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地上の橋姫

そそわにアップしたパル霖。
ちょっとだけマイナーなカップリングって惹かれるよね。

香霖堂は外の世界と幻想郷を繋ぐ架け橋だもの(道具的な意味で)。
橋姫が居座ったっていいじゃない。


霖之助 パルスィ





 ――2日後の夜、香霖堂まで来られたし。


「なにこれ?」


 聞き返した時には、手紙を持ってきた少女はすでにいなくなっていた。

 無意識で動く彼女を一カ所に止めておくことは難しい。
 それに聞き返したところで、どのみち手紙の中身など読んでるはずもない。

 だがどういう経緯でこの手紙が自分のところに来たのか。
 何故自分なのか。
 どうやって彼女に頼んだのか。
 そもそも香霖堂とはどこなのか。


「まったく……妬ましいわね」


 疑問が次々と湧いて出て、パルスィはひとつため息を吐いた。







「いらっしゃい、待ってたよ。君が橋姫だね?」
「貴方が香霖堂?
 誰かを呼ぶ時は地図くらい付けるべきね」


 手紙には場所を示す言葉が魔法の森近く、としか書かれていなかった。
 そもそも魔法の森自体を知らないパルスィにわかるわけがない。
 偶然通りがかった地上の鬼に場所を教えて貰い、なんとか辿り着いたのだ。

 近くまで来ると建物自体はすぐにわかった。
 というより、この辺りにはこの建物しかない。
 道具が散乱してる店、と聞いていたからだろう。遠目からでも判断出来た。
 普段地下に住んでいるせいで、夜目は利くのだ。

 それに今日は星が多いため、明かりには困らなかった。

 そして店の前で待っている店主を見つけたのがつい先ほど、と言うわけだ。


「少し違うね。この店が香霖堂、外の道具を扱う古道具屋さ。
 僕は森近霖之助。地図については済まなかった。
 どうぞよろしく。見ての通り……わからないかもしれないが、妖怪と人間のハーフさ」
「そう。あまりよろしくするつもりはないけどね」


 不機嫌そうにパルスィは唇を尖らせる。
 霖之助は機嫌をとるように、店の裏手へと彼女を連れて歩く。

 そこは縁側になっており、ふたり分の酒宴の準備がされていた。


「しかしよく来てくれた。正直来てくれるとは思ってなかったんだが……」
「私も来る気はなかったわ。けど、宴会に参加するよりマシと思っただけよ」
「ほう?」
「地上と地下の入り口のところに住んでるからね。
 今日は地上の神社で宴会があるらしくて……そこに地下の鬼も行くって言うのよ。
 連れて行かれそうになったから逃げてきたわ」


