと言うことなのかもしれない。


「そりゃもうバッチリ、霖之助と暮らすことの利点を吹聴して回るからさ!」
「時計の利点だったはずだが」
「これもある意味規則正しい生活でしょー?」


 ある意味では合ってる。
 それを認めていいのかはともかくとして。

 ……だけど、まあ。


「にとり」
「なーに?」
「どちらで一緒に住むかについては、もっとじっくりと話し合うべきだと思うよ」


 既に契約は成されたのだ。
 ならばこの状況を楽しんでみるのも悪くない。

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No title

いつの間にかにとりが主導の契約に。にとりの手腕を見習えば香霖堂ももう少し
繁盛するのかなと思ったりwww

・・・にとりが霖之助と暮らすことの利点を吹聴して回ったがために、
幻想郷の少女達による霖之助争奪戦が始まるんだろうなぁと妄想する今日この頃でした(笑)

この二人の同棲話か・・・
霖之助がにとりの家にすむようになると引き込もって研究に明け暮れてそうですね。
逆ににとりが香霖堂に住むようになると・・・コンピューターやらなんやらを片っ端から分解しそうです・・・

研究を優先するなら同棲すべきですけど・・・香霖堂の売り上げを考えると、別居すべきかもしれませんw

いっそのこと霖之助さんは河童の里そのものに婿入りしちゃいなさいな。

にとりさんによる同棲の宣伝。
……はっ。
霖之助さん家の空き部屋を貸してルームシェアしに来てもらうという新たな商売の可能性……?
でもって夜は一緒の布団で寝るサービスが付いて……?
今なら初回限定でもう一ヶ月……?


姉さん……事件です。
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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