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紅に染まる

某所でステッキーな絵とプロットを見かけたので思わず。
リンク貼っていいかわからなかったもので、ご本人に許可もらってこっちにもアップさせていただきました。


霖之助 妹紅






 肌も寒いが懐も寒い。
 そんなことを思いながら、霖之助は白く濁ったため息をついた。

 太陽は頭上にあるものの、竹林の枝葉に阻まれ満足に届かない。
 雪が降っていないだけマシといったところだろう。

 まだ昼前だというのに獣道は薄暗く、陰鬱な気分に拍車をかけていた。
 その気分を表すかのように、迷いの竹林を歩く霖之助の足取りは重い。


「……まさかあそこまで値切られるとは」


 再び大きく白く、ため息をはき出す。

 永琳に頼まれ、姫と兎相手に永遠亭まで行商しに行ったのがつい今朝のこと。
 戦果は微妙……いやむしろ悪いと言っても差し支えないだろう。

 これもそれもすべてあの詐欺うさぎ……てゐのせいだ。
 いったいどの辺が幸運の象徴なのやら、一度追求してみたいところである。

 持って行った商品のことごとくを値切られ、買い叩かれた。
 しかも自分が買うものだけに留まらず、輝夜や鈴仙の買い物にまで口を出してくるからタチが悪い。
 本当はもっと売りたいものがあったのだが、これ以上被害を広げないため早めに切り上げてきたのだった。

 おかげで商品が半分以上トランクケースの中に残ったままだ。
 これを敗北と言わずなんと言おう。

 これが紅魔館だったら、きっと値札を見ることなく気に入った商品を買ってくれただろうに。
 もっとも、あっちはあっちで趣味の合わない品には目もくれないので難しいことに変わりはないのだが。


「……寒い」


 お寒い成果を思い出したためか、心と体を寒風が通り抜けていった。
 このままでまずいと思っていると、ふとひどく寂れた庵が目に入る。

 こんなところに庵などあったかと疑問に思ったものの、ここは噂に名高い迷いの竹林だ。
 いつもと同じ道を歩いてきたつもりでも、いつの間にか別ルートを歩いていたのかもしれない。


「廃屋……にしては少し変だな」


 藁葺きの屋根に、昔ながらの建築方式。
 がっしりとしたその作りは、まだまだ使用に耐えうるものだと霖之助の目には映っていた。

 とは言うものの、生活感のまるでない庵だった。
 だがそれにしては妙に片付いている。小綺麗と言ってもいい。

 訝しみながらも、霖之助は思わず体を震わせた。
 凍えるまではいかないにしても、体にいい温度とは言えない。


「お邪魔するよ……?」


 少し体を温めてから帰ろうと考え、霖之助はトランクケースを抱えたままその庵の敷地内に足を踏み入れる。
 さすがに無断で上がり込むのもどうかと思い、少しでも風を防げるところを探すためその庵の裏に回ってみることにした。

 少しの違和感を除けば、どこからどう見ても廃屋に見える。
 真冬だというのに襖は開け放たれ、囲炉裏に火が熾った様子はない

 だから、だろうか。


 白い人影を見た瞬間、霖之助は思わず固まってしまっていた。


紅に染まる


「…………」
「ん。どしたん?」
「いや、まさか人がいるとは思わなくてね」
「そ。まあうちには盗るもんなんて何もないよ」


 最初は幽霊かと思った。
 銀の髪に白いシャツ。赤いズボンのようなものには、不思議な文様のお札のようなものがびっしりと貼られている。

 存在感……いや、生きる意思というかなんだかそんなものがの希薄な少女だった。
 彼女は最初からこの庵の縁側に座っていたらしい。
 だと言うのに、霖之助はすぐ近くに来るまで彼女のことに気づかなかった。


「うちに……と言ったが、ここは君の家かい?」
「そんなとこ」


 突然の来訪者である霖之助に無感情な視線を送りながら、その少女はあくびをかみ殺している。

 こんな所にいるのなら妖怪か何かであろうと当たりをつけるが、ひどく薄着で佇んでいるのが気になった。
 雪女の一種かと思ったものの、霖之助の知っている雪女とは雰囲気がまるで違う。

