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離れていく時間を埋めるように

先日マスク・ド・SAGさんの誕生日だったらしいのですよ。
というわけでお祝いがてら絵にSSを付けさせていただきました。

誕生日まったく関係ない感じですが夏こそレティですよねってことでひとつ!


霖之助 レティ









 春と冬の境界はどこなのだろうか。
 火が消えたままのストーブを眺めながら、霖之助はそんなことを考えていた。

 吐く息は白いほどでもないが、上着が手放せるほど暖かくもない。
 暦の上での立春は過ぎたが冬服の出番はまだ続きそうな、そんなある日の昼下がり。


「暖かくなってきたわねぇ」


 しかし玄関のカウベルとともに響いたのは、霖之助の胸中とは逆の言葉だった。
 疲れた顔で振り返り……来訪者を確認して、ため息ひとつ。


「一週間前と比べてみれば、確かにそうかもしれないね。でもまだまだしばらく冷え込みそうだよ」
「あら、それでも十分暖かいわよ。冬にしては、ね」
「ふむ、雪女にとってはそうかもしれないが……」


 霖之助は肩を竦めると、雪女……レティの分のお茶を用意し、対面に腰を下ろした。
 先ほどまで彼が飲んでいたのと同じ温かい緑茶なのだが、彼女は何も言わずに笑顔で口を付ける。

 レティが手を触れた瞬間湯気が消えていた気がしたが……それはともかく。


「まったく、過ごしにくい季節が近づいて来たわ」
「あいにく僕は寒いのが苦手でね。暖かくなるのはむしろ歓迎すべきかな」
「いじわる」


 唇を尖らせながら、彼女は笑う。
 冬の妖怪である彼女は冬こそ幸せの季節であり、春は憂鬱の象徴なのだ。
 ……花粉症持ちということもその一因かもしれないが。


「そろそろ来る頃だと思ったよ」
「あら、ひょっとして期待していたのかしら」
「まさか」
「あらそう? でも今日はとても過ごしやすいわね、この店。暖房がついてないみたいだけど、どうしたの?」


 レティは楽しそうな瞳で、火の消えたストーブと霖之助を交互に見比べる。
 その視線を受け流しつつ、彼はゆっくりと首を振った。


「……ただの換気だよ。それに暖かくなってきたんだろう?」
「冬にしては、程度にね。知らないわよ、風邪引いても」
「僕は病気にはかかりにくい体質でね」
「かからないわけじゃないでしょう? もし風邪引いたら、私が膝枕して冷やしてあげようかしら」
「遠慮しておくよ。余計に悪化しそうだ」


 ため息をつきつつ、霖之助は湯飲みを傾けた。

 彼女は時折こうやって香霖堂に遊びにくることがあるが、別に暖かい店内だからと言って入ってこないわけではない。
 紅い館の吸血鬼が日傘で炎天下を散歩するくらいの、好みの問題らしい。
 ただやはり涼しいほうがいいらしく、今日のレティは上機嫌に見えた。

 そんな彼女を眺めながら、湯飲みのお茶を飲み干すと彼は腰を上げる。


「レティ、暇なら商品入れ替えを手伝ってくれないか」
「あら、珍しく商売人みたいな真似をするのね。どういう風の吹き回しかしら」
「換気ついてにちょうどよくてね。冬物を片付けて、春の商品に並べ替えようと思ってるんだ」
「雪女に春を売らせるなんて……」


 本当にひどい人、と笑いながら、彼女は頷く。


「いいわ、手伝ってあげる」
「ふむ、そうかい?」
「ええ、だってこのままだとあなた、私の相手してくれなそうだもの」


 拗ねたように呟きながら、レティも立ち上がった。
 トゲのある瞳と言葉は聞こえなかったことにして、霖之助は作業を開始する。


「とりあえず暖房器具の売れ行きが減ってきたから片付けようと思うんだ。
 僕がまとめるからその箱に詰めて……」
「捨てればいいのね?」
「違う、来年また売るためにしまいたいんだよ」
「埋めましょうか?」
「箱詰めして部屋の隅に置いてくれればいいから」


 最初のやりとりですでに疲れた表情を浮かべつつ、彼女に指示を送る霖之助。
 口ではいろいろと言いながらも、意外と素直にレティは作業を進めていた。

 作業は丁寧で、それでいて素早い。
 これで雪女じゃなかったら店員として勧誘していたかもしれないと、そんなことを考えてみる。


「ところでレティ、この洋服の柄はどちらが好みだい?」
「うーん、右の方かしら」
「わかった。じゃあこれはそっちの箱にしまっておいてくれ」
「それは何、そっちの方が冬っぽいってこと?」
「いやあ、君がいてくれて助かったよ」