 肩を竦めるパルスィに、霖之助は機嫌を取るかのように席を勧める。
 彼女の前にお猪口と徳利を差し出し……同意するように大きく頷いた。


「そうか、人の多いところが苦手なのか」
「だって妬ましいもの」


 事も無げにパルスィは言う。
 嫉妬するのに大した理由もいらない。
 ただ妬ましい。
 楽しそうなのが妬ましい。


「おっと、僕とした事がつまみも出さずに……。
 ゆっくりしてくれたまえ。ちょっと用意してこよう」
「ええ、好きにさせてもらうわ」


 霖之助が建物の中に入っていき、ひとりになったパルスィは大きく息を吐き出した。
 まったく……どうしてこんなところに来てしまったのか。

 程なくして霖之助が戻ってくる。
 彼はつまみを用意すると、自分のお猪口に酒を注ぎ空を見上げた。

 満天の星空。
 酒の肴にしてはありきたりで、雄大すぎる。


「それで?」
「うん?」
「わざわざ私を呼んだ理由よ。
 地下の妖怪が忌み嫌われているのは知ってるでしょう?」


 パルスィの言葉に、霖之助は首を振った。
 そんな事は些細な問題だ、と。
 そして空と彼女を交互に見て、笑う。


「ああ、今日は七夕だからね」
「……だから?」


 彼女の疑問に、霖之助は答える代わりに酒を注いだ。
 今度は自分とパルスィ、ふたり分。

 パルスィは答えを待ち、勧められるまま酒を口に運ぶ。


「話は変わるが、僕も人の多いところは苦手でね。
 出来る事なら酒は静かに呑みたいと常々思っている」
「…………」


 いきなり飛んだ話に、パルスィは酒を一口。
 地下にも会話の成り立たない連中は多い。
 解決策は簡単だ。
 身体でわからせてやればいい。

 剣呑な雰囲気を察したのか、霖之助は手を広げた。


「そう焦らなくても、すぐに終わるよ。
 ……君が言った通り、今日神社で宴会がある」
「そうね。今日は妬ましい七夕だものね」
「もし雨が降ったら……宴会は中止になり、愚痴を肴に酒を呑む事になっただろうね。
 おそらく、この香霖堂で」


 たぶんその時の相手とはパルスィも会った事のある巫女や魔法使いだろう。

 仲に妬む前に……心底困った表情の霖之助に、少しだけ同情。
 その心境はわからなくもない。
 パルスィのところにも、豪快な鬼がたまに酒を呑みにやってくるからだ。


「それで、どうして私なの?」
「君は橋姫だろう?」
「そうよ、それが七夕となんの関係が……まさか」


 霖之助は気が付いた様子の橋姫に、ひとつ頷く。


「そう、七夕とは織姫と彦星が一年に一度だけ会う事を許される日だ。
 天の川に橋を架けてね。
 もし雨が降れば天の川の水かさが増し、織姫は渡ることが出来なくなってしまう。
 そこで橋姫の出番というわけさ」
「……呆れた。橋の女神をてるてる坊主代わりにするなんて」
「だが効果はあったようだ。
 これでこそ静かな酒が呑めるというものだよ」


 霖之助は空に向かって乾杯するかのようにお猪口を掲げた。
 パルスィは彼の表情を見て……一言。


「……妬ましいわね」
「なにがだい?」
「いろいろ理由付けて、あの子たちが楽しみにしてる宴会が中止になるのをなんとかしようとしたってことでしょ?」
「まさか、買いかぶりすぎだよ」


 霖之助は表情を隠すように酒を呷る。


「ただ静かに酒が呑みたかっただけさ。
 こんなにも星が綺麗なんだから」


 色恋沙汰にかまけて職務放棄するような逸話はともかく。

 今日の天の川は格別だった。
 雲ひとつ無いのが誰かのおかげだとわかったら、無条件で感謝したくなるくらいに。


「妬ましい伝説はともかく、確かに綺麗よね」
「ああ、君のおかげだ」
「ふん、女神だもの。当然よ」
「なら堂々と宴会に参加すればいい。功労者として褒め称えてくれるよ」
「嫌よ。妬ましいもの。鬼女には寂れた店で十分だわ」
「やれやれ、ひどい言われようだな」


 橋の守護神と嫉妬の妖怪。
 まったく違った側面に、霖之助は興味を示した。


「しかし……君はずいぶん多くの顔を持つようだね」
「今更気が付いたの?
 女はいくつもの顔を持つのよ。それに……」


 ふたりの視線がぶつかる。
 お互いの感情を読み取ろうとするかのように。


「貴方だって似たようなものじゃない。
 欲望と嫉妬の塊みたいに見えるわ。まるで人間みたい」
「ああ、僕は人間だからね」
「でもその割りに落ち着いてるのは長く生きてるからかしら?
 人間には出来ない芸当ね」
「そう、僕は妖怪だからね」
「……まるでコウモリね」