 霖之助は何となく心配になり、頬をかきながら質問を投げかけてみることにした。


「一応何をしているのか、聞いてもいいかな」
「別に、何も」
「……何も?」
「ああいや、暇つぶし」
「……それは何もしてないと言っているようなものじゃないか」
「だからそう言ってるんだけど」


 あっさりと首を振る彼女に、霖之助は肩を竦める。
 追加の説明を求める視線に気づいたのか、少女は少し考えると改めて口を開いた。


「最近毎日暇でさ、やることなくて」
「ふむ」
「やることがないなら寝ていようと思って」
「なるほど」
「だから強いて言うなら、昼寝するところかな」
「……そうか」


 霖之助はいろいろと言いたいことを飲み込み、代わりに大きく息を吐き出した。
 今日は厄日なのかもしれないと思いつつ。


「ひとつ聞きたいんだけど」
「ん」
「君は自殺志願者か何かかい?」
「どうして?」
「どうしてって……こんな寒空で昼寝なんて、風邪で済めばいい方だろうに」
「ああ、そういうこと」


 そうして彼女は笑う。
 ひどく空虚な笑い顔。
 まるでこの庵のようなそれに、霖之助はなんだか居心地が悪くなる思いだった。


「大丈夫、人間これくらいじゃ死なないって」
「君と僕とでは人間の定義に大きく差異があるみたいだね」


 ゆっくりと首を振り……やがて彼は視線をあげる。
 その瞳には、若干の打算的な光が灯っていた。

 あとの残りは……自棄半分、といったところか。


「暇つぶしなら、少し僕に付き合ってくれないかな」
「別にかまわないけど、面白くなかったら私は寝るよ」
「ああ、それで構わない。決して退屈はさせないと思うよ」


 それはほんの気まぐれだった。
 あるいは、不完全燃焼の八つ当たりと言ってもいいかもしれない。

 霖之助は居住まいを正すと、咳払いをひとつ。


「実は古道具屋を営んでいてね。何を隠そう、今日は行商の帰りなんだ」
「ああ、それでそんな荷物持ってるんだ」
「そういうことさ。そしてこの中には、君のように暇をもてあました人物にぴったりの商品の数々が納められている」
「変な偶然だね」
「必然と言い換えても構わないよ。気に入ったものがあったら格安で提供するが、どうだい?」


 自信たっぷりに、霖之助は頷いた。

 と言っても、トランクケースの中に入っているのは行商の売れ残りである。
 タダ同然で買い叩かれるくらいなら、新たな顧客確保に乗り出す方がマシだろうと言う魂胆だった。
 カモを見つけた目とも言う。

 あるいは、見ようによっては親切心と見えなくもないかもしれない。

 霖之助は商売人の顔でトランクケースに手を伸ばし……。
 そこで大きなくしゃみをひとつ。


「……済まないが、火をおこしても構わないかな? さっきから寒くて仕方ないんだ」
「ふふっ」


 気まずげに視線を逸らす霖之助に、その白い少女は笑みを零した。


「確かに暇つぶしにはなりそうだね」


 先ほどとは違う、少女らしい可憐な笑顔を眺めながら。
 霖之助は新たな商売の予感に気合いを入れ直すのだった









 絶望とはどんな色なのだろうか。
 ……例えるなら、そう。
 それは今日のような空の色なのかもしれない。


「なんか、ごめん」


 がっくりと肩を落とす霖之助を横目で見ながら、気まずそうに少女は頬をかいた。
 霖之助は力ない様子で手を振りながら、ゆるゆると体を起こす。


「気にしないでくれ。君が気に入るような商品を用意できなかったのは僕の落ち度だからね」
「そ、そう? ならいいけど。なんていうか、ぱっと見面白そうなんだけど興味は引かれないんだよね」
「……参考にさせてもらうよ」