 笑って誤魔化しつつ、レティの文句を受け流し。


「さて、こんなところかな」


 1時間もしないうちに、店内の冬物はあらかた片付いていた。
 ……元々季節に左右されるような商品は店の一部にしか置いていないという理由もあるが。


「あら、もういいのかしら? まだ残ってるみたいだけど」
「それはおいおいやるよ。まだまだ寒い日は続きそうだからね」
「ええ、そうね」


 霖之助の言葉に、レティはゆっくりと頷く。


「明日からまだ一週間くらいは寒い日が続くと思うわよ。春にしては、だけど」


 彼女は先ほど片付けた冬用の道具類を愛おしげに眺め……それから霖之助へと向き直った。


「次に会うのは、半年以上先の話かしら」
「…………」


 一歩、二歩とレティは霖之助の元へ歩み寄る。
 やがて息のかかる距離まで近づくと、彼女は少し身をかがめ、上目遣いに首を傾げた。


「残念?」
「寒い思いをしなくていいと考えれば、少し安心するね」


 その視線から逃れるように。
 本心を隠すように、霖之助は顔を逸らしてみせる。


「そうなの? 私は寂しいわ」


 レティはそんな彼の背中に回ると、そっと額を押しつけた。
 腕の下に手を入れ、軽く身体を引き寄せる。


離れていく時間を埋めるように


「このままあなたを連れて行ったら、ずっと一緒にいられるかしら」
「……やめてくれ、縁起でもない」
「ふふっ、もちろんやらないわよ」


 少しも恐れず肩を竦める彼に、レティは笑う。


「私は寒いのが大好きだけど、あなたのぬくもりも同じくらい好きだから……」


 それから彼女はゆるゆると息を吐き出した。
 この感覚を楽しむように。あるいは、惜しむように。


「だから、ね? 少しだけこのままでいさせて」


 霖之助は何も言わず、ただ彼女の吐息を感じていた。
 1年もせずにまた彼女はやってくる。
 長命な人妖にとってはそう長くもない時間。

 そのはずなのに。


「さっきも言ったけど、風邪引かないようにね。あなたを風邪にしていいのは私だけなんだから」
「……了解したよ。後半はともかく」
「夏場のかき氷はほどほどにしなさいね?」
「君は僕をなんだと思ってるんだ」
「浮気なんかしたら氷漬けにしちゃうから」
「まだ死にたくはないね」


 お互い表情が見えないままの、他愛もないやりとり。
 ふわふわとしたそれが押しつけられ、霖之助は気まずげに咳払いをしてみせる。
 それがわかっているのかいないのか、レティは少し顔を赤らめ笑みを浮かべた。


「……あったかい」
「雪女なのにかい?」
「だからこそ、よ」


 充電完了、と彼女は身体を離す。


「また冬が来たら、真っ先に遊びに来るわ」
「いつでも来るといい。うちは暖房がしっかりしてるからね」
「その時は雪だるま作って遊びましょうか」
「寒いのは苦手なんだよ」
「じゃあ大丈夫なように練習しておきなさい。霖ちゃんあっそびっましょーって、誘いに来るわ」
「やめてくれ、子供じゃないんだから」
「うふふ。じゃあ、私は行くね」


 にこやかな表情のまま、ふわりとレティは玄関へと移動した。
 まるで雪が溶けていくような感覚に……霖之助は思わず声を上げる。


「レティ」
「何かしら」
「バイト料を渡してなかったね。餞別……ではないが、これを持って行ってくれ」
「これってさっきの……?」


 先ほどレティの好みを聞いて服を入れた箱。
 それを風呂敷で包み、霖之助は彼女に手渡した。


「……次はこれを着てくるから、ちゃんと待っててね?」
「もちろんだよ、レティ」
「じゃあ……約束。雪女との約束は重要なんだから」


 最後に彼女は、そっと彼の首筋に唇を寄せた。
 そして彼女は最後の冬空に消える。


「約束、か」


 彼女が残したキスマークと、逢えない時間が愛を育てるのよ、という言葉に……。
 霖之助は深く、長いため息をつくのだった。

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非公開コメント

ーーああ、暑いなぁ。冬の話のはずなのに、熱々すぎて僕はもう!

途中の話聞かないレティも自由気ままで面白いです。霖之助のさりげない贈り物も良し!
霖之助だけに青い春を売るレティを早くですね!(バンバン

No title

この大人なやり取りが素晴らしすぎてもうね・・・(鼻血)
ところで春を売るとはどういった事なのでしょうか?そこんとこ詳しk(氷漬け)

No title

現実だとどんどん暖冬が進んで冬の期間が短くなっている気がします。しまいに冬という季節が忘れられて・・・ はっ!そうなればレティの独壇場じゃん!とか妄想してみたりwww

・・・レティの「春」は霖之助に売られることが決まっているんだろうなぁ(笑)

レティ霖は霖之助さんのツンデレ具合がマジでクリティカル
2828するぜ~しまくるぜ~www


ところでレティが香霖堂に春を売るというお話はまだかね?

No title

レティやチルノの話は胸が温まるのが多いという自説がまたも証明されてしまった。

やはり深く繋がってるオトナのプラトニックな恋人関係もいいものですねえ。
ラストは「そこはキスの先もやって思い出Hだろ!」とも思いましたがそれが要らないほどに深い仲。

きっと冬に帰ってきてもおかえりとただいまを言い合って、特別なこともなく冬の楽しい日常を過ごすのでしょうね。

No title

……レティの春を買う霖之助が見たいです(妄言

冬来たりなば――って春の方が良いみたいな言い方されてますけど、冬だってなかなか良いですよねぇ

No title

この二人のアダルトな感じ堪らないですね!

そういうわけなのでアダルトな人との話とか諸々を…

冬の話ということなのに
なんでしょうか、このHOT感は
さらに
二人の間に漂う大人の雰囲気が
非常にHOT感でムフフですね

レティ霖は他の組み合わせと比べて、
期間限定的なところが
儚く、純愛でありながらアダルティな
雰囲気を出していると思います
とても美味しい組み合わせですね

No title

別れと出会いを標準装備(?)したレティ霖は実に良い物です。
こんな時期にレティ霖が読めるとは予想外でございます。ヒャッホウ。
レティさんの好みで片づけというのもなかなか斬新ですが、レティさん本人もどれだけ暖房機を処分したいんですかw

堪能させていただきました。やっぱり、レティ霖はいいですよね。儚いが故に想いが募る、そんな深みがあると思います。

ところで、ここまで大人な雰囲気だと黒白と紅白が目撃してもなんか、引っ込んじゃうというか、一歩引きそうですよね。そしてそれが成長の糧になったりwww
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道草

Author:道草
霖之助がメインのSSサイト。
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