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ブンキシャ! 第06話

香霖堂に霖之助の幼馴染み、慧音がやってきた。
彼女が言うには、寺子屋で文々。新聞が人気らしいが……。

霖之助 文 阿求 慧音







「森近はいるか?」
「あら、慧音さん。まだ迎えには早いと思うんですけど」


 突然香霖堂の扉が開いたかと思うと、どこかであった会話が繰り返された。
 そこに立っていたのは上白沢慧音。半獣半人の人里の守護者である。


「結局その呼び方になったんですか。面白みがないですね」
「何の話だい?」
「いや、なんでもないぞ。それより、この店は本当にやる気があるのか?」


 彼女は誰も……客も店員もいない店内を見渡し、呆れた声を出した。


「客が来たら相手をするよ。いらっしゃい……慧音か。久しぶり」
「ああ、私こそ……」


 居間で作業をしていた霖之助が慧音に挨拶をする。
 挨拶はすべての基本だと思う慧音だったが、上手く言葉にならずもどかしそうに霖之助を見つめていた。


「……いきなりふたりの世界ですか?」
「いや、今日はちゃんとした用事だ。他の皆にも関係がある」


 大きく咳払い。
 少しは落ち着いたらしい。


「用事、ですか」


 慧音の言葉に、文と阿求、そして魔理沙が顔を出した。


「へえ、私たちにもとは珍しいですね」


 文が興味深そうに慧音を見る。
 人間好きな頭の固いこの守護者が妖怪に用事とは、きっと何かあるのだろう。
 そう言った文の手には、いつも通り文花帖が握られていた。


「何だ、面倒ごとはごめんだぜ」


 いつもは面倒ごとに率先して首を突っ込んでいるはずの魔理沙は今、霖之助から原稿チェックを受けていたところだ。
 せっかくの機会を邪魔され、少々不機嫌になっていた。


「いや、手間はない。時間はかかるがな」
「なんですか?」


 もったい付けるのが彼女の悪い癖だ、と阿求は思う。
 一体誰の教育のせいでこうなったのやら。


「ちょっと前から、寺子屋の教育に文々。新聞を取り入れててな」
「ああ、そう言えばそんなことも言ってましたね」
「それで、新聞を使った授業が好評だから是非見に来てほしい」
「いいですね、私も是非見たいです」


 文は目を輝かせた。
 不遇の時代が長かったせいだろう。
 文々。新聞が活用されているという話を聞けば見に行かずにはいられなかった。


「人里か……」


 霖之助は呟き、魔理沙を見る。
 激しく首を横に振っていた。


「そうか……魔理沙には是非来て貰いたかったが……」


 それを見て、慧音は妙に残念そうにため息を吐く。


「私を連れ戻そうとしたって無駄だぜ」
「そうではないんだが……仕方ない」
「私たちがしっかり見てくるから大丈夫ですよ」
「ええ、その通りです」


 文と阿求は霖之助の両腕を取り、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
 霖之助からは見えない角度で。


「くっ……」
「あ……」
「ん、何か言ったかい? 慧音」
「……なんでもない」


 拗ねたようにそっぽを向く慧音。
 原因がわからなかったので、霖之助は話を進めることにした。


「じゃあ他に寺子屋に行くのは……そうだ、アリスとパチュリーは」
「考えるまでもないでしょう」
「そうですね」
「そうだな」


 魔理沙が行かないのなら、聞くまでもないだろう。
 ちょうどアリスは魔理沙の服にかかりきりで、パチュリーは人気の出る占いを占っているはずだ。
 邪魔しても悪い。


「早苗は……」
「いや、それはいい」


 今度は慧音が首を横に振った。


「……そうか。じゃあ、3人で行くことにしよう」
「あ……ああ、そうだな。そうするがいい」
「なんか、私たちには来てほしくなさそうですね」
「いや、そんなことはない」