 藤原妹紅と名乗ったその少女は、割と正直だった。
 正直ゆえに、言葉が胸に突き刺さる。

 もちろん今日持ってきた商品は輝夜達に売った道具の売れ残りであるし、魅力がないと言われても仕方がない点はある。

 だがそんなことを言ってもいいわけに過ぎないので、この評価は甘んじて受けなければならない。


「でも面白かったよ」
「そうかい?」
「うん、香霖堂の顔を見てるのはね」
「僕は商品ではないんだが」


 妹紅の言葉に、霖之助は再び肩を落とした。
 暖炉に手をかざし、冷えた心と指先を温めることしばし。

 やがて霖之助は顔を上げると、妹紅の顔を眺めながらゆっくりと口を開いた。


「それにしても、君はずいぶん退屈しているようだね」
「ん、そう見える?」
「それなりに。さっきから……いや、会った時からずっと、暇つぶしのネタを探しているみたいだから」
「ん~……」


 ゆらゆらと揺れる炎をその瞳に映しながら、妹紅はなにやら考え込むように首を捻る。
 だがそうしていたのも短い時間のことだった。


「ま、気になるなら教えてあげてもいいかな」


 彼女は虚ろな笑みを浮かべ、霖之助が広げたままの商品に手を伸ばす。


「ちょっと借りるよ」
「何を……」


 妹紅が小刀を手に取り、指先に当てる。
 霖之助が静止する間もないまま、そのまま彼女はまっすぐに刀身を横に滑らせた。

 ぱっと咲いた紅い飛沫は、やがて炎に呑まれて消える。
 おもむろに小刀を鞘にしまった妹紅は、切り傷のあった場所を霖之助の眼前に差し出した。


「ご覧の通り。私は死ぬことができない体なんだ。元は人間なんだけど、もう千年以上になるかな」


 一瞬前まであったはずの傷は、すでにきれいさっぱり復元されている。
 つまり彼女はそういう体質なのだと、何より如実に物語っていた。

 そんな妹紅に、霖之助はひときわ大きなため息で返す。


「なんだ、そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
「……へ?」


 ぱちくりと目を瞬かせ、妹紅は言葉を失っていた。
 あまりにも霖之助の返答が予想外だったのだろう。


「じゃあ君にふさわしいのはこっちの道具かな」


 霖之助はというと、驚く彼女を尻目に持ってきたトランクケースに手を伸ばす。
 蓋を開け、入っていた道具をすべて取り出すと薄い壁がぱかりと外れた。
 理由は簡単、このトランクケースは二重底になっているのだ。

 もちろん本命の商品を隠しておくためであり、てゐみたいな妖怪にすべて巻き上げられるのを防ぐためでもある。


「あまり驚かないんだね」
「まあ、こちとら商人だからね。君以上に長く生きている妖怪も顧客にいるし、君が生きているのと同じくらいの時間死んでいる亡霊もお得意様だよ」
「……変な知り合いばっか」
「そうだね。その中に今日、死なない人間も増えたけど」
「む」


 霖之助の言葉に唇を尖らせる妹紅だったが、その様子はどこか楽しそうだった。

 実際、鬼や天狗は千年以上生きているのがざらだし、大陸妖怪や仙人なら四千年クラスも割と見受けられる。
 元人間と言うカテゴリで考えれば、天人などは何億年も寿命があると言われているわけで。
 もちろん若い妖怪も多いが、五百年生きる女児吸血鬼なんかを見ていると月日の意味を真剣に考えさせられるのも事実だ。

 まあ年齢で言ったら自然の権化である妖精は何歳なんだという話になるが。

 しかしその辺はまだ可愛い方だ。
 妖怪は正体が不明だからこそ恐ろしいのである。
 幻想郷で最も警戒すべきは年齢不詳の妖怪達なのだと、霖之助はそう思っていた。


「僕自身は君の半分も生きちゃいないが、君と会話することはできる。商売人に必要な条件としては十分だろう? というわけで、君にお勧めな道具はこのあたりかな」
「……これ、トランプ?」
「見ての通りさ。まあちょっと特殊なやつなんだが……普通に使う分には問題ないだろう。ところで君は、ポーカーのルールを知ってるかい?」
「え? いや……」