 コウモリはハーフじゃないな、と少しずれた事を漏らす霖之助に、パルスィはそっと呟いた。


「でも、嫌いじゃないわよ。そういうの」


 不思議と居心地がいいのは、そのせいだろうか。

 彼から感じる貪欲さ。
 自分にないものを手に入れようとする、嫉妬に似た、けれども違う生き方。


 しばらく無言で酒を傾ける。
 星が少し動いた頃、おもむろに霖之助が口を開いた。


「さて、ここからは余談なんだが」
「なに?」


 霖之助が取り出したのは、大きな瓢箪だった。
 不思議と見覚えがある気がする。


「ここに鬼から借りてきた瓢箪がある」
「まさか、本物の伊吹瓢? よく借りられたわね」
「ああ……宴会の間なら酒が途切れる事がないだろうと言って、なんとかね。
 しかし痛い出費だった……。
 店の酒をごっそり持って行かれたよ」
「酒の量からすると足りないくらいじゃないかしら」


 パルスィの言葉に、その通りと頷く霖之助。
 単純な酒の量なら、どれだけ並べたところでこの瓢箪には敵わないだろう。


「その通り。この瓢箪は無限に酒が湧くという鬼の秘宝だよ。
 僕はいつかこれを調べてみたいと思っていてね。今日がその日というわけさ」
「えっと……」


 パルスィは口を開きかけ……やめた。
 昔地下の鬼から聞いた事がある。酒虫とか、そのあたりの話を。
 だが子供のような瞳で楽しそうに語る彼を邪魔するのは気が引けた。

 ……教えたところで嫉妬するような状況にはならないと思ったからだ。
 だからパルスィは黙っておく事にした。


「瓢箪というのは古来からいろいろと逸話のある道具でね。
 返事をすると吸い込まれたり、戦の縁起物として用いられたり。
 変わったところでは海を移動する瓢箪もあったと聞く」


 床に置かれた瓢箪は、長い年月を経た貫禄を醸し出していた。
 もし許可を得ずにこれを盗み出したりしたら……鬼は猛然と襲ってくるだろう。


「だから……何かあったら助けてくれとは言わないが、様子は見ていて欲しいんだ。
 ひょっとしたら壊れるかもしれない。酒が出なくなるかもしれない。
 どんな危険があるかもわからないわけだし……」
「ふ~ん……ってもしかして」


 話を聞くうちにピンときた。
 きてしまった。

 あまり辿り着きたくない答え。
 だが確固たる確信を持って言える。これで間違いないと。


「貴方。ねえ貴方。もしかして、なんだけど。
 『危ない橋を渡る』から私を呼んだわけじゃないでしょうね?
 本当は七夕の晴天祈願がもののついでで、宴会も酒もどうでもよくて、そっちが本命なんじゃ……」


 言った瞬間、霖之助の動きが止まったのをパルスィは見逃さなかった。
 本人に聞こえるように、これ見よがしに大きくため息。


「……そんなくだらない洒落のためにわざわざ地下から地上まで呼ばれたなんて……」


 ちくちく、ちくちくと。
 イヤミのような言葉のトゲを刺し、睨み付ける。

 まったく、呑まないとやってられない。
 霖之助の分の徳利も奪い、瓶に入ったままの酒も自分のものに。

 まだ固まっている霖之助に、パルスィはため息を吐いた。


「嫉妬する気も起きないわ」


 貪欲なのはけっこうだがいささか詰めが甘いのではないか。
 客商売をするにはいささか正直過ぎるのではないだろうか。
 本人は飄々としているつもりでも、顔に出るタイプだ。
 流行ってないように見えるこの店は、やはり流行っていないのだろう。
 おそらくこの男は自分のために商売をしているに違いない。