 そんなことはないのは本当だった。
 ただ、霖之助の両腕を抱えたままの文と阿求が気になって仕方がないだけで。


「里に行くなら準備してくるよ。しばらく待っていてくれ。
 魔理沙、居てもいいが商品は持って行くなよ」
「ああ、わかってるぜ」


 そう言うと霖之助は居間に戻っていった。
 後に残された文は、阿求にそっと耳打ちする。


「そういえば、人里の守護者と霖之助さんはお知り合いなんですか?」
「いわゆる幼馴染みというやつです。話しませんでしたっけ?」
「いえ……初耳です」
「そしてそのふたりの上に立つのが私」
「そこまでは聞いてません。そうですか、要注意ですね」


 偉そうに胸を張る阿求を無視して、文は慧音に強い視線を送った。



     ☆



「じゃあ、今日も授業を始めるぞ。席に着いてくれ」


 慧音の号令で、10人くらいの生徒が思い思いの席に座る。
 年齢も性別もばらばらだった。
 寺子屋に来る生徒はある程度余裕があるか、
もしくは両親が忙しく、家に置いておけないような家庭なので仕方が無いとも言える。
 それでも寺子屋に生徒が来ること自体が嬉しいのか、慧音は至極上機嫌だった。

 霖之助たちは授業風景を見るため、後ろの方に並んで座る。
 すると阿求ちゃんだ、と声がかかった。
 同じくらいの歳の女の子……たぶん知り合いだろう。
 何故阿求が授業を受ける側ではなく見学する方なのか、気になっている様子だった。


「ほらそこ、よそ見しない。じゃあ、前回の続きからだな」


 ひと声かけると、歴史の授業が開始される。

 慧音の授業中は、大半の生徒は眠そうだった
 話していることが堅苦しくて難解というせいもあるのだろう。

 今日は見学が居るから居眠りしている生徒は居ないが、これがいつもならどうだろうか。
 ちょっとだけ霖之助は不安になった。




「今回はここまで。各自復習しておくように」


 やがて一通り終わったのか、休憩時間に入る。
 生徒のほとんどが力尽きたように突っ伏したのは……見なかったことにした。


「待たせたな。次から新聞の授業に入る」
「歴史を教えてるんだな」


 生徒たちを気にしながら近寄ってきた慧音に、霖之助は感心したように頷いた。

 そう言えば文々。新聞の昔の記事で見たことがあるような気がする。
 幻想郷縁起の方かもしれないが。


「歴史と読み書きを、な」
「あの歴史は稗田家が提供してるんですよ」


 阿求が得意げに笑う。
 その隣に視線を移すと……。


「文?」
「はいっ! 寝てませんよ。締め切りには間に合います!」
「寝てましたね」
「寝てたな」
「ああ、寝てた」
「……いやあ、人間の歴史というものにどうも興味が……」


 千年ほどの時間を生きている文にとっては、歴史とは自分の記憶である。
 そもそも稗田家の歴史に匹敵する時間を生きているのだから仕方ない。


「それにしても年齢も性別もばらばら……非効率的ですね。
 同じように教えて同じように理解できるとはとても思えませんが」
「そう言うな。人間は忙しいんだ」


 寝ていた割に痛いところを突いてくる文に、慧音は苦々しい表情で答えた。


「それにそういう環境だから学ぶことも……おっと、もう休憩も終わりだな」


 なんだか休憩中にちょっと人が増えた気がする。
 慧音は再び皆の前に行き、号令をかけた。


「はい、じゃあ今日も新聞を読むぞー。
 あそこにこれを作っている人たちが居るからあとで感謝しておくように」
「あやややや」


 一斉に生徒の視線に晒され、照れる文。
 対して阿求は平然とした顔をしていた。慣れているのだろうか。

 そして霖之助は……やはり緊張していた。




 慧音が教材にしたのは、4号前の文々。新聞。
 皆で読み回し、意見を交換する。よく使われる漢字を教えるのも忘れない。
 大きい子が小さい子に読み聞かせたり、ある程度は自由にやらせているようだ。