 霖之助が妹紅に手渡したのは、プラスチック製のトランプ一式だった。
 それからルールブックと、トランプを題材にした漫画をいくつか取り出す。

 彼の意図を計りかね、目を瞬かせる彼女に、霖之助は肩を竦めて見せた。


「知り合いの妖怪が言っていたんだ。若いうちはひとりの時間も必要だけど、少し経つと今度はひとりじゃダメな時間が訪れるんだって」


 長く生きた強力な妖怪が人間にちょっかいをかけたがるのは、そのあたりの事情もあるのかもしれない。

 人間に恐れられてこそ。
 人間と関わってこそ、妖怪は力を保っている。

 そう考えれば、妖怪ほど他人のために生きている存在はいないのではないだろうか。
 ……霖之助は、何となくそんなことを思っていた。


「でも妖怪の若いって、いつまでなのかな」
「さて、上には上がいるからねぇ」


 曖昧に言葉を濁しつつ、首を振る霖之助。
 その辺はご愛敬というやつだ。触れてはいけない部分とも言う。


「とにかく、君に足りないのは他人と接する協調性ってやつかな」
「はっきり言うね、香霖堂」
「遠慮したって物は売れないからね」


 先ほどまで出していた……まったく妹紅の興味を引かなかったのは、すべてひとりで遊ぶための道具だったからだ。
 しかし普段から永遠亭という共同体で生活している輝夜達にとっては、それらの道具こそ有用なのだろう。

 先ほどの言葉を霖之助に教えた妖怪も、ひとりの時間とそうでない時間はバランスが肝心なのだと言っていた。
 もちろんそれは霖之助も例外ではなく、ひとりの時間は読書などをして、そうでない時間は接客をして有意義に過ごしているのである。


「でもトランプって言ったって、誰とやればいいのさ」
「その相手を見つけるのも、いい暇つぶしになるんじゃないかい? どうせなら、他人をこの庵に呼ぶといいかもしれないね」
「なるほど、そういうことね」


 しれっと答える霖之助に、妹紅は苦笑を浮かべて見せた。
 違いない、との彼女の呟きを聞き逃さず、霖之助は笑みを深める。


「とはいえ僕には売った責任があるからね。暇だったら声をかけてくれ。数百年くらいは付き合ってあげるよ」
「曖昧だね。もっと長生きしようって言う気はないの?」
「まあ、こっちにもいろいろあるんだよ」
「ふぅん?」


 妹紅は首を傾げているようだったが、霖之助はそれ以上何も言わなかった。
 代わりに居住まいを正すと、恭しく頭を下げる。


「人をもてなすための家具や調度品、食器やぬいぐるみまで、必要とあらば香霖堂にお申し付けください」
「はいはい。そのうちにね」
「期待しておくよ、妹紅」


 やれやれと肩を竦める彼女は、楽しそうに部屋の中を見渡した。
 この何もない庵に、どんな色を付けるか考えるかのように。


 その表情からは、先ほどの空虚さはすっかりと消えていて。

 霖之助は彼女が彩るこれからの未来に、なんとなく胸を躍らせるのだった。

コメントの投稿

非公開コメント

なるほど
その後も二人は親交を深め、
暇潰しと言って付き合い始め、
でもいつの間にか
本気の恋になっていく……
ということですね
ええ、分かります

もこ霖の
友達以上恋人未満な雰囲気が
すごく好きです

欲を言えば
この後にけーねてんてーと
修羅場展開など……フフフ

No title

出会って間もない妹紅相手にもすぐさまフラグを立てる霖之助。商売の方も
これくらい上手くいけば良いのにね・・・ もう(フラグ)建築家の方が本職に
思えてきましたよ(笑)

ってか霖之助のことだから残念な結果に終わった商談があったら次は見返してやろう
と思うんじゃないですかね。そうなると必然的に永遠亭に行く回数が増えるわけで・・・
うん、永遠亭のみんなに幸運が訪れているじゃないですかwww

こういう恋人未満のふいんきも良いもんですね。
プロフィール

道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
フラグを立てる話がメインなのでお気を付けください。
同好の士は大ウェルカムだよね。
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