 出会ってからの短い時間で、パルスィはそう結論づけた。

 まあだからこそ、何となく居心地がいいのかもしれないが。


「……と、とにかく」


 しばらく固まっていた霖之助がようやく動き出した。

 やる気のないパルスィが見守る中、瓢箪をひっくり返し、覗き込む。
 振ってさすって温める。吸う……のは気が引けるが。

 酒を出そうと思えばいくらでも出る。
 見た目は小さな瓢箪なのだが……。


「うわっ」
「なによ……? あらら」


 つまみが無くなったので仕方なく星を見上げていたパルスィが見たものは、
いきなり瓢箪から酒が溢れ出て、濡れ鼠のようになった霖之助の姿だった。


「ぷっ……あはは」
「…………」
「なによそれ、なにやってるのよもう! 可笑しくて……もう……止まらないわ!」


 ひとしきり笑うパルスィに、憮然とした表情で霖之助は呟いた。


「……まあ、ひとつわかった事がある……」
「なに?」
「鬼の瓢箪からは、無限に酒が出ると言う事だ」


 周囲は酒浸しになっていた。
 所々水たまりならぬ酒だまりも出来てしまっている。

 縁側だったのが不幸中の幸いだった。
 店の中ならどうなっていた事か……。


「瓢箪の秘密なんて鬼に聞けばすぐ教えてくれると思うわよ」
「……だろうね。でも自分で調べたかったんだ」


 その代償は大きかったが。

 霖之助は濡れた服を気持ち悪げに絞る。
 女性の前だ。いきなり脱ぐわけにも行かない。


「いいじゃない、水もしたたる何とやらよ」
「……妬ましいかい?」
「いいえ全然」


 きっぱりと言い切るパルスィに、霖之助は力ない笑みを浮かべた。


「ああもう、こんなに笑ったのは久し振り。気に入ったわ、貴方」
「……どういたしまして」


 彼女は目に涙を浮かべて、楽しそうに微笑んでいた。
 こうしていると嫉妬の妖怪というのが嘘のようだ。


「ふふ、やっぱり妬ましいわ」
「そうかい?」
「ええ、私をこんな気分にさせる貴方が」


 ……褒められたのか微妙なところだ。
 いや、むしろ逆だろう。


「ふふふ。じゃあ、私はそろそろお暇するわ。
 土蜘蛛じゃないから、他人を病気にさせる趣味は無いしね。風邪引かないようにしなさいよ」
「あ、ああ」


 ひとしきり笑うと、本人が聞けば文句を言いそうな言葉とともに、パルスィは席を立った。
 霖之助は玄関まで一緒に歩く。
 歩くたびに酒が染みだして大変気持ち悪い。


「病気はともかく、確かに濡れたままじゃ身体に悪いね……。
 しかしせめて地下まで送って行こうか?」
「貴方に何が出来るのよ。
 それに宴会中だもの。普段より安全だわ」
「……それもそうか」


 彼女の言葉に、苦笑して頷く霖之助。
 そもそも彼女が危険に巻き込まれる原因など、巫女や魔法使いくらいしか考えられない。


「呼びつけた上に大したもてなしも出来なかったね」
「気にしなくていいわ。十分楽しませてもらったし」


 思い出して、再び笑うパルスィ。
 対して霖之助は苦い顔。


「今度暇な時に来るといい。今日の分もあわせて、歓迎するよ」
「誰もいない時ならね」
「……最長で次の七夕か」
「まるで織姫と彦星ね」
「それは……柄じゃないな」
「同感」


 ふたり同じタイミングで肩を竦める。


「まあ、あの神社で宴会なんていつでもやってるんだけどね」
「そう。なら……いつでも来られるわね」


 微笑むパルスィに、思わず見とれる霖之助。
 女はいくつの顔を持つ。
 ……どうやら本当の事らしい。


「ねえ、そのうち旧地獄へいらっしゃいよ。
 今度は私がもてなしてあげるわ……面白い事は出来ないけどね」
「勘弁してくれ……」
「……じゃあね」
「ああ」


 ――またおいで。
 ――また会いましょう。


 視線で会話し、ふたりは別れた。









「それにしても、居心地のいい店だったわね。何故かしら?」


 パルスィは地下の道を歩きながらひとり首を傾げた。

 あんな店に住んでるなんて……なんて妬ましい。
 人が少なくて静か……なんて妬ましい。
 ドジな店主……は、あんまり妬ましくない。


「そういえば」


 ふと立ち止まる。
 結局、何故地霊殿の娘と知り合いなのか聞くのを忘れていた。

 これは近いうちに確かめに行く必要がある。


「やっぱり妬ましいわ」


 ――自分をこんな気持ちにさせるなんて。


 何気なく付けた理由。
 ……深くは考えない事にした。

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