「あやや、自分の書いたところを朗読されるのはさすがに恥ずかしいですね」
「この回は大変でしたよねえ。魔理沙さんの取材が遅れて……」
「ああ、うん、そうだな……」


 霖之助はショックを受けていた。
 霖之助の記事を聞かされた生徒は、慧音の授業と同じ反応をしていたのだ。

 子供向けな記事を書いているわけではない。
 だから仕方ないのだ。
 叡智を持つ大人が嗜み程度に眺めてくれればいいのだ。

 頭でそう思っていても、やはり目の前の光景は心に来るものがあった。




「今日はこれで終わりだ。みんな、気をつけて帰るように」


 授業が終わると、慧音は生徒一人一人を見送った。
 あと寺子屋に残っているのは慧音、霖之助、文と阿求の4人。
 手早く使った教材を片付けると、4人分のお茶を用意して席を囲む。


「見てもらったように、この時間のためにやってくる子供もいるんだ」
「それは何というか……照れますね」


 文の顔が紅くなる。


「稗田の歴史書もいい物なんですけどね……」


 阿求はちょっと不機嫌だ。


「皆が皆、新聞を読めるというわけではないからな」
「あまり平仮名ばかり使うわけにも行きませんからねぇ」
「それは仕方ない。だからこそ需要があるのだしな。
 寺子屋に来る子供に一番人気なのは魔理沙の記事なのだが……」


 慧音はやや残念そうな表情を浮かべた。
 それで魔理沙に来てほしがってたのかもしれない。


「全部の記事を読むわけではないようだね」
「……ああ。子供たちに聞かせるにはその……山の神の記事は少々独特すぎてな」


 言葉を選びながら答える慧音。
 文に配慮しているのだろう。


「それにしても皆さん、前半は眠そうでしたねぇ。かくいう私も寝てましたけど」
「やはり私の授業はつまらないんだな……」


 と、そんな配慮もどこ吹く風。
 文の言葉に慧音は肩を落とした。
 そんな彼女を、優しく包む影ひとつ。


「慧音」
「……なんだ?」
「特訓しよう」


 霖之助は妙にやる気を出していた。
 堅苦しく難解と評判の慧音の授業と自分の記事が同じような評価だったのだ。

 慧音ほどではないが霖之助も気落ちしていた。
 表面にこそ出さないが。


「僕たちには同じものを感じるんだ」
「森近……ああ、そう言ってくれると思っていた」
「僕と慧音の仲じゃないか」
「そうだな。うん、その通りだ」


 そして考えが表面に出ないからこそ、彼の言葉にしきりに頷く慧音。


「霖之助さんが妙にやる気ですね……」
「慧音さんの生徒は慧音さんを慕って寺子屋に来ているんですから、今のままで良いと思いますけどね」


 そんなふたりを見て、文と阿求はジト目で睨み付ける。


「ありがとう……だけど先日私も考えたんだ。
 ほら、薬売りの兎が来るだろう。よくわからないことを言うと評判の」
「ああ、永遠亭の」
「妖怪兎ですか。何度か取材したことありますよ」
「子供たちにはやはり怪我が絶えないからな。置き薬を買っているんだが……。
 必要な道具だとわかっていても、説明を一方的に捲し立てられているだけでは退屈で仕方がない」
「ええ、わかりますわかります」
「用法用量を守って、ってやつですね。書いてあるから見ればわかるんですけど」
「そんなものかな」


 霖之助は首を傾げ、少し考えるが……なるほど、外の道具ならともかく薬にはそれほど思考が広がらない。
 薬はただ目的のために存在し、想像の余地がないのだ。
 よっぽど変わったものでもない限り……それこそ、蓬莱の薬のような。


「やはり歩み寄る努力をしなければならない、そう思うんだ」
「立派な考えだと思うよ、慧音」


 霖之助はしきりに頷き、慧音の手を取った。
 そしてふたり揃って頭を下げる。


「と言うわけでお願いします、阿求先生」
「……まあ、こうなることは予想できましたけどね」



     ☆



「読みやすい文体なら、魔理沙さんで練習してたんじゃないですか?」
「僕が知りたかったのは考え方さ。物事を多方向から見られるのはそれだけで武器だからね」


 文の質問に、霖之助はさらりと答えた。
 決して対抗心で学びたくなったわけではないのだ。決して。


「いやしかし今日は勉強になった。礼を言う」
「僕もだ。ありがとう阿求」
「感謝されるのも悪い気分じゃないですね」
「霖之助さんが素直に礼を言ってるのも不思議な光景ですけど」


 阿求の講義を受けていたらいつの間にか夜になっていた。

 文は暇だったため、途中待っている間に魔理沙の原稿を確認しに行ったのだが……。
 ……アリスとパチュリーに手取り足取り教えてもらっていたようなので、明日には出来ているだろう。


「失礼だな、僕は自分より上の人物には素直に頭を下げるよ。
 長いものには巻かれたいタチだからね」
「ふふ、変わらないな」


 慧音の笑いに、文は文花帖を取り出す。


「そう言えばおふたりは幼馴染みだとか。もうちょっと詳しいところを教えてくれませんか?」
「詳しいところって……何故?」
「そこはほら、敵を知り己を知れば何とやらってやつで」
「別に特別なことはないぞ?」


 首を捻る霖之助を無視して、慧音は文に振り向いた。


「成人するくらいまではふたりで稗田の家に世話になって」
「はい、世話しました」
「それから別々のところに修行に出されたから……」


 そして修行に出てすぐ、8代目の阿礼乙女が転生したことを聞かされた。
 世話になったというのに死に目にも会えなかったのだ。

 あれは考えてのことだったのだろうか。
 霖之助は御阿礼の子が転生したことを聞きつけ、何度も文句を言おうと思ったが……。


「どうしました?」


 阿求を見るとなにも言えなくなる。


「いや、なんでも。そうだな、あれから10年ずつくらいの期間で僕はいろいろなところに修行に出たのさ」


 そのおかげでいろいろ作れるようになった。
 それはもう、節操なく。
 半妖という性質上見た目がほとんど変化しないため、ひとつのところに居られる限度が10年だったこともある。
 それでも、稗田の紹介だというとどこも受け入れてくれた。

 こればかりは感謝してもしきれることではない。


「最後に霧雨家で道具屋の修行して、今に至るというわけさ。
 慧音の方は、ずっと人里で努力していたみたいだけど」



 そう言って眩しそうに慧音を見る霖之助。
 ただならぬ雰囲気を感じたのか、文と阿求はますます警戒を強めた。


「まあ……な。とにかくお互い忙しくてまともに会うのは久しぶりなんだ」


 たまに会っても、客と店員だったり道端で忙しそうにしているのを見かけたりで、
ゆっくり話せたことなど無かった気がする。
 もっとも香霖堂はいつでも暇だったのだから、慧音が会いに行けばいつでも会えたのだが。


「ふむふむなるほど」
「どうだ。言った通り、別に特別なことは何も……」


 そこで慧音は言葉を詰まらせる。


「何もなかったんだなあ……」


 しみじみと呟いた。


「どう思います? 阿求さん」
「幼馴染み以上の関係にあることは間違いないみたいですね。進展はしてなさそうですけど。
 どうします? 文さん」


 ふたりは顔を見合わせ、頷く。


「それでだ、霖之助。今晩久しぶりに一緒に食事でも……」
「ごめんなさいね、慧音さん。私たち、まだ仕事があるんですよ」
「そう言うことです。行きましょうか、霖之助さん」
「そ、そうだったか?」
「そうなんです。では慧音さん、また今度ー」


 阿求と文が霖之助を連れ去っていく。
 あとにはぽつんと慧音だけが残されていた。


「ああ……また、な」









「置き薬の追加ですか?」
「ああそうだ。知り合いの店主が欲しがっていてな」
「知り合い?」
「ああ、香霖堂なんだが……」


 何故か照れた様子の慧音に、その妖怪兎は理由がわからず首を傾げた。
 つられてその頭の上の大きな耳が揺れる。


「でもあそこ、半妖の自分には不要だって言ってましたけど。
 ……だけど人間用の薬をいくつか買ったことはあったかな?」
「最近は状況が変わったんだ」
「状況、ですか。まさか人が集まるようになったとか?」


 言って、そんなはずはないだろうと考え直す妖怪兎。
 こういう言い方をするとすごく失礼だが、あの店主からは師匠の姫並に働く意欲というものが感じられなかった。
 もしそれが変わるというのなら……。


「とにかく、一度行ってみてくれ」
「わかりました。師匠に伝えておきます」